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鼻息が荒くなった千夏にお水を飲ませて落ち着かせる。
「あの、私、斎藤さんと食事したりしてるだけで、それ以上は何もしていませんよ」
「でも、一緒に外泊してるよね?」
「あー、あれですか?どうしても私に見せたい景色があるとか言って連れて行ってもらいましたけど、お天気が悪くてダメでした」
オレンジジュースをごくごく飲み干す。
「ほら!外泊してるじゃん!何もなかったとは言わせないわよ!」
「え?私と斎藤さんの間にですか?なにもないですよ。お部屋は空いてなかったとかで仕方なくツインのお部屋でしたけど」
「それが信じられないの、普通、男女が一緒に泊まったらそういうことになるでしょ?」
んーと考えてるのは絵梨奈。
「それが普通だとしたら、私と斎藤さんは普通じゃないのかもしれませんが。私、美味しいものや可愛いもの、楽しいおしゃべりは大好きで、そういうことを提供してくれる男性は何人もいますよ。斎藤さんもその一人です」
「それ、パパ活っていうんじゃないの?」
「一緒に食事したりするのがメインで、それ以上のことはありませんよ。当然、お小遣いなるものもいただいておりません」
よく聞くパパ活とは違うということなのだろうか。
「でも、既婚者と外泊したら何もなかったとしても不倫だと言われるよね?」
千夏もパパ活という言葉から、不倫に変えていた。
小遣いはもらってないと絵梨奈が言ったからだろう。
「そうなんですか?食事やちょっとしたプレゼントでもそうなるんですか?ましてや、私には斎藤さんに対する特別な感情はありませんけど」
「は?」
「たとえるなら職場の先輩に食事をおごってもらってるような?」
「でっ、でもそれでもうちの夫が一方的に金銭的に出してるってことよね?」
「目に見えるやり取りだと、そうですけど。ギブアンドテイクですよ。お金を出してもらう代わりに私は楽しい時間を斎藤さんに過ごしてもらってます」
「だから、そこに体の関係があるんじゃないの?」
「ありません!絶対に」
「その証拠は?」
「価値ですよ、斎藤さんと寝てしまったら私の価値が下がります」
「は?」
「私は高嶺の花をやってるんですよ。なんか昔のドラマで見たことあるんですけど、たしか…女の価値は男の数!でしたよね?」
「何言ってるの?」
「二次元の世界の女の子に夢中になる男性もいますけど、私はそれを三次元でやってるんです。お小遣いが欲しいわけじゃないですよ。私のためにお金をつかってくれる男性が何人いるか?それがどんな男性か?斎藤さんは一流企業の営業マンでしたし。それが女としてのステータスですね」
「その感覚がよくわからないんだけど…」
私も口を出す。
「価値観はそれぞれなので、理解してもらわなくてもいいです。でも…」
「でも?」
「奥様にご不快な思いをさせてしまったことは、謝罪します。斎藤さんには、こちらからお断りをしておきますので、もうお会いすることも連絡を取ることもありませんので」
「ホントに?」
「ええ。それから奥様がいらしてこの話をしたことは、斎藤さんには一切お話しませんのでご心配なく。どんな理由であれ、奥様に嫌な思いをさせてしまうことはルール違反ですから」
あれ?なんか想像してたのと違う。
「ちょっと聞いてもいい?」
私は絵梨奈に聞きたいことがあった。
「斎藤さんの他にも何人かそういう男性がいるって言ってたけど、こんなふうに奥様が乗り込んでくることってあるんじゃないの?」
「斎藤さんで二人目です、そんなにないです。反対に奥様のほうから、うちの夫の相手をお願いと言われることもあります」
「ちょっと、それ、どういうこと?」
「奥様は、ご主人に自分ではない誰かに目を向けさせてそのあいだにご自分もご主人以外の誰かと…という考えの人もいます。私のような女は、体の関係は持たないし小遣いは必要ないですから、ご主人にあてがうにはちょうどいいのかもしれません」
需要と供給のバランスが取れているということか。
「へぇ!そんなことあるんだ。あともう一つ!そんなふうに自分に好意を持つ男性と2人きりになると、襲われたりしないの?」
「そんな場所に行かない、そんな雰囲気にしないと気をつけてますし、個人情報も出しません」
「でもあなた、うちのと一泊したじゃない?」
「そうよ、危ないでしょ?」
「そのことに関しては、これは…奥様に話していいのかどうか…」
話しにくそうにしている絵梨奈。
「もうここまで話したんだから、話してよ」
「そうですね。私から聞いたとは斎藤さんには…」
「言わないわよ、そもそもここに来たことも話すつもりないし」
「ご主人、今できなくなってるみたいです、それを悩んでました。なので泊まったとしても大丈夫かなと。もちろん、何もしないと約束も取り付けてましたけど」
千夏の動きが止まった。
何かを思い出しているのだろうか?
「それって、いつからかわかる?」
「いつ、とはハッキリ聞いてませんが、奥様がお母さんになったから、とか言ってました。仕事のストレスもあったようですが」
「そう…」
絵梨奈はスマホを開いた。
『もうお会いすることはできません。お元気でお過ごしください』
と、文字を打ち
「これで終わりです」とスマホを閉じた。
そして目の前で斎藤というデータを全て削除した。
「アドレス帳に登録してある人以外は拒否することにしてあるので。それじゃ、私はこれで」
絵梨奈はそう言うと、さっさと帰って行った。