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約束したからには、守ってもらいたい。
(後……私が逃げないって言ったの、どんな風に捉えてくれているのかな)
私だって、口だけの女になりたくない。逃げないって決めたのは、覚悟を持てたのはアルベドのおかげだった。それを彼がどれだけ理解してくれているか分からないけど。
(でも、もう逃げない。不幸なヒロインぶるのはもうやめる)
だって、そもそも私はヒロインになり得ない女じゃない。オタクだし、可愛げもないし。でも、誰かには必要とされているって言うのは分かる。
だから、逃げない。
エトワール・ヴィアラッテアからも、現実からも。
辛いことばっかりだけど、悲観していられないのだ。それが、エトワール・ヴィアラッテアの思うつぼになっているような気がするから。心をおろうとしているのなら、その心をがっちり固めれば良いだけの話だし……
離れていくアルベドの指を見ながら、ふと、彼は良い年なわけで、誰かと結婚しないのかな……とか思ってしまった。彼の薬指に指輪がはめられている所、全然想像はつかないんだけど。
「何、ジロジロ見てんだ」
「うーん、いや、アルベドって婚約者いたりしないのかなあって」
「いねえな。紹介されても全部断る」
「ええ、なんで!」
「何でってお前なあ……お前が」
「私が何よ」
いや、何でもない。とアルベドは、昂ぶった感情を抑えるように言うと、頭をかいてそっぽを向く。私が何か気になったけれど、深くは突っ込まない。だって、もし、そうだったとして……いや、好きって言われているんだけど、私がリースを好きだと分かっていたとしても、好きでいるから、結婚しない……的なことだったら、何かその申し訳ない? 気持ちになるんだけど。
アルベドの価値観だし、どうか分からないけれど、もしそうだったら、私なんか忘れて新しい恋を見つけてって言いたい。余計なお世話だっていわれるかも知れないけど。
(私だって、リースしか好きになったことないし分からないけど、けど……)
もしも、ということを考えてしまった。それがあり得ないから口にしないし、そんなもしもの話を、アルベドは聞きたくないだろう。
「この話やめ!」
「いや、お前から始めたんだろうが」
「そうだけど!何か、違う!うん!」
「そーだな、つまんねえし」
と、アルベドは、本当に興味がないというように視線を漂わせる。
うっそうと茂る木々は、私達が野宿していたところよりも分厚くて、木の皮だって黒くてくすんでいる。後、蔦とかも絡みついていて全体的に不気味な雰囲気が漂っていた。
本当にラヴァインは何でこんな場所に私達を転移させたのだろうか。
(まさか、嫌がらせじゃないでしょうね)
さすがにないと思いたいし、そんなことをする意味が分からない。
もっと一緒にいたかったし、また話を聞きたかったところでもあるけれど、タイミングが悪くて邪魔されて、結局喋れずじまいって感じになってしまって。
「つか、ここがどこか、確かめねえといけねえじゃねえか。ちょっとまってろ」
「待ってろって、あっ」
ふわりと、アルベドは、風魔法を使って木々を足場に軽々と上にのぼっていってしまった。待ってとか、そんなこと、聞く様子もなく言ってしまったので、自分勝手だなあ、なんて思ったりもした。
まあ、アルベドなら、きっとここか何処か突き止めてくれそうだし、と私はその間、切り株にでも座って待ってようと腰を下ろした。
元々暗い森の中だったが、日が沈み始めたことでよりいっそ暗くなっていって、多分今日も野宿なんだろうな、なんて考えていた。
野宿も慣れてしまったし、後は、アルベドが体調が大丈夫かなあ、と考えるだけで……
「――っと」
「で、どうだった?」
「良いところに飛ばしてくれたみたいだぜ。ここからなら、二日ほどで、辺境伯の元につきそうだ」
「そう」
「反応が薄いなあ。もっと喜べば良いだろうが」
「まあ、喜びたい所なんだけど……てか、アンタ体調は大丈夫なわけ?」
私がそう聞けば、アルベドはキョトンとした目を私に向けた。
それから暫くしてプッと吹き出したようにお腹を抱えたのだ。
「心配してくれてんだなあ」
「そ、そりゃあ、そうでしょ。アンタが魔力枯渇してた、倒れたんだし」
「まあ、それは俺が悪かったな。心配してくれてんのも嬉しいし、嫌とはいってねえし」
「じゃあ、なんで笑うのよ」
「健気だなあと思ってさあ」
「馬鹿にしてる!?」
そんな他愛もない会話を繰り返す。本当に、アルベドも調子が戻ったようで、いつも以上に元気に振る舞っていた。それが、可笑しいとかもなかったし、無理している感じはなかったんだけど、ラヴァインのことが話題に出ない吐露頃見ると、避けているのかなあなんても思ったりして、私はどうしたものかと思った。
「エトワールの判断は正しかった。俺にお前の魔力注いでいたら、反発で、しんでたかも知れねえしな」
「まあ、そうかもだけど……」
「本調子ではねえけど、またあのモグラが出てきても倒せるぐらいには体力も回復している」
と、アルベドは、ストレッチをするように、足を伸した。
相変わらず長い脚だなあ、何て見ていると、アルベドが「そういえば」と話を始めた。
「辺境伯のことについて何だが」
「辺境伯……そういえば、何も知らないのに、私みたいな人がいって良いの?」
「さあ」
「さあって、実際にいくって手紙も出していないのに、その……階級高い人、何だよね。いくら、皇帝派じゃないからっていって、私を受けれてくれる……の、かな」
「辺境伯……彼奴は、女と子供が嫌いだ」
「ひえ」
アルベドは、何の前触れもなく言う。
それをきいて、よく私を連れて行こうとしたなあと、アルベドを殴りたくなった。
(待って、女子供嫌いなのに、私なんか絶対受け入れてもらえるわけないじゃん!)
