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大海原に浮かぶ小さな船
そんな船の上での小さな、小さなお話。
「おい、そんな傷あったか?」
廊下ですれ違った女の白い腕を見て言った
二の腕に刃物で切られたような薄い傷
『え?…あぁ、今日の敵襲の際に少し』
「そうか、気をつけろよ」
『…ええ』
少しの間。
ほんの少しのズレには気づかない
『…どこ行くんですか?』
「少し街に」
『こんな夜に?』
「朝には戻る」
『………分かりました』
真っ暗になった外は、街明かりが目立つ
女の聞いたことは上手く躱され、男は闇へ溶けた
『……ほんと…馬鹿な人』
足に赤が滴った
木材の床にじんわり染みて、ワインのような色に変わった
酔えるのはこの数分だけ。
「おかえりなさい」
『…あぁ、』
通りすがりに香った強い香水の匂い
シャワー如きじゃ私の鼻は騙せないの
すれ違った男は、いきなり振り返り下を見る
「どうしたの」
『傷が増えてるぞ』
「木の尖った場所に当たっちゃったの」
『…ったく、気をつけろ』
「…………ええ」
命が篭っていない、あまりにもか細い声
男は気づかない
『お前、怪我しすぎじゃないか?』
3週間余りが経った頃、女の体には見えないところも合わせて20箇所以上の傷があった
「ドジなのよ」
『昔はこんなじゃ無かっただろ』
「人って簡単に変わるのよ」
『…後で部屋に来い、傷を見る』
「それならルナに見てもらうわ」
『あいつは医療知識なんてねぇだろ』
「応急処置くらいできるでしょう?」
ああ言えばこう言う、そんな女に痺れを切らして腕を掴んだ男
「なに、離して」
『何か隠してるのか』
「…」
『言え』
「私はあなたの部下だけれども、プライベートまで知られる義務なんて無い」
「あなただってプライベートは言わないでしょ?」
あなたは特に、プライベートにズカズカ踏み込まれるのは癪に障るものね
自分から話すこともなければ、聞かれても言いたくないことは絶対言わない
『それとこれは別だ』
「どう別なのよ」
「隠し事のひとつやふたつ、構わないでしょ?」
『こうもうちの部下が傷ついてちゃ困る』
「応急処置はするわよ」
『それを俺がすると言ってる』
「痛い、離して」
会話がヒートアップしていくうちに、握る手の強さも強くなっていた
『…悪ぃ』
「隠し事があるほど女は魅力的なのよ」
そう言って男の目を見て口に人差し指を立てた
両腕、お腹、両足にある切り傷
まるで見せつけるかのような傷
『………』
『狂気的……だろ』
異常な程までの切り傷は、見たものにぞっ、とした印象を与えるほどであった
でもそれが女にとって、唯一酔えるモノだったから。
女
男の部下。船で色んな島を巡ってる。男に惹かれているが、夜遊びをしていることに気づき、その痛みを埋めるために切り傷を付けていく。その事は絶対に言わないと心の内に誓っている
男
少し前から様子がおかしい、と思っていたが傷が出来た言い訳も不自然では無かったため、最初は気にしていなかった。段々言い訳が苦しくなってきて、勘づく。結構モテるイケメン。
ルナ
女と同じく、男の部下。女同士、同室で船には2人しか女が居ないため、とても仲が良い。傷については、増えて来てるとは思ったものの、本人が言わないため、見守っていた。
その他
出てこなかった他の男の部下達。男が夜遊びしてるのは前々から知っている。そのことについて聞くと、機嫌を損ねちゃうので、何も言わなくなっている。帰ってきた時の香水の匂いには気づいてる。