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「――いいぜ乗った。お前が俺にもう一撃喰らわせられたら、情報を教えてやる!」
(……ハッ、やっぱ単細胞じゃねぇか。……いや、待てよ。こいつ、分かった上で乗ってんのか?)
「言っとくけど、やるからには全力で行くからな! いくら神様でも手ぇ抜いたら許さねぇぞ!」
「望むところだ! その『すたみな料理』、俺の胃袋にぶち込む権利……力ずくで毟り取ってやるぜ!」
白虎は琥珀色の瞳をぎらつかせ、再び野性的な殺気を膨らませた。
さっきまでの遊び半分の空気じゃない。今度は本気で、煌の拳そのものを見にきている。
「おい、待て! 待たぬか童殿! わしを……わしを差し置いてそのような約束を……っ! 『すたみな』なる料理を、あのような野蛮な猫擬きに食わせるなど、この朱雀が許さぬぞ!!」
「愛なんてこもってねーよ! ただのニンニクたっぷり肉料理だ。いいから黙ってろエロ鳥! 燕花、朱雀が突っ込んでこねーように押さえとけ!」
「承知いたしました」
事務的に頷いた燕花に、今度は本当に物理で引き留められた朱雀が「煌ぉぉぉ!!」と悲痛な叫びを上げる。
それを背に、煌は重心を低く落とした。
身体の節々は悲鳴を上げている。だが、ここで負ける気だけはさらさらなかった。
「おらぁぁぁっ!!」
煌が地を蹴った。
白虎の巨躯が岩みたいに立ちはだかる。今度は先ほどよりも速く、鋭い。白虎の拳が空を裂くたび、頬を熱風が掠め、丸太みたいな腕を捌くたびに腕の芯まで痺れが走った。
(……っ、マジで化け物かよ。だが……!)
煌は、あえて白虎の懐へ飛び込んだ。
死角に入った瞬間、白虎がニヤリと笑う。その剛腕が煌の横腹を薙ごうとした、まさにその時だった。
胸の奥で、あの浄化の気が、また一気に膨れ上がった。
「そこだぁぁっ!!」
――ドゴォォォンッ!!
煌の渾身の右ストレートが、白虎の肩口にクリーンヒットした。
ただの打撃じゃない。白虎の纏っていた強大な霊力を、煌の拳が一瞬で剥ぎ取る。
「……ぐっ、お、ぉぉぉ……っ!?」
白虎の巨体が大きく後退し、今度こそ地面を割って膝をついた。
「……ハッ、ガハッ……! げほっ……なんて威力だ。……神の理を根こそぎ『無』にしやがる。面白ぇさすが鉄拳の巫女……!」
白虎は肩を押さえ、脂汗を流しながらも狂喜の笑みを浮かべた。
一方で、ようやく燕花の手を振り払った朱雀は、煌の無事を確かめるより先に、倒れ伏す白虎を燃えるような目で睨みつけた。
「……勝負はついたな。白虎、約束通り情報を吐け。さもなくば今度こそ、その不快な耳を根元から焼き払ってやる」
「ハハ! 分かった、わかった。約束は守ってやる! 朱雀。……おい、煌。よく聞け」
白虎は表情を引き締め、鼻先をひくつかせた。庭に漂う空気を嫌うように、低く吐き捨てる。
「俺の部下を探りにやらせたところ……どうも北が臭ぇ。ここ数年、北峡幽谷から流れてくる商人どもが、闇で『仙煙草』を捌いてるって話が出てる」
「玄武、だと……? あやつが関与しておると言うのか?」
朱雀の声から、一瞬で熱が抜けた。
「なぁ、燕花。玄武って、なんだ?」
「四神の一角にして、北の守護神であらせられます。北峡幽谷一帯を治めておられ、冷酷で理知的、何を考えているのか読めぬお方だと。……私も直接お目にかかったことはございませんが、良い噂はあまり聞きません」
燕花の静かな説明が終わるころには、さっきまで白虎と朱雀の応酬で騒がしかった庭が、妙にしんと静まっていた。
「……さて、と。情報は渡した。約束は果たしてやったぞ」
白虎はそう言って立ち上がる。が、帰る気配はない。むしろ当然のような顔で肩を鳴らし、そのまま縁側へ向かっていこうとする。
「おい。どこへ行く」
「どこへって、決まってんだろ」
白虎は振り返りもせず、にやっと犬歯を見せた。
「約束の『すたみな料理』だ。情報を渡したんだから、食う権利はある」
「チッ。覚えてやがった……」
「ん? 何か言ったか? ほら、鉄拳の巫女。約束しただろうが。忘れたとは言わせねぇぞ」
白虎はどこ吹く風で、勝手知ったる顔で縁側にどかりと腰を下ろした。
「燕花、茶でもくれ。ああ、腹減った。肉だと嬉しい」
「図々しさだけは天下一品ですね、白虎様」
「貴様……本当に焼かれたいらしいな」
朱雀が低く唸る。その横で、煌はこめかみを押さえた。
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