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「ここのマドレーヌが美味しくてね」


城下町に来て、すぐ私は自分のおすすめのお店を紹介した。

城下町で一番人気のお店で、ここの焼き菓子は絶品。確かに香ばしい匂いが漂ってきて、思わずお腹が減ってきそうだ。

私も甘いものは好きだから、並んでも良いと思っているけれど、早朝から並ぶ人も多いみたいで、ちょうど午後のティータイムと重なったのか裕福層の平民達や、下級貴族の令嬢達ががお茶をしていた。流石にこの時間帯に並ぼうとは思わない。

私は隣にいるユーイン様に目を向ける。すると、彼はキラキラとした目で店内を眺めていた。


「甘い匂い!」

「ふふふ。でしょう? 此処のお菓子は本当においしいから、いつか一緒に食べようね」

「うん」


そう言った、ユーイン様の顔が少しくらい気がして私はどうしたのかと顔を覗かせる。すると、ユーイン様はいきなり顔を上げて、私を見上げた。サファイアの瞳とばっちり目が合う。


「どうしたの?」

「ううん、ステラのね、好きなもの知れて嬉しいなって思ったの」

「何処で、そんなお世辞習うの?」

「おせじ?」


と、聞き返されて、しまったと思った。

お世辞というのは、社交の場で使われる言葉で、意味としては相手を持ち上げるために使うものだ。子供に言うべきことでは無いし、まだ子供であるユーイン様が知るはずも無い……と思うのだが。


(まあ、ユーイン様だし。子供の時から頭よかったんだろうな。お世辞とか、社交辞令とか……)


私は全然なんだけど。と思いつつユーイン様の頭を撫でた。ユーイン様はされるがまま、嬉しそうに目を細めている。

そんな彼に癒されながら、私たちは次のお店に行くことにした。ユーイン様が何に興味を持つか分からないので時々彼と目を合わせながら歩く。歩幅もいつもよりも小さくゆっくりなテンポで歩いて。


「ユー何か興味あるものとかある?」

「宝石」

「宝石?」


意外なものが口から飛び。出してきて、私は足を止めてしまった。

皇族であるから、貴族である私よりも裕福な暮らしをしているだろう……何て勝手な偏見を押しつけ、そんなものにユーイン様は興味なんて無いと思っていた。後ろからついてきているノイの顔も歪む。


「宝石に興味があるの?」

「ううん。そうじゃなくて、ステラとの結婚指輪みたいなあって思って。ステラにはダイアモンドが似合うと思う」

「へ?」


想像の遥か先を行っていた。

私はその場でかたまってしまい、悠々と私との未来について語るユーイン様についていけなくなってしまった。さすがのノイも、頭を抱えている。


(まだ、諦めてなかったの!? というか、本気すぎない!?)


何処まで本気なのか、恋なのか憧れなのか。ユーイン様はどっちなのか分からないけれど、さすがにませすぎていると思い、私は「それは、また今度かなあ」と話を逸らして、ユーイン様の手を握って歩き出す。気を逸らす方法はこれしか無いと思った。

そうして、歩き出して、少しした角から誰かがぶつかるようにして出てき、受け身を取れなかったため、後ろへ倒れてしまう。


(私の何処が良いのよ……)


「ステラ様」

「あ、ありがとう。ノイ……ッ!?」


ノイが受け止めてくれたため、倒れることは無かったが、その隙に私にぶつかってきた黒服の男がユーイン様を連れ去ろうとしていた。


「ステラ!」

「ユー!」


私は咄嵯に手を伸ばすが、届かない。男はユーイン様の腕を掴むと、そのまま走り出した。私は慌てて追いかけようとするが、「ステラ様!」と声を上げたノイが私の腕を掴み引き留める。


「止めないで、ノイ」

「ステラ様、落ち着いて下さい。ここは援軍を呼んで……」

「それじゃあ、遅いの!」


私は、珍しく切羽詰まった顔のノイの手を振り払って走り出す。この早さならあの男に追いつくだろうと。


(人攫い……矢っ張り)


ユーイン様が小さくなったことは、貴族の間では噂されるようになった。誰が流したか分からないが、こういう噂はすぐに広まる。

真偽が分からないのに、噂は噂を呼んで流れていく。そして、何処かで嗅ぎつけて、ユーイン様を攫おうとしていた奴らが動き出したのだ。ここ最近の人攫いは、子供を狙っていたから。


(大丈夫、追いつける……!)


男の背後を捉え、これなら捕まえられる……そんな距離まで来たとき、男がぼそぼそと何かを唱え始めた。すると、男が移動するのに合わせ、男の足下に魔方陣のようなものが現われる。

転移魔法を使う気だ。


「逃がさないから!」


私は直感でそう思い、男にタックルする勢いで飛びついた。しかし、ちょうど転移魔法が完成したのか、私も一緒にその魔方陣の中に吸い込まれてしまう。


「……うっ」


まばゆい光に包まれ、私は咄嗟に目を覆う。

そうして、次の瞬間目を開けると、そこは知らない倉庫の中だった。暗くてじめじめしており、かすかに潮の匂いがする。


(ここは……)


辺りを見渡すと、先ほどユーイン様を攫った男と似たような黒服の男達が8人ぐらいいて、何やら話し合っているようだった。少しの間気を失っていたからか、身体には縄が何重にも巻かれていた。これで、拘束しているつもりなのだろうかと。

これぐらいの拘束と、男の人数ならどうにか切り抜けられると思ったが、ユーイン様が見当たらなかった。暗い中目を凝らして見れば、少し離れた所に倒れている。彼は縄が巻かれていなかった。


(傷付けちゃいけないってことかしら。まあ、触られていないようで何よりだけど……)


何か危害が加えられていたら。そう考えるだけでゾッとした。

私は、男達の声に耳を傾けながら身体を起こす。


「おい、何で第二皇子だけじゃ無くてあの女までいるんだよ」

「仕方ねえだろうが、転移魔法使うときにタックルしてきやがったんだからよお。おかげで、こっちは全身痛くてなあ!」

「知ったことか! 起きる前に海に沈めろ。その方が、後々楽だろう。『ゴリラ令嬢』何て、誰も引取ってくれやしねえよ。飼い慣らせねえ」


そんな会話まで聞えてきて、全く悪人達にもそんな風に広まっているのかと、自分の評判の悪さにため息をつくしか無かった。


(まあ、何て言われようがどうでも良いけど)


「ゴリラが目を覚ます前に行ってこい!」

「誰が、ゴリラですって?」

「ひっ」


ユラリと立ち上がり、男達の方に向かって歩けば、大の大人が揃って顔を引きつらせた。まるで、死人が動いたとでも言わんばかりに見てくるため、私は乾いた笑いが漏れる。

身体に巻かれた縄を私は力一杯引きちぎって、男達に拳を向ける。


「さあ、覚悟は良い? ユーイン様を返して貰うから」


ゴリラ令嬢は小さくなった第二皇子に恋をする

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