本来のリースもそう言う性格だし、エトワールっていう人間と絶対に相性が悪いと思った。というか、全然フワッとしていて、辺境伯のことがイメージできないんだけど……
「名前……とか、教えてくれない?」
「どうせ、聞いたことねえだろ。エトワールのことだし」
「だったとしても!教えてくれるだけいいじゃん。事前に情報知っていた方が良いわけだし」
と、私が言えば、アルベドはそれもそうだな、と顎に手を当てた。
日が沈んできて、彼の紅蓮の髪にも影が差す。グラデーションになったその髪色が綺麗で、黙っていれば、イケメン、攻略キャラらしいんだけどなあ、何て失礼なことを思ってしまう。勿論、格好いいには、格好いいけど。
「フィーバス卿……フランツ・フィーバス卿だ。雪みてえに真っ白な男だ」
「それで、女子供嫌いって、まるで吹雪みたいじゃない」
「本人にいってみろよ。怒られるぞ?」
なんて、アルベドは冗談で言ってくる。
アルベドは、それ以上情報をいっても仕方ないし、実際会ってみた方が分かると教えてくれなかったけど、聞いていると、ますますあうのが怖くなってきた。
アルベドの知り合いで、アルベドの事理解してくれている人だとしても、何だか怖い。恐怖というより、威厳的な怖さがあった。実際に会ってみないと分からないって言うのはそうなんだろうけど、今からあうのが怖くなってきた。
乙女ゲームに出てきていないキャラだからこそ、どんな人なのか、掴めない。でも、味方に引き入れたら心強いっていうのも。
「怖くなってきたのか?」
「うっ、でも、実際会ってみなきゃだし」
「睨んだだけで人殺せるような奴だからなあ」
「もう、いや……てか、絶対誇張しすぎてるでしょ。騙されないんだからね」
「事実しかいってないが?」
「もう、いやっ。明日に備えて寝るもん」
半場、ふて寝みたいな感じに、私はアルベドに背を向けた。ここで野宿するのは確定だろうし、今日、その辺境伯の元に訪れるわけではないだろうし……
(っと、またアルベドに頼るところだった)
自分で自分の身は守らなきゃ、と私はあたりに防御魔法をはる。それをみて、アルベドは感心したように声を上げていた。
「何よ」
「有言実行って奴か」
「悪い?てか、本気でさっきの私の言葉受け取ってくれてるんじゃない?逃げないし、アンタに頼りすぎないって」
「信じてるぞ?お前が、俺を裏切らないってことも」
「何それ」
話が肥大化しすぎじゃない? と言い返したくなったが、アルベドも、少し丸くなったように、にこりと笑ったので、私はそれ以上突っ込まないことにした。わざと明るく振る舞っているんじゃないなら、それでいいって思ったから。
「じゃあ、明日また……てか、アルベドも早く寝なさいよ!病み上がりなんだから」
「へいへい。じゃあ、おやすみ、エトワール」
「お、おやすみ」
着ていたローブを脱いでそれを枕に私は横になった。防御魔法を張っているから、大丈夫だとは思うけど、やっぱり不気味な森の中で寝るのは抵抗があった。だから、これは、自分の身を守るためだし! と言い切って、私はアルベドの元に歩み寄る。
「何だよ」
「近い方が、何かと便利だと思って」
「はあ……お前なあ」
本当に呆れた、みたいな顔を見て、私は少しムッとしつつも、彼にポンポンと手招きされ、彼の膝の上に頭を乗せた。結局頼ってるじゃんって言われたら全くその通りなんだけど、アルベドだからって意味の分からない理由をつけて、私は目を閉じた。