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「告白、ね。私にも告白をするくらいの勇気があれば、何か変わるのかもしれないけど今さらよね」
「え、どういうこと? もしかして麻理ってば好きな人ができたりしたの」
私のことを揶揄って遊んでいたくせに、自分の事になるとなかなか話してくれないのが麻理だ。特に恋愛関係については、一度も相談されたことなどなかった。
何度か好きな人はいないのかと聞いたこともあったが、いつも笑って誤魔化されて。そんな麻理の口から零れ落ちた「告白」という言葉に私も驚いてしまって。
「さあね? これが恋愛の好きかも私には分からないし、伝えたところで相手を困らせるって知ってるから」
「だけど……ううん、何でもない」
もしかしたら麻理が好きになった相手には何か事情があるのかもしれない。だけどそれを問い詰めるようなことは出来なかった、自分も麻理に話せないような事を奥野君と約束してるから。
私は既婚者で岳紘さんという夫がいながら、同じく既婚者の奥野君と辛い時に慰め合う不思議な関係になった。性的な意味合いは無くても、そこに全く感情がないわけじゃなくて。
何かの間違いが起こる可能性はゼロではないと分かっていても、あの提案は今の私にとって助け船のように思えたのだ。だから……
「私は麻理が選ぶ道を応援する、それがどんな結果になっても私は麻理の味方でいるから」
「はいはい、分かってるわよ。雫が私を大事な親友だって思ってくれてるって、それでけで十分だもの」
何となく今日の麻理の笑顔はいつもと違って見えて、胸の奥がざわざわする。理由は分からないけれど、スコールでも来そうなどこか空気が落ち着かない感じ。
……でもそのわけはすぐに目の前にいる麻理の口から聞くことになる。
「私ね、今度お見合いするの。相手は大企業のエリート社員だって、どう考えても不釣り合いで笑い話みたいだと思わない?」
「麻理がお見合い……?」
絶対に恋愛結婚するとばかり思っていた麻理からの突然の告白。いつの間にそんな話が出ていたのだろう、想像もしなかったしまさに寝耳に水の状態。
姉のようで妹のようでもある親友の麻理が、私の知らない男性とお見合い結婚するなんて。
「ただのお見合いよ、別に今すぐ結婚するわけじゃないわ。でも相手の男性は、結婚を前提にと考えているみたいね」
「そう、なんだ」
確かに麻理の家は裕福で、彼女も良い大学に行き一流企業に就職している。彼女の両親が結婚を急かしてることは何となく知ってはいたけれど、本人は納得してるのだろうか?
もしさっき話していたみたいに麻理に本当は好きな人がいるとすれば、とてもじゃないが賛成できない。そう思っていたのだけど……
「私もね、いい機会かと思ったの。このまま一人で生きていくのか考えた時、自分を想ってくれる誰かが傍に居てくれた方が幸せなんじゃないかって」
「自分を想ってくれる、誰か……」
麻理のその言葉が妙に胸に刺さった、私には傍に居てくれる夫がいるけれど彼は私を想ってはいない。その虚しさを私が一番よく分かってるつもりだったから。
そのせいかもしれない、麻理と見たこともないお見合い相手の未来を自分達夫婦と今と重ねてしまった。
「麻理はその人を好きになるつもりはあるの? それとも相手に想われるだけで満足して、別の人を好きなままでいるの?」
「……雫? どうしたの、急に」
これは私の問題じゃない、麻理が決める未来だと分かっているのにどうして我慢できないのだろう? だけど自分と同じように傷付く人を、麻理には作って欲しくない。そんな思いを抱えて俯くと、麻理が私の肩に手をのせてくる。
「聞いて、雫。私は見合い相手の男性も好きになるよう努力するし、今想ってる人も好きで居続けるわ。だって恋する気持ちや愛情の形が一つだけとは限らないもの」
「好きになる、努力……」
麻理らしい答えだった、初夜の後に私を愛せないとハッキリ告げた岳紘さんとは違う。もし岳紘さんがあの時の私にも同じように言ってくれていたら、そう思わずにはいられないくらいに。