テラーノベル
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それからどれぐらいの時間が経っただろうか…暫くの間、お互い抱き合ったまま何気ない話をしたり、甘えてみたりしていた。と、その時…
静けさを破るように、俺のスマホが小さく震えた。
「…ん、ん?」
「…どうしたの、はやちゃん…」
「…仁人から連絡…」
そう言って左手はじゅうを抱きしめたまま、余った方でスマホを手に取り、その内容を確認していく。
「舜太と太智が…こっちに来るって…」
「…っ…え、それ何分前…?」
「…10分前…」
「…っ…やば、もうすぐ来るじゃん…!」
2人が離れようとしたまさにその瞬間、現実の残酷さを告げるように、エントランスのインターホンが鋭く鳴り響いた。
「…っ…マジか、ちょっと行ってくるわ…」
焦りを隠しきれないままモニターを確認すると、そこには諦め切ったような顔をした仁人と、きょとんとした顔で連れられてきた太智、そして…画面の向こうで不敵な笑みを浮かべる舜太の姿があった。
「…仁人、お前…」
『…悪ぃ、舜太のこと…止められなかった…』
「…舜太はまだ分かるが、何で太智までいるんだよ」
『…俺が呼んだんよ、はやちゃん。仮に俺が1人で行って真相を知ったとしたら…太ちゃんだけ知らんのもアレやろ?』
『…え、舜ちゃん…ホンマにどういうことなん?さっきから聞いても全然教えてくれへんし…』
『なぁ、教えてくれるんよな? じゅうの身に何が起きたんかを…』
その表情と真剣なトーンに…最早隠し通すのは不可能だろう…そう悟った俺は重い口を開けた。
「…ここまで来て帰したら、また来るよな?」
『…そうやな、だって知りたいし…』
「…分かった…ここのロックを解除してやるから…3人で上がってこい」
ため息交じりにオートロックの解除ボタンを押し、急いでリビングへと引き返す。
「…はやちゃん…」
「…取り敢えずこれ…羽織っとけ。」
「…ん、ありがとう… 」
さっきまでの濃密な空気など一瞬で吹き飛び、二人は青ざめながら3人がこの部屋に来るのを待っていた。
直前まで帯びていた熱はどこへやら、冷や汗にまみれながらバタバタと少しだけ乱れた身なりを整える。
そんな慌ただしいやり取りを終えてからわずか3分後…玄関のチャイムが鳴り響いた。
…最もメンバー全員がこの部屋の暗証番号を知っているのだが、あえて律儀に鳴らしてきたあたり、彼らなりの気遣いが透けて見える。
「…はい…って、よくもまあこんな夜遅くに3人揃って来れたな…」
ガチャリと玄関のドアを開けると、諦めて疲れた顔をする仁人、眠気が隠しきれないほど疲れた表情を浮かべる太智、この2人と同じぐらい疲れてるはずなのに変なテンションの舜太の3人が立っていた。
「…俺、明日早いのに舜ちゃんに呼ばれたんよなー……めちゃくちゃ眠いのに…」
目をこすりながらぼやく太智の隣で、仁人が申し訳なさそうに眉をひそめる。
「…それはマジでごめん、太智…」
「…別にええよ、仁ちゃん。それより…はよ中入った方がええよな?」
「…ああ、そうだな」
これ以上、逃げられない…そう覚悟を決めた俺は3人を部屋に上げる。 まさに修羅場とも言える突撃訪問の幕が、こうしてあっさりと開いてしまったのだった。
「…そんで、じゅうはどこにおるんよ?」
「…え、喉の調子が悪いんやなかったっけ?」
玄関からぞろぞろとリビングに入ってきた舜太と太智が、言葉を途中でぴたりと止めた。
「「……」」
二人の視線の先、ソファーにぽつんと腰掛けているのは、昨日まで確かに男だったはずの…寝間着に俺のジャージの上を羽織っている柔太朗だった。
時が止まったかのように静まり返るリビング、舜太は丸くなった目をさらに見開き、太智は眠気が一気に吹き飛んだのか、半開きになっていた口をぽかんと開けたまま固まっている。
「…え…?」
最初に沈黙を破ったのは舜太だった。目を限界まで見開き、一歩、また一歩とソファーに近づきながら、信じられないものを見るように瞬きを繰り返す。
「…え、嘘やろ…? なんで…?」
太智も眠気が一瞬で吹き飛んだのか、目を丸くしたまま口を半開きにしてフリーズしている。
「…な、な…」
舜太が小刻みに震えながら、カクカクとロボットのような動きで俺とじゅうを交互に見比べる。
「…はやちゃん…これ、どういうことなん… ?」
「…」
「…」
「…だから、すぐに言いたくなかったんだよ…お前ら2人に。」
