テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「し、シードさん?」
「ミア、おまえは休んでいろ。リタ、ミアを頼む」
「承知しました。ただし、危険だと判断したときは、私がいただきますね」
「それでいい」
リタは大鎌を構えたまま、ミアを連れて一歩下がる。
俺は短剣を構え、変異種と向かい合った。
ブーツの底に仕込んだ加速の魔法陣へ、いつでも魔力を流せるよう意識を向ける。
変異種がノソリと一歩踏み出す。
右の前脚が地面を掴んだ直後、その口から真っ赤な奔流が放たれた。
「いきなりだなっ!」
俺は迫る炎を見て、咄嗟に横へ跳んだ。
熱が外套の端を焦がし、そのまま背後の岩壁を呑み込む。
岩の表面がどろりと溶け、音を立てて崩れ落ちる。
(……ッ! 溜めもなく、この威力か!)
威力も速さも、通常個体とは別物だ。
それでも、対処できない相手ではない。
俺は体勢を立て直し、変異種の動きを注意深く観察する。
変異種が身体を捻った。
(これは──尾だな)
地面すれすれに迫った太い尾を、半歩ほど後ろへ跳んでかわす。
「どうして、全部分かるんですか……?」
「ご主人様は、とにかく相手を観察してるんです。攻撃の癖、ちょっとした動作のリズム、その目に入るものすべてが情報です──ご主人様の受け売りですけどね」
「な、なるほど──」
ミアが遠くで目を丸くしていた。
変異種が地面を蹴り、巨体を生かして突進してくる。
横へ大きく移動してかわすと、すれ違いざまに首筋が見えた。
甲殻を横切る大きな傷。
よく見れば、傷口は太い糸で乱雑に縫い合わされている。
(自然にできた傷じゃないな)
変異種がこちらへ向き直る。
右の前脚が、また地面を掴んだ。
さっき炎を吐いた瞬間にだけ見せた、踏ん張る癖だ。
(この癖は──炎!)
俺は地面を強く蹴った。
ブーツの底に仕込んだ加速の魔法陣へ魔力を流す。
加速の魔法陣──空中での動きを制御するため、俺が愛用している魔道具だ。
淡い光とともに身体が一気に押し出され、変異種の頭上へ跳び上がった。
直後、変異種が頭を持ち上げる。
宙に浮いた俺へ向けて、真っ赤な炎を吐き出した。
「シードさんっ!」
「来ると分かってるものを喰らうほど間抜けじゃないんでね」
魔法陣へ、もう一度魔力を流す。
空中で身体が横へ弾かれた。
俺はジグザグと死角を縫うように空中を飛び回り、一気に急接近。
そのまま変異種の首筋に着地する。
「さてと、見せてもらおうか」
到底、自然のものではありえない人為的な縫合痕。
間近で見た縫合痕からは、赤い魔力が脈打つように漏れている。
糸の隙間からは、生身の肉が剥き出しになっていた。
──俺は、縫合痕に鋭く短剣を突き刺した。
柔らかな肉へ刃が沈む。
そのまま傷に沿って短剣を横へ走らせ、数本の糸を断ち切った。
グギャアアッ!
変異種が絶叫する。
傷口から血が噴き出し、塗っていた神経毒が体内へ流れ込んでいく。
「これで終わりだな……!」
俺は短剣を引き抜くと、変異種の首を蹴って飛び降りた。
着地した直後、力を失った巨体が地面へ崩れ落ちる。
「シードさん……!」
振り返ると、ミアが目を輝かせながら駆け寄ってきていた。
「ミアみたいに凄い一撃で倒せれば格好良かったんだけどな」
「そんなことありません! その……歴戦の戦士って感じの戦い方で、すごく格好良かったです!」
「俺はただのスカウトだぞ?」
まあ戦闘の訓練に付き添うこともあったから、最低限は戦えるようになったけどな。
俺は、再び変異種の死骸へ向き直る。
「リタ、ここの縫合を斬れるか?」
「お任せください!」
リタが変異種の首元に膝をつき、縫合痕を大鎌で裂いた。
太い糸の下から現れたのは、生々しい肉と、その奥に埋め込まれた赤い結晶だった。
かなりグロテスクだったので、俺は片手でミアの目を塞ぐ。
「これは……魔石か?」
「そのようですね」
ぐちゃりと生々しい肉に手を突っ込み、リタが埋め込まれた魔石を鷲掴みにした。
「ご主人様! これ、結構いい魔石みたいです」
「ふむ……。こいつのせいで変異したのか? だが──どう見ても天然のものではないな」
到底、自然発生はしないであろう変異種の魔物。
人工的な縫合痕に、そこに埋め込まれていた場違いに高級な魔石。
(……ここで、いったい何が起きていたんだ?)
「リタ、その魔石は持ち帰るぞ」
「承知しました」
リタは取り出した布で、血に濡れた魔石を手早く包んだ。
「あの~、シードさん? もう目を開けてもいいですか?」
「悪い。もう終わったぞ」
手を離すと、ミアはおそるおそる目を開けた。
それから裂かれた変異種の首を見るなり、「ひゃっ」と声を漏らして再び目を閉じてしまう。
──つい先ほど、炎甲蜥蜴を一刀両断してみせた時とは別人みたいだな。
その落差に、俺は思わず頬を緩めるのだった。
#元カレ
まぁ
25,630
アトハ
153
#聖女
にゃみ3
37
#ハッピーエンド
にゃみ3
30
コメント
1件
読ませていただきました!シードさんの戦い、めちゃくちゃ格好よかったです……!相手の癖を観察して空中で翻弄する戦法、しかもブーツの加速魔法陣って仕込みが渋すぎます。ミアが「全部わかるんですか?」って驚くのも納得。リタの「危険なら私がいただきます」の含みある台詞もゾクッとしました。そしてあの縫合痕と魔石の伏線――何が起きてるのか続きが気になります!更新楽しみにしてますね🌷