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それから2日後。
千夏との約束の日。
あの調査票に書いてあった、女子大生がアルバイトをしてるカフェにやってきた。
店内は広くゆったりしていて、若い女の子たちがスィーツの写真を撮ったり、カップルがおでこをつきあわせておしゃべりしたりしてる。
「子どもたち、預けてきてよかったね。どこに座る?」
後ろから声をかけてきた千夏は、約束の時間ピッタリに現れた。
「なかなか、おしゃれなお店だね。テラス席にしようか?その方が話やすそうだし」
「そうしよ、気持ちいい天気だし」
もしかしたら、これから修羅場になるかもしれないのに呑気な会話をしてしまう。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
ショートカットの女の子が、お水とおしぼりを持ってきた。
「んー、クリームソーダと何にする?」
「私はアイスミルクティーで」
「かしこまりました」
頭を下げて戻っていく。
「あの子じゃないよね?」
「うん、髪が長かったから」
「名前はなんだっけ?」
「ちょっと待ってね」
千夏はあの興信所の封筒から資料を出した。
「寺崎絵梨奈、写真はこれね」
髪は栗色でセミロング、肌が白く瞳は茶色で大きくまつ毛は長い、唇はちんまりピンク色。
読者モデルでもやっているかのように、整っている。
「カラコンとまつ毛のエクステだろうけど。
どうして男ってこんな盛った女の子に弱いんだろ?」
「そうだね。でも私もイケメンのホストとかいたらヤバいかも?」
「綾菜ちゃん、そんなこと考えてるように見えないけど」
「単純に、雑誌で見るモデルとかに憧れるって感覚だよ。大金払ってどうこうしたいのとは違うから。そんなお金ないし」
「お待たせしました」
千夏のクリームソーダと私のアイスミルクティーが運ばれてきた。
「あ、ねぇ、あの子じゃない?」
すぐそばのテーブルを片付けていた店員の名札を見た。
ローマ字でTeraとだけ書いてある。
寺崎の寺、店員の名前も個人情報扱いということなんだろうか?
「あの、ちょっと…」
手を上げてその子をテーブルに呼んだ。
「はい、お待たせしました、なんでしょうか?」
ニコッと笑う顔がまた可愛い、悔しいけど。
職業柄なのか笑顔にとても慣れているように見える。
「失礼ですけど、あなた寺崎絵梨奈さん?」
「え?」
少し驚いた様子だったが、テーブルに置かれた興信所の封筒を見て、何かを察した様子の絵梨奈。
「あと15分ほどで仕事が終わりますので、しばらくお待ちいただけますか?」
落ち着いて、ほとんど笑顔も崩さず答える21歳の女子大生。
「わかりました。逃げたりしないでね」
さらに笑顔で答える千夏。
「では、のちほど」
それだけ言うと、また笑顔で戻っていく絵梨奈。
「なに、あの子!すごい度胸してるじゃない?」
ついつい声が大きくなってしまう。
「だよね?私もそう思った、これ普通だったら修羅場になるとこなのに、ちっとも悪びれてないし」
「その封筒見ただけで、不倫相手の妻が来たってわかったみたい。それも、慣れてる感じがしたし」
「千夏さん、どう話をつけるつもり?」
「…それが、今のあの子の態度を見て、どうしようか考え直してる。まずは、うちの夫に対する気持ちも確認したいし」
パパ活してる子って、みんなあんな感じなのかしら?なんて話をしていたら、私服に着替えた絵梨奈が私と千夏のテーブルにやってきた。
その手にはオレンジジュースがあった。
「すみません、遅くなりました。私も喉が渇いたので失礼して飲み物を持ってきました」
「あー、まぁ、そんなに待ってないし」
まるで友達の待ち合わせに来たような気軽さで話しかけられて、調子が狂う。
「改めまして寺崎絵梨奈です。ご用件というのは…えっと、どちらでしょうか?」
「用事があるのは私、斎藤の妻です。こっちは友達」
千夏はかるく右手を上げて自己紹介して、私はぺこりと頭を下げる。
「あ、斎藤さんですか?ご用件は?」
「わかるよね?こんな封筒持ってきてるんだから!」
千夏は、あまりにも普通に聞かれたからかイラついたように興信所の封筒を見せる。
「お付き合い…のことですよね?」
「そう!うちの夫とは、どういうつもりでお付き合い?してるの?」
「どういう…そうですね、美味しいご飯に連れて行ってもらったり、可愛いものを買ってもらったりして、楽しくさせてもらってます」
「はぁ?よその夫とそんなことしたら、世間では不倫というのよ、21にもなってそんなこともわからないの?」
「ちょっと、千夏さん、落ち着いて、ね!」