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採取場を出た俺たちは、ひとまずトーマのギルドへ戻った。
三体の討伐を確認したトーマから、契約どおりに十万ドゥレの報酬を受け取る。
「変異種の件は、ギルド組合に報告する必要があるな」
「それなら俺も組合まで同行します。依頼主の証言があったほうが、話が早いでしょう」
「助かる」
変異種については依頼の範囲外だ。
首の縫合痕と、体内から出てきた魔石を記録へ描き写し、立会人としてトーマにも署名してもらう。
その足で、俺たちはギルド組合へ向かった。
組合の査定官は魔石を光へ透かし、記録に描かれた縫合痕と見比べて首を傾げた。
「これは……火属性石ですね。それも、上級品どころではありません。容量、純度、耐久性、どれを取っても最高級です」
査定官は火属性石を布の上へ戻した。
「縫合痕のことも考えれば、誰かが埋め込んだと考えるのが自然ですね」
「同意見だ。何か心当たりは?」
「現時点では何とも。ただ……これほどの魔石を用意できる者は限られます」
(魔石を使った実験──そんなところか。バケモノを変異種に作り変えて、いったい何を狙っているのやら)
俺が考え込んでいると、査定官が閉じた記録の上へ手を置いた。
「情報の提供に感謝します。変異種の討伐に加え、その情報提供まで──組合から三十万ドゥレの報酬をお支払いします」
「三十万ドゥレだと? やけに多いな。いいのか?」
「突然現れた変異種のせいで、どれだけの冒険者が命を落としたか。無事に帰ってきただけでなく、その場で討伐までしていただいた──安すぎるぐらいですよ」
「そういうことなら受け取っておこう」
トーマからの報酬が十万。
変異種討伐の追加報奨が三十万。
(これは思わぬ大金だな)
「そちらの魔石も、組合で買い取りましょうか?」
「いや。もう少し調べたい。これは持ち帰る」
「かしこまりました。組合でも記録の写しを回し、出所を調べてみます」
俺は、火属性石を革袋へ戻す。
「これで、供託金を払えますね」
ミアも、表情をほころばせていた。
「ああ。明日、|無銘《インノミネ》を正式に登録するとしよう」
***
翌朝、俺たちはギルド組合の新規登録窓口にいた。
「ギルド設立の申請ですね。供託金も、確かにお預かりしました」
組合職員が受領印を押し、記載内容を上から順に確認していく。
「続いて、創設時の構成員を確認します。代表者はシードさん。ミアさん、リタさんを含む三名で間違いありませんか?」
「ああ」
俺に続いて、ミアとリタが登録書へ署名する。
「書類に不備はありませんね。午後に拠点を確認し、要件を満たしていれば本日付で正式登録となります」
その日の午後、組合の検査官が|無銘《インノミネ》の拠点を訪れた。
一階の受付。
依頼を貼るための掲示板。
三人が活動できるだけの空間。
検査官は建物の中を一通り確認し、最後に入口の看板を見上げた。
「こちらが正式名称ですね」
「ああ。|無銘《インノミネ》だ」
白い板に書かれた、少しだけ不格好な二文字。
その余白には、ミアが描いた三つの原石が並んでいる。
検査官は手元の書類に名称を書き写し、最後の欄へ印を押した。
「必要な要件を確認しました。本日付で、冒険者ギルド・|無銘《インノミネ》を正式に登録します」
検査官が鞄から一枚の羊皮紙を取り出し、俺へ差し出した。
「こちらが登録証です。創設時の構成員も、組合の公開台帳へ記載されます」
羊皮紙には、ギルド名、代表者、所在地。
そして、創設時の構成員として三人の名前が記されていた。
検査官が帰ったあとも、ミアは登録証の前から動かなかった。
「私の名前も、書いてあります」
「創設者の一人なんだから、当たり前だろう」
「創設者……」
ミアは確かめるように呟き、登録証に記された自分の名前を見つめた。
「私も、最初の三人なんですね」
「おまえを抜いて、誰を入れるんだ」
ミアは自分の名前から、俺とリタの名前へ視線を移した。
それから顔を上げ、まっすぐ俺を見た。
「次の依頼も、私に任せてください」
「そのつもりだ」
ミアは俺から目を逸らさないまま、ほんの少しだけ笑った。
「正式に始めるなら、今後の報酬の扱いも決めておくか」
供託金を除いた残りの三十万ドゥレは、無銘の最初の資金になる。
俺は二人の顔を見回してから、口を開く。
「報酬の半分は無銘に残す。もう半分は、依頼に参加した者で均等に分ける。……どうだ?」
たとえば今回は、供託金を除いた三十万ドゥレのうち、十五万ドゥレを無銘に残す。
残る十五万ドゥレを三人で分ければ、一人五万ドゥレだ。
「私としては、どうせご主人様に貢ぐ予定なのでなんでも」
「わ、私もです!」
「待て待て待て待て」
リタの冗談に、当たり前のように同意してみせるミアに俺は遠い目を向ける。
「ミア、リタの冗談は真に受けないでいいぞ?」
「「? 私のお金はご主人様(シードさん)のお金ですが?」」
勘弁してくれ。
(まあ、報酬は問答無用で押し付けるとして──)
「ミア、壊れた剣はとりあえず経費として付けておけ。明日、新しい武器を買いに行くぞ」
「──へっ!?」
俺の言葉に、なぜかミアは目をまんまるにしていた。
コメント
1件
あらためてギルド「無銘」が正式にスタートしたね……!✨ ミアが自分の名前が登録証に載ってるのを見て「私も最初の三人なんですね」って言うシーン、じーんときたよ😭💕 シードさんの「おまえを抜いて誰を入れるんだ」って言葉も優しすぎる……! あとミアとリタが「私のお金はご主人様(シードさん)のお金ですが?」ってハモるところ、めっちゃ笑ったw 新しい武器楽しみにしてるよ、ミア! 次も絶対読むからね〜📖🌟