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うわあ、初々しいなあ、あの二人。
私の視線の先には、どうやら付き合い初めたばっかりらしい高校生カップルがお互いに視線を合わせたり逸らせたりしながら所在無げに座っている。
男の子はいかにも硬派、って感じかな。大きな体とちょっと強面な雰囲気、目の前のコーヒーを睨んでは眉間に薄っすら皺を寄せている。対して女の子は小さくて小動物みたいな感じで、男の子の小さな仕草にいちいちピクンと反応するのが可愛らしい。
初デートに私のカフェを選んでくれたらしい彼らは、会話らしい会話もできないまま、ああしてもう30分ほどはモジモジ、ソワソワとお互いを窺いながら時を過ごしているのだ。
なんたる初々しさ。超可愛い!
微笑ましくって何気なく彼らを見ていたら、脳裏に美味しそうなチョコレートパフェがフッと浮かんだ。
なるほど、なるほど。それが今の彼らに必要なアイテムってわけね!
早速厨房に戻り、チョコレートパフェを二つ作っていそいそと彼らの席に向かう。
「はい、これサービスよ。これからも来てね」
コトン、とパフェを置いた瞬間の男の子の表情の激変は見事だった。
「うわすげえ、美味そう……!」
瞳がキラッと輝いて、口元は綻び、頬っぺたはほんのりと紅い。なんていうか、全身から幸せオーラが立ち昇ったんですけど!
可愛いな、おい!
「江森くん、パフェ好きなんだ……」
呆気にとられたような女の子の声に、一瞬「しまった!」とばかりに顔を歪めた男の子。「いや、あの……」とモゴモゴおろおろしだした彼は、「あたしも甘いの大好き!」という彼女の愛らしい笑顔を目にして、面白いくらいピキンと固まった。
おお!ドストライクだったらしい。
内心萌えまくっているであろう彼に彼女は追撃の手を緩めない。
「嬉しいな、これから一緒に甘いものいっぱい食べられるんだね」
はにかみながらの笑顔で嬉しそうに繰り出された言葉に完全ノックアウトされたらしい彼は、真っ赤になりつつオモチャみたいに首を上下に振っている。
うむうむ。青少年よ、思う存分萌えるがいい。家に帰ってからなら「可愛い!」と叫ぼうがクッションを抱きしめてゴロゴロと身悶えようが自由だ。いかに強面だろうと家の中であれば誰にも白い目では見られまい。
いやあ、いい仕事をした。
可愛い初デートを見学できてすっかりご満悦の私に、帰り際、強面の男の子はこっそりと「なんでパフェ……俺が甘いの好きって分かったんスか」と聞いてきた。
でもねえ、それはさすがに言えないよ。
なんせ私、佐藤あかり23才は、つい1年ほど前まで異世界で「導きの聖女」をやっていたのだ。
誰かの未来をちょっと明るくするアイテムが見えちゃうのなんか、仕様である。
ああやって幸せそうな恋人達を見ると、嬉しい気持ちの一方で一抹の寂しさが胸を過ぎる。
それはきっと、あの異世界で今も暮らしている私の愛しい人を思い出してしまうからだろう。
元気かなあ、神官長様。
今でも鮮明に覚えてる、私があの世界を離れるんだと分かった時の神官長様の驚愕した顔。いつだって冷静で、端正な顔に揺るがない微笑を浮かべてたあの方の、あんなに驚いた顔、初めて見たんだよね。いやあ、最後にいいもの見れたなあって、結構感動したの。
思い出して、思わずふふっと笑いが漏れる。
私の大好きな人は、あの世界で初めて出会った人だった。
流れるような白金の艶めかしい髪も、紫の瞳も、常に微笑みを湛えた口元も、全てが好み……さっきの強面くんじゃないけど、萌えまくった私は一目で恋に落ちた。
神殿でも魔を祓う旅路でも、溢れる気持ちを抑えきれなくってかつてないほど情熱的に愛を伝えたわけだけど、気持ちいいくらい空振りしてたっけ。
うん、全然だめだったなあ。
神官長の困ったように笑う顔が思い出される。そうね、1日3回くらいは振られてたと思う。
当時の自分を思い出すと恥ずかしいけど、あんな情熱はきっと、もう二度とない。
一年も経つというのにあの方の姿を思い出すだけで胸が熱くなるどうしようもない私と違って、神官長様の心は今日も、女神エリュンヒルダ様への祈りと民への慈愛で満たされて、平和になったあの世界で心穏やかに過ごしていらっしゃる事だろう。
いつだって静謐な佇まいで、暇さえあれば女神への祈りを捧げていた。
背筋がピシッと伸びていて、所作の一つ一つが優雅だった。
旅の途中で出会った人の、どんなに小さな困りごとも真剣に耳を傾けていた。
優しいけど、お役目にはとてつもなく厳しくて妥協を決して許さなかった。
褒めたり、叱ったり、励ましたりしながらも、いつだって私と向き合ってくれた。
大好きで、大好きで。
だからこそ、私は別れを決意した。
全ての魔が祓われて、凱旋したその日。私は夢の中で女神エリュンヒルダ様にお会いした。
女神はまるでヴィーナスもかくやという眩いばかりの美貌だというのに気さくな方で、たくさんのお話をした。とっても感謝してくれて、地に投げるだけでいつでも日本の元の時間軸に戻れるという石をくれた上で、世界を救ったお礼に、一つだけ望みを叶えてくれるという。
その夢のような話に、私のテンションはいきなりマックスまで上がった。
だって、女神様が願いを叶えてくれるんだよ!?
そんなの、女神エリュンヒルダ様じゃないと出来ない事をやってもらうしかないじゃない?
女神エリュンヒルダ様を篤く篤く信仰する神官長が喜ぶ顔が目に浮かんで、私は狂喜乱舞した。
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