テラーノベル
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救護室の簡易ベッドの上。パイプ椅子のきしむ音と、薄いカーテンの隙間から差し込む西日が、私のまぶたを赤く染めていた。
「……渚! 渚、目ぇ覚ましたか!?」
荒い息遣いとともに、ドアが乱暴に開いた。
駆け寄ってきたのは、汗と煙草の匂いをさせた峯岸さんだった。くたびれたスーツの袖を捲り上げ、血走った目で私の顔を覗き込んでのぞき込んでくる。その手は、冷たくなった私の手首を包み込むように強く握られていた。
「大丈夫か……!? 吐き気は? 頭の痛みはどうだ……! 車出す、今すぐ本部の息がかかってねぇ病院へ——」
「……峯岸さん」
私はゆっくりと体を起こした。
全身を襲う激しい倦怠感と、耳の奥で鳴りやまない不快なノイズ。だけど、私の意識は恐ろしいほど冷えて冴え渡っていた。
「私のことは、いいから」
「……は?」
「自分の体調なんて後回しでいい。……あの人、殺されたんだよ」
峯岸さんの手をそっと押し返し、私はまっすぐにその目を見つめた。
「押し落とされた瞬間の恐怖……指先が手すりをかすめた感触、背中に残った冷たい手のひらの重さ。全部、残ってる。覚醒したばかりで曖昧だけど……犯人はまだ、このキャンパスの中にいる」
「渚、お前……」
「逃がしたら、証拠を隠される。私は大丈夫。だから……早く事件を解決して」
感情を排した私の冷静な声に、峯岸さんは息を呑み、苦々しそうに歯を噛み鳴らした。
高校時代、何度も見た光景だ。自分が傷つくことよりも、真実が闇に葬られることを恐れる私の癖を、このおじさんは誰よりも知っている。
「……たく、クソガキが。大人を頼ることを覚えろって言ったろ……」
峯岸さんは悪態をつきながらも、私の頭を乱暴に、だけど壊れ物を扱うように優しく撫でた。
その時だった。
救護室の半開きのドアの向こうから、ひそひそと囁き合う不遠慮な声が聞こえてきた。
「ねえ……あの子でしょ? 飛び降りがあった時、変な叫び声あげて倒れた子」
「うん、今年入ってきた新入生らしいよ。なんか急に『押された!』とか騒ぎ出してさ……マジで意味不」
「っていうか、隣にいるガラの悪いおじさん誰? 警察? それとも……パパ活相手?」
「うわ、ウケる。入学式早々パパ活相手呼び出すとかやばすぎ。絶対関わらんとこ……あいつ、完全な『不思議ちゃん』枠じゃん」
かつて高校の教室で、何度も耳にしたような無責任な噂話。
新歓の華やかな雰囲気が一転し、惨劇の渦中となったキャンパスで、私と峯岸さんは早くも「好奇の目」と「身勝手な誤解」の対象になっていた。
隣にいた佐藤さんが「お前たち! 警察の捜査中だ、向こうへ行きなさい!」と必死に声を張り上げて追い散らそうとするが、一度広まり始めた好奇の視線は簡単には消えない。
「……チッ、胸糞悪いガキどもが」
峯岸さんの額に青筋が浮かび、ドアの方へ向かって歩み出そうとした。
「いいよ、峯岸さん」
私は静かにベッドから脚を下ろし、靴を履いた。
「言わせとけばいい。……私は『不思議ちゃん』でも『パパ活女子』でもなんでもいいよ。そんなことより——」
私は濡れたブレザーの胸元を強く握りしめ、屋上へと続く講義棟の天井を見上げた。
「——あの人を突き落として、私たちの日常を壊した奴を、絶対に許さない」
冷たく冴え渡る私の瞳を見て、峯岸さんは深くため息をつき、火のついていない煙草を口に咥えた。
「……おう。サクッとヤマ張って、あの口の軽いガキどもの目の前で首ねっこ引っ捕まえてやるよ」
再び始まった、最悪で、けれど信頼できる大人たちとの捜査。
私は冷ややかな視線を背中に浴びながら、犯人の痕跡が残る階段へと足を踏み出していった。
コメント
1件
うわあっ、第3話読んだよ!!めっちゃ重くて熱い展開…!😭✨ 渚さん、自分の体調より事件優先って、覚悟がすごすぎる…峯岸さんとの信頼関係も泣けるし、周りの「不思議ちゃん」扱いとかパパ活疑惑とか、そういう無責任な噂に負けない強さがカッコよすぎるよ…!絶対犯人捕まえてほしい!!🔥
キュルノ
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#学園
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蒼月
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