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蒼白の風が森を飲み込んだ。空気が凍りつくような感覚とともに、地面に薄氷が張る。
神楽周助はその中心で、紅と蒼、二振りの神剣を握りしめていた。
その視線の先には白銀の鎧に身を包んだ男、氷壁が静かに立っていた。
彼の背から吹き出る冷気は、生物の息吹すら凍てつかせる。蒼刃の元主であり、蒼氷を操る者。
氷壁 その剣は、本来…私だけのものであった…蒼刃は我が魂そのもの。 それを、貴様のような者が取るとは…
神楽 だったら奪いに来いよ。剣を持ってるっていうのはそういう覚悟の証だからな
言葉を交わした瞬間、二人の間に流れる空気が変わる。
世界が凍り、時が重くなる。氷壁が片手を掲げると、蒼の剣が白銀の閃光を放った。
氷壁 “蒼界斬結《そうかいざんけつ》”
それは斬撃ではなかった。“時の断面”を切り出す一撃。
周助の体がほんの一瞬、硬直する――時間が凍ったのだ。
少女 周助っ!!
叫ぶ少女の声も遅れて響く。だが――
神楽 おそいぜ…俺の時間は…まだ止まっちゃいねぇ!
紅刃が咆哮するように炎を巻き起こす。
灼熱が時間の凍結を溶かし、周助の身体が再び動き出す。
神楽 “赫式・焔閃《えんせん》”
紅の斬撃が、氷壁の攻撃を相殺する。氷と炎が激突し、辺りの木々が爆風でなぎ倒される。
氷壁 …双剣の力を…同時に使いこなすだと?
神楽 ああ。こいつら、手間のかかる相棒だけど…言葉は通じてる
次の瞬間、周助の両眼が異なる光を放つ。右は紅、左は蒼。
紅蒼神剣の神兵が完全に発現し、周助の身体に紋章のような紋が浮かび上がる。
少女 神兵…本当に、周助が使いこなし始めてる
神楽 今の俺には、お前の動きはカメに見える
神楽 赫蒼式・双牙閃《そうがせん》
両の剣を逆八の字に振り抜く。
紅が爆ぜ、蒼が時間を断ち、斬撃が刃そのものを越えて世界を切り裂く。
氷壁 なっ!!!!
防御が追いつかない。氷壁はその身を、背後の大樹ごと吹き飛ばされる。
鎧が砕け、蒼い血が地に落ちる。
少女 やった…!
だが、氷壁はゆっくりと立ち上がる。苦悶の表情のまま、彼は蒼の剣に手を伸ばさなかった。
氷壁 …力ではなく、意志で剣を振るうのか …なるほど“紅と蒼”がお前を選んだ理由、わずかだが理解できた気がする…
そして、氷壁は周助の背を向ける。
氷壁 覚えておけ。貴様では、まだ“呀狼”に勝てん。だが、可能性は見た。 …生き延びろ、双剣の主よそして救ってくれこの世界を___
氷と共に、その姿は空間から消え去った。
静寂。戦いが終わり、風が戻る。
少女 あなた本当に勝ったんだね…
神楽 勝ったかどうかは分からないけど一つだけ分かることがある。こいつらの居場所は、今は俺の手の中にあるってことさ…
紅と蒼の剣が、静かに光を返す。
少年の覚悟が、今ようやく“戦士の形”になろうとしていた。
ー続くー