テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝私は、神官長様がどれだけ喜んでくれるかを想像しては期待に胸を膨らませていた。
その時には既に役目を終えたら日本に帰る事を密かに決意していたから、神官長様ともう二度と会えなくなるという事実から目を背けていたとも言えるんだけど。
「おっ気合い入ってんな!」
「ホント、聖女の正装なんて久しぶりね」
魔を祓う旅の仲間、聖騎士のコールマンと魔術師でこの国の王女でもあるユーリーンが揃って現れた。
この二人と神官長様と、私。四人を中心として王家の兵、神兵の精鋭計十名程と側付き一名のそれなりな規模で行われた旅は一年に渡り、二人はその中で徐々に絆を深めて今では誰がどう見ても分かる程のアツアツカップルになっていた。故に一月後には婚姻を結ぶ事になっている。
いいなあ。
正直羨ましい、私と神官長様なんて1mmも進展しなかったのに。
内心ブチブチとグチっていたら、コールマンが爽やかな笑顔でからかってくる。
「なんだ、今日の凱旋披露のためにめかし込んだのか?」
そう、今日はお城のバルコニーから町中の人に、魔を全て祓い私達が凱旋した事を披露する大切な儀式があるのだ。いつもはおちゃらけちゃう私だけど、確かに今日だけは聖女っぽく、神秘的で気高い感じが求められる。
私のために作られた、清廉さを醸し出す純白の衣装に身を包み、髪は結い上げてお化粧だって清楚な雰囲気でバッチリ決めてきた。
その雰囲気を保つのは私にとっては難題だけど、今日は女神様のお言葉を伝える最後の機会だ。旅の仲間達のためにも、もちろん神官長様のためにも頑張らなくちゃ。
「うん、もちろんそれもあるんだけど、今朝ね、女神様とお話したの」
その言葉に反応したように、長身の白い影がバルコニーに現れた。
「まさか、エリュンヒルダ様のご神託ですか?」
「あっ神官長様、大好きです!」
神官長様を見た途端、思わず口から出たのはいつも通りの言葉だった。
「……魔を浄化しても貴女は本当に変わりませんね、ですが」
愛しの神官長様は、いつものように少し困った眉で言う。だってしょうがないよね、その麗しい顔を見ちゃったら言わずにはいられないよ、だってもう条件反射レベルだもん。
でもね、神官長様が言いたい事なんてちゃんと分かってる。もう耳タコってくらい言われてるし。
「分かってます、我が敬愛の全ては全て女神エリュンヒルダ様に捧げしもの、我が慈愛の全ては困窮の徒に捧げしもの、ですよね。そんなところも大好きです!」
「全くもう、貴女という人は……しかし」
「神官長様」
お小言モードに入りそうな神官長様を遮って、私は女神様のお言葉を告げる。
「女神エリュンヒルダ様、とても喜んでいました。神官長様の祈りがこの世界を救ったんだって」
「!」
驚きに目を見開いてしばらく言葉を失っていた神官長様は、震える手を胸の前に組み合わせ一心に祈りを捧げる。
ふふ、そりゃ喜ぶよね。神官長様、本当に女神様大好きだもんなあ。
「さあ、そろそろ始めるわよ」
王女ユーリーンがバルコニーの先の方へ体を進めると、割れるような歓声が場を包んだ。
バルコニーの下には見渡す限りどこまでもどこまでも人の波。誰もが何か叫んでいて、熱狂している。人々のパワーがこっちまで伝わってくるみたい。
この国の王である、ユーリーンのお父様が威厳たっぷりに姿を表すと、熱狂は最高潮に高まった。もはや人々が叫ぶ声は地鳴りのように響いている。
「アカリ、頼むわね」
「任せといて」
私はスキルを発動した。
女神様から授けられた、極めて特殊なスキル『ビジョン』と『拡声』。見せたい映像と音声を人々の脳裏に直接送る事ができるという、なんともお告げ向きの能力だったりする。
王様が一歩前へ歩み出たのを受けて、私は王の姿と声を人々に送った。
気分は敏腕テレビクルー。カメラワークも音声もスイッチングも一人で行うから頭の中は割と大忙しなんだよね。
はい、準備OKです! 王様、どうぞ!
そんな気持ちで目配せすれば、王様はおもむろに口を開いた。
「見よ!」
王様の重低音の素敵ボイスが響き渡る。
人々の頭にも、この王様の荘厳な姿と重々しい声がリアルに映し出されたのだろう、一瞬驚く程の静寂が訪れた後、爆発したように拍手と歓声が巻き起こった。
「見よ、この抜けるような青空を」
見れば、どこまでも澄んだ青い空。
私がこの世界に来た当初は、どんなに快晴でも空気に黒い粒子が混ざったように世界は全て黒ずんでいた。
空を見上げても黒ずんでいて爽やかさなんか微塵もなかったし、何より太陽の光が遮られて作物の実りも悪くて飢饉が頻繁に起こるし、気温が下がる一方なのに暖も取れないというまさに危機的状態だった。
各地を回って魔に取り込まれた物を討伐したり魔を払ったりする毎に、黒の粒子は薄まって空が少しずつ青さを取り戻していくのが嬉しかった。
「見よ! 魔は全て祓われた!」
バルコニーの下から割れるような歓声が響く。みんな、とっても喜んでくれているのが分かって凄く凄く幸せな気持ち。
「此度の魔を祓った英雄達を紹介しよう、皆の者、篤き感謝を」
王様に紹介され、聖騎士コールマンが、神官長ナフュールが、王女ユーリーンが、それぞれ人々に向けてメッセージを送る。そのどれもが熱狂を以って迎えられ、場はヒートアップしていく一方。
それでも私たちのメッセージが人々にちゃんと伝わっていくのは、この『ビジョン』と『拡声』のスキルのおかげだ。なんとも便利である。
「最後に、女神エリュンヒルダの声を聴きこの旅を導いた聖女アカリよ、前へ」
王様に促され、私はバルコニーの一番前まで進みでる。眼下の人々の熱狂は物凄くて、少したじろいでしまうほど。
でも、今日は怖気付いてはいられない。最後のお役目を全うしなくては。