仁人は溜息交じりにそう吐き捨てながら、2人にそう告げた。
「…今朝、起きたら…こんな姿になってな…」
「…っ…!」
頭を抱えながら事情を切り出すと、リビングの空気がさらに張り詰めた。事情をあらかじめ知っていた仁人は、気まずそうに目を逸らして天井を仰いでいる。
隣に座るじゅうの瞳がみるみるうちに潤んでいく。ただでさえ突然の変異に戸惑い、心も身体も追いついていないところに、事情を知らない2人が突然押しかけてきたのだ。これ以上ないほどの不安と恥ずかしさが押し寄せたのだろう…下を向き、肩が小さく震え、放っておけば今にも泣き出してしまいそうな雰囲気を醸し出していた。
「ちょ、まっ…そんなつもりじゃ…」
状況の異常さにフリーズしていた舜太が、慌てて両手をぶんぶんと横に振る。隣にいた太智も、ようやく脳内で情報処理が追いついたのか、目を丸くしたままおろおろと視線を泳がせた。
「え…これ、夢?いや、でも、どう見ても柔太朗…やんな…?」
「夢でもなんでもねぇ…紛れもなく現実なんだよ…こっちだってまだ頭追い付いてねぇのに…」
隠し事なしにすべてをぶちまけ俺のトーンに、部屋の空気が重く、そしてどこか切実な熱を帯びて静まり返る。
その隣でじゅうはきゅっと裾を握りしめ、ぽつり、と掠れた声を漏らした。
「…舜ちゃん…太ちゃん…」
絞り出すようなその声は、以前よりもワントーン高く、そしてどこか甘い熱を帯びた艶っぽさを纏っていた。そのあまりにも現実離れした声色に、部屋の空気がさらにピリッと張り詰める。
「…っ…嘘やろ…」
「…ホンマにじゅうなん…?」
舜太と太智が絶句したように息を呑む中、潤んだ目を伏せながら、震える声で言葉を紡いだ。
「…朝起きたら…こんな姿になってて…お医者さんに診てもらっても、たった一夜で男から女になったこと以外、どこも悪くないって言われて…それで…治すには、自然治癒しかないって…」
「…自然…」
「…治癒?」
「…そう、治ることは治るけど…いつ治るかは分からないって…」
信じがたい、あまりにも非現実的な宣告…しかし、目の前で不安そうに潤んだ瞳を揺らすその姿は、まぎれもない「事実」としてそこに存在している。
舜太は自分が持ち込んだ騒ぎであるにも関わらず、あまりのショックに顔を両手で覆った。
「…ごめん、じゅう…俺、何も知らんと…」
「ううん、俺…私だってメンバーにだけはちゃんと伝えたいって思ってたから…だから気にしないで?」
あんなにも怯え、泣きそうになっていたはずなのに、こうして仲間を気遣うように微笑むその優しさはいつもと変わらない。だからこそ、余計に胸が締め付けられるような痛みを覚える。
隣でようやく状況を飲み込んできた太智が、重い沈黙を破るようにぽつりと言った。
「…つまり…これから当分の間…その姿で過ごさなあかんってこと…?」
「…そういうこと、になるな…」
仁人が腕を組みながら、複雑そうな顔で小さくうなずく。リビングに再び静けさが戻り、それぞれがこの受け止めきれない現実を噛みしめるのだった。
【……To be continued】
第9話、いかがでしたか?続きがすごく気になる終わり方をしてますが、文字数の都合上、今回はここまでということで…
何かリクエストなどありましたら、コメント欄にお書きください(詳細は【お知らせ、雑談など】にありますので、そちらでご確認ください)
あんり
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情も義もあるキノコン
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コメント
3件
更新、ありがとうございます。すごーく続きが気になる展開ですね…。 それぞれの複雑な感情が、綺麗に物語に落とし込まれていて情景がわかりやすいです。しんみりとした話のようにも感じましたが、それぞれの優しさが滲み出ていて、作者様の愛を感じました。 展開がとてもハラハラとして緊張感漂う雰囲気だからこそ、一つ一つの行動に性格や思いがある書き方をされているように感じられました。 次回がすごーく、楽しみです!
はやちゃんとじゅうの空気、一瞬で壊れちゃったね…。あのインターホンの音、こっちまでドキッとしたよ。しかもよりによって舜太が来ちゃうなんて、もう修羅場確定じゃん。でもじゅうが「気にしないで?」って笑顔を見せたところ、すごくじゅうらしくて泣きそうになった。強がってる姿が痛いほど伝わってくるよ…。次、どうなるんだろう。