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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

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雫 -SIZUKU- ~星霜夢幻ーー“Emperor the Requiem”~

123 - 第123話 急 最終決戦⑧ 宇宙に於ける物理法則外の力

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2025年07月26日

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ユキはーー宙に居た。否、顕れた。その背中からは、眩いばかりに輝く銀麗の大翼が。これが空中を浮かぶ事を可能にしていたのは一目瞭然。



その余りの神々しさは、凡そ生体という枠を超え、目視しているだけで意識を失ってしまいそうな程の神気を放っていた。



「ユ……キ?」



アミはその姿に涙が零れる。それは彼が無事だったーー生きていた、という意味だけではない。



「ユキ? 何で……成長してるの?」



疑問を乗せたミオの呟き。彼女がーー皆が疑問に思ったのは、何もユキに翼があるだけではないから。



ーーユキの姿は、成長した“青年”の姿そのものだった。それは余りにも容姿端麗かつ幻想的で、誰もが見惚れるだろう精悍さ。



何より、銀と金が二つに別つーー“ノクティスと同様”のヘテロクロミア(金銀妖眼)が、一際目を惹いた。



「う、美しい……」



その幻想的な姿を恍惚の表情で、放心した様にノクティスは呟く。



誰もがユキの姿に目が離せない中、ハルだけは彼の姿に於ける“事実と真相”に心底驚愕する。



“成長したーーいや、そんな生易しいものではない”



紐解く程にハルの悪寒と冷汗は止まらない。



“彼は本来到達する未来の時間ーー到達するだろう未来の自分を、強制的に今へ持って来たのだ。だとすると、今の彼はーー”



サーモの数値が示す様、ユキの存在は完全に“物理法則外”に在るという事。ハルの危惧は、それが“大気圏内で存在しているという事実”にあるのだ。



それがどういう事を意味するのか。彼とーー同じ存在であるノクティス以外は知るよしもない。



ーー“青年の姿”をしたユキはゆっくりと地へと降り立ち、それと同時に銀麗の大翼も淡く薄れて消えていく。これは物体というよりは、得体の知れない別次元の“何か”。



「…………」



ユキはその金銀妖眼を以て、辺りを見回した。自身の感覚もーー視覚も超越した世界。



“今なら分かるーー世界の全てが。宇宙の真理すらも……。これが“外”に在る者の世界ーー”



ユキは実感していた。目の前に居るノクティスと同様、物理法則外に在る者として。



“だが、少々急がねばならない。これは完全にこの宇宙に在ってはならない、生命体には過ぎた域。最期に延長されたボーナスタイムのようなものーー”



ユキは己を見詰めるアミを一度だけ見詰め返し、彼女へ向けて慈しむ様な微笑を浮かべながら、再度ノクティスへと矛先を向ける。



“私がまだ人として存在出来るーー今の内に”



ある決意を胸に、改めてノクティスと対峙するのだった。



「……まさか今到達するとはね。完全に予想外ではあったけど」



「ええ、アナタが望んだ姿ですよ」



「そうだね。私も本当はこれを望んでいたのかもしれない。来てくれて嬉しいよ……ユキ」



対峙する二人の“外”に在る者。ノクティスは慈しむ様にユキの名を紡ぎ。そしてーー



「ハルーー“時空障壁”のフィールド展開を」



そう直属の彼へと指示を出した。



「しょっーー承知致しました!」



その指示の真意を理解したハルは、焦燥感に駈られながらも従う。



“時空障壁のフィールド展開”ーー本来、絶対に使用しなかったであろう事態に。



ハルが手にしたリモコンを操作したその瞬間、対峙する両者の周りに膜のような何かが覆われた。



二人は其処に居るのに、まるで干渉出来ない別世界にでも居るかのように。



「なっーー何が起きたの?」



ユーリがハルへと問い掛けた。見た事が無いからだ。



「臨界値『400%』超の者が、その物理法則を超えた力を振るうだけで、一介の惑星程度は一溜りもありません。その為に必要なのが、その力を振るう場所。今、二人の周りには何人も干渉不可の時空の壁で、外部との干渉を断ちました。まさか、これを使う時がくるとは……」



完全に想定外と言わんばかりに、ハルがこの状況を説明する。



「……二人は今、別の次元に居るって事?」



「そう。時空障壁の範囲は、極端に言えば宇宙空間そのものです。闘いの余波はまず、此方側まで届かないでしょう。しかし、それはあくまで宇宙という常識の枠に於いてです。常識を超えた両者の前では、それさえも崩壊の危険性があります」



「そ、そんな……」



対峙するユキとノクティスの現状が、理解を越えた次元に居る事だけは誰しも理解出来た。



「ユキ……」



アミは向こう側に行きたくとも、行けない自分がもどかしかった。



願うはユキが無事に帰ってくる事。だが、本能で理解した。この闘いの結末がどうであれ、自分とは違う次元に行ってしまった彼が“戻ってくる事は”もう無いーーと。



だからこそ、残された者達は最後まで見届ける事しか出来なかった。





ーー時空障壁フィールド内。完全に世界から隔離され、対峙する二人。



「……ノクティス、今なら分かります。この無限に拡がる広大な宇宙で、これまでたった一人の“外”に在る者としての、想像を絶する孤独が」



「ああ。そして私達は今、この宇宙で二人っきりの“外”に在る者同士」



相対する二人は、お互いを唯一無二の存在として認識していた。



「だからこそ、連れて行ってあげますよ。他でもない私が」



ユキは慈しむ様な葬送の言葉を、ノクティスへと向けた。それが出来るのは、この世で唯一自分のみーーと。



「ありがとう……ユキ。さあ、共に逝こう」



ノクティスもその意図を汲み取り、礼を述べる。今此処に明確な“最終戦”が成立したのだった。



先に動いたのはーー



“宇宙法則乱入に基づき『ラスト・フリージング・アーク』の改定ーー再定理を”



ユキだ。言霊の様に呟くそれは、宇宙の法則を変えようとするもの。翳した右の掌には、これまでにない異能力が集約していた。



そして今此処に、宇宙の摂理が変わったーー



“展開ーーアブソリュート・オーバーゼロ ~絶対零度超”

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