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うわぁ……第13話、重い……!😭 青鱗が蒲菜のスープを「少しだけ嫌だと思った」ところ、あの静かな罪悪感が刺さりました。そして清帝と男の対峙。「俺は許さない」「受ける」――短い言葉なのに、どっちも逃げない覚悟が伝わってきて鳥肌……。憎み続けることも、それを受け止めることも、どっちも愛の裏返しなんだなって。次の展開が気になりすぎます…!
水庭を離れ、天灯食堂へ戻る途中だった。
すれ違いざま、青鱗はふと足を緩めた。
妙に、腹の奥を刺激する香りがした。
青臭く、淡く、水気を含んだ匂い。
どこかで知っている。
思わず振り向く。
二人の男が、青鱗とは反対の方向へ歩きながら話していた。
「お前、まだ気にしてんの?」
「気にするだろ。やっと一人前に伸びたところだったんだぞ」
「何の話だよ」
「生前」
男は不満そうに言った。
「俺、蒲菜だったんだよ」
青鱗の足が止まった。
「ようやく葉も伸びて、これからってところで人間に刈られた。あれは本当に悔しかった」
「植物でもそういうのあるんだな」
「あるに決まってんだろ」
二人の声が、少しずつ遠ざかっていく。
「それなのに最近、天灯食堂で蒲菜のスープ、よく見るんだよな」
「食えば?」
「絶対食わねえ」
「うまいらしいぞ」
「だから余計嫌なんだよ」
笑い声が遠ざかり、やがて聞こえなくなった。
青鱗は、その場に立っていた。
蒲菜。
澄んだ湯。
白い豆腐。
淡い青さを残した若い茎。
匙ですくった時の、柔らかな香り。
――悪くない。
自分は、そう思っていた。
何度も選んだ。
むしろ、気に入っていた。
男が残していった香りは、まだ空気の中にわずかに漂っている。
やはり、心地よい香りだった。
青鱗はそのことを、今度は少しだけ嫌だと思った。
食堂の入口には、今日も献立札が出ていた。
その端に、小さく蒲菜の文字がある。
青鱗はしばらくそれを見てから、何も言わずに目を逸らした。
*
水庭で青鱗と別れた後、清帝は回廊を歩いていた。
水の音はもう遠い。だが、青鱗の言葉はまだ耳に残っている。
魚は、美しいだけでは生きられない。
王も、そうであった。
その言葉を胸の内で確かめた時、回廊の先で声がした。
「――見つけたぞ」
清帝は足を止めた。
一人の男が立っていた。こちらへ来て間もない者がまとう、簡素な衣。痩せた頬。燃えるような目。
清帝は、その目に覚えがあった。
北の倉を巡る騒乱。飢えた民。檄文を掲げ、人を集めた男。
そして、処刑の朱印。
「お前だ」
男は低く言った。
「俺を斬った皇帝」
清帝は男を見た。
「覚えている」
「なぜだ、なぜ斬った」
「そなたの訴えには、正しい部分があった」
男の顔が歪んだ。
「なら」
「だが、そなたの檄は火になった」
清帝は静かに言った。
「三つの州で兵が動きかけた。倉を開く前に倉が焼かれれば、飢えた民はさらに死ぬ。官を裁く前に州城が落ちれば、罪なき者まで巻き込まれる」
男の手が震えた。
「だから俺を斬ったのか」
「国を割る火種として扱った」
「人ではなく」
清帝は答えなかった。
男は低く笑った。
「そうだろうな。お前らはいつもそうだ。国、秩序、民、治水、飢え。大きい言葉の下に、人の顔を埋める」
男は自分の喉に手を当てた。
「お前にとって俺は、国を守るために落とす首だった。だが俺にとっては、この首一つで全部だった。妻の夫で、子の父で、母の息子だった」
清帝は何も言わなかった。
「返せ」
男は叫んだ。
「俺の家を返せ。俺の名を返せ。俺の子が背負った恥を返せ」
次の瞬間、男は清帝へ殴りかかった。
周囲の者たちが動いた。数人が男の腕を掴み、見回りの者が間に入る。男は暴れ、なおも清帝へ手を伸ばした。
「離せ!一度でいいから殴らせろ!」
清帝は動かなかった。
「傷つけるな」
見回りの者へ向けた声は低かった。
男は押さえられながら吼えた。
「俺を斬った時は、傷つけるななどと言わなかっただろう!」
清帝の目が、わずかに揺れた。
男はそれを見て、ひどく歪んだ笑みを浮かべた。
「今さら人の顔をするな。血も涙もない皇帝のままでいろ。その方が、まだ憎みやすい」
清帝は静かに男を見た。
「余を憎め」
男の動きが止まった。
「余は、あの日の裁きを取り消さぬ。だが、そなたの怒りを誤りとも言わぬ」
男の顔が崩れた。
「俺は許さない」
「そうであろう」
「死んでも、俺はお前を許さない」
「受ける」
男はもう一度暴れた。
見回りの者たちは、男を傷つけぬよう慎重に押さえながら、回廊の外へ連れていった。
男の声が、角の向こうへ消えていく。
俺は許さない。
その声の余韻だけが、しばらく回廊に残っていた。