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……見切りをつけたはずが、彼女のことがずっと胸の奥に消えずにあった。
何故、彼女ばかりが気になるのかがわからなかった。
自分から、もうこだわる必要もないと告げたはずなのに、彼女の存在はいつまでも頭の片隅にこびりついて、ことあるごとに思い浮かんだ。
その気持ちの意味が知れなくて、久しぶりに父に会って話してみようかと思い立った。
父なら、助言を与えてくれるんじゃないかと……迷った時にはいつもそうして頼ってきたのを思い出して、
連絡を取って、父と久々に飲みに行く約束をした……。
──幼い頃、よく連れられて来た父の行きつけの料亭で、
向かい合い、グラスビールで乾杯をした。
「……一臣、どうしたんだ? 会いたいだなんて、何かあったのか?」
昔から変わらない、私を気遣うような優しげな笑顔を父が浮かべる。
「……何か、というか……よくわからなくて」
「わからない? どんなことか、言ってみなさい」
「……はい」と、頷いて、「……気になる人が、いるんです」と、自らの胸の内を話した。
「……気になる人?」聞き返した父が、冷えたビールを喉に流し込んで、「その人のことが、おまえは好きなのか?」私にそう尋ねてきた。
「好きなのかは……わかりません。ただ好きかどうかもよくわからないのに、気になってしょうがないんです」
気持ちのままを口にすると、父がクスリと笑った。
どうして笑ったりするんだろうかと不思議にも感じていると、
「……一臣、好きだから気になるんだよ」
落ち着いた静かなトーンで、言い含めるように告げられた。
「……好きだから、気になる?」
言葉の意味がよく掴めなくて、ぼんやりと父の言うままを口にする。
「そう、その人のことが気になるのは、おまえの気持ちが惹かれているからだ。何も気がなければ、関心もないだろう?」
そうわかりやすく説いて、私に問いかけると、
「好きの反対は、無関心だと言うからな」
父はまた、ふっと穏やかに笑って見せた。
「無関心でいられないのは、好きだからなんですか?」
頭の中で言葉が繋がらない。自分が誰かを好きになるなんてことが、未だにあまり信じられはしなかった──。