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#そのじん
笑う門には福来る
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#nmnm注意
nanana

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誰も口を開けなかった。
会議室には、重苦しい沈黙だけが流れている。
「……ごめん」
頭を下げたままの勇斗を見つめながら、大智は拳を握った。
胸の奥が、妙に苦しかった。
今まで何年も一緒に活動してきた。
仕事が忙しくても弱音を吐かない。
どれだけ疲れていても笑っている。
M!LKのためなら、自分のことなんて後回しにする。
何かあれば、自分が我慢すればいいと笑える人だった。
そんな勇斗が。
今は、たった一人の人を手放したくないと。
何度も、何度も口にしている。
――別れたくない。
――手放せない。
――どっちも守りたい。
ここまで言わせる人がいる。
その事実が、大智にはまだうまく飲み込めなかった。
「……佐野さん」
静かに名前を呼ぶ。
勇斗がゆっくり顔を上げた。
大智はその顔を見て、一瞬言葉に詰まった。
いつもの勇斗じゃない。
こんなに追い詰められた顔をする人だっただろうか。
「俺……ちょっとびっくりしてる」
「何が?」
「佐野さんが、ここまで誰かを手放したくないって言うこと」
勇斗は何も答えなかった。
「だって佐野さん、ずっとM!LK優先やったやん」
「自分が我慢したら済むことなら、いつもそうしてきたし」
大智は一度、言葉を止めた。
「そんな佐野さんが、こんだけ……」
続きが出てこなかった。
必死になって。
苦しそうな顔をして。
それでも手放したくないと言っている。
それを見ていたら。
簡単に「別れた方がいい」と口にすることさえ、残酷なことのように思えてしまった。
勇斗が、ほんの少し笑った。
「……俺も知らなかったよ」
「え?」
「俺が、こんなふうになるなんて」
その言葉に、大智は黙る。
勇斗は目を伏せた。
「こんなに大事になるなんて、思ってなかったから」
そして。
ほんの少しだけ笑った。
さっきまでの苦しそうな表情とは違う。
その人を思い浮かべたのだと分かるほど、優しい笑顔だった。
その瞬間。
大智の胸が、また少し苦しくなった。
ああ。
本当に好きなんだ。
言葉にしなくても分かった。
舜太も、何も言えずに勇斗を見つめていた。
さっきまでなら。
アイドルなんだから仕方がない。
M!LKを守るなら、それも選択肢の一つだ。
そう考えることができた。
今だって、その考えが間違っているとは思わない。
それでも。
目の前でこんな勇斗を見てしまったあとでは。
簡単に口にはできなかった。
「……ハヤちゃんって」
しばらくして、舜太が呟く。
「恋愛より仕事人間やと思っとった」
「俺も」
柔太郎が小さく頷いた。
「恋愛をすることより、M!LKを優先する人だって」
勇斗は苦笑する。
「俺も、そう思ってた」
3人が顔を上げた。
「え?」
大智が思わず聞き返す。
「恋愛なんて、後回しでいいって思ってたよ」
「M!LKが軌道に乗るまでは」
「そのあとでも遅くないって」
一度、言葉を切る。
「……そう思ってたんだけどな」
誰も笑わなかった。
恋をしようと思って恋をしたわけじゃない。
M!LKより大切なものを作ろうとしたわけでもない。
それでも。
気付いたときには。
簡単に切り離せないほど、その人が勇斗の中にいた。
「気付いたら」
勇斗は少しだけ目を細める。
「もう、あいつがいる毎日が当たり前になってた」
声がわずかに掠れた。
「……それがなくなるのは、やっぱり無理だ」
また。
誰も何も言えなくなった。
大智は視線を落とす。
柔太郎も黙ったままだった。
舜太も何かを言おうとして。
結局、口を閉じた。
誰も、考えが決まったわけではない。
勇斗の気持ちが分かったからといって。
それだけで、すべてを許せるわけでもない。
M!LKのことを考えれば。
別れた方がいいという答えだって、間違いではない。
それでも。
今、この瞬間だけは。
誰も勇斗に、その言葉をぶつけることができなかった。
仁人は俯いたまま、唇を噛んでいた。
苦しかった。
誰よりも。
勇斗にここまで言わせているのが、自分だから。
――別れたくない。
そう言いたい。
今すぐ。
自分だって同じだと伝えたい。
けれど。
ここで恋人として言葉を返すことはできない。
今の自分は、M!LKのリーダーとしてここにいる。
だから。
拳を握って、黙るしかなかった。
その沈黙を、マネージャーが静かに破った。
「……佐野」
勇斗が顔を上げる。
「君の気持ちは、よく分かった」
責めるような声ではなかった。
けれど、決して優しいだけの声でもなかった。
「だからこそ、今ここで結論を出すべきではないと思う」
全員がマネージャーを見る。
「今日は、ここまでにしよう」
「一度持ち帰って、それぞれ考えてきてほしい」
そして。
一人ひとりを見渡す。
「M!LKとって、何が一番いいのか」
一拍置いた。
「佐野にとって、何が一番いいのか」
誰も反対しなかった。
今はまだ。
誰にも答えを出せなかった。
ただ。
この日初めて、全員が知った。
佐野勇斗にも。
自分が傷ついてでも守りたいと思う人がいることを。
そして。
そんな勇斗を目の前にしてなお。
「別れた方がいい」と言えるのか。
それぞれが、その答えを持ち帰ることになった。
コメント
1件
うわあ……この回、重かったけどすごく良かった。 勇斗があんなに追い詰められた顔をするの、初めて見た気がする。ずっとM!LK優先で自分を後回しにしてきた人が、ここまで「手放したくない」って必死になる相手がいるんだなって思うと、胸がぎゅっとなる。大智や舜太たちが何も言えなくなるのも分かるよ。 特に「気付いたらあいつがいる毎日が当たり前になってた」ってセリフ、好きだなあ。恋愛ってそうやって気付いたら染み込んでるものなんだろうな。仁人がリーダーとして黙って拳を握ってるところも、切なかった。 続き、どうなるんだろう。誰も答えを出せなかったってのが、リアルで重いな。