テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第1話 高嶺の花は笑わない
放課後の教室。伊織は一人、窓の外を眺めていた。教科書を閉じた音が響き、クラスメイトたちがざわつきながら帰り支度を始める。
「花野さん、この問題の解き方、教えてくれないか?」
そんな中、高橋颯(たかはし そう)が伊織の机にやってきた。彼はクラスの人気者で、誰にでも気さくに話しかけるタイプだ。伊織は視線だけを彼に向けると、一言も発さずにプリントに目をやった。
「えーと、ここが分かんなくて…」
颯はプリントを指さしながら、困ったように笑う。伊織はため息をつくと、彼の顔を見ずに冷たく言い放った。
「聞く前に教科書を見直したら? そんなことも自分でできないなら、一生分からなくていいわ」
颯の笑顔が固まる。周りで聞いていた女子たちが、「また花野さん、ひどいこと言ってる…」とひそひそ話すのが聞こえた。
「そっか、そうだよね。ありがとう」
颯は気まずそうに笑い、自分の席に戻っていく。その背中を、伊織は冷めた表情で見つめていた。彼の表情を見て、胸の奥が少しだけ痛む。だが、その痛みには慣れていた。
自宅に帰ると、玄関先で近所の幼馴染、佐々木華也(ささき かや)が待っていた。彼女は伊織とは正反対で、いつも明るく朗らかだ。
「伊織ちゃん、おかえり! 今日も颯くんと話してたんでしょ?」
華也は、伊織が颯と話しているのをよく見かけるらしい。伊織は表情を変えずに答える。
「別に。話したって言えるようなものじゃないわ」
「でも、颯くんって伊織ちゃんにもめげずに話しかけるよね。すごいなぁって思うんだ」
伊織は無言で靴を脱ぐ。華也がなぜか颯のことを話すたびに、伊織の心にはチクリとした痛みが走る。まるで、過去の出来事を思い出させるように。
夜、自分の部屋に戻った伊織は、スマホの画面を開いた。画面には、彼女が心を閉ざすきっかけとなった「ある事」が起きた、中学時代の集合写真が表示されている。写真には、伊織と華也、そしてもう一人、満面の笑みを浮かべた少女が写っていた。
その少女の名前は、葛木玲奈。
伊織は画面をスワイプして、写真を閉じた。
(もう、誰のことも信じない…)
彼女の心の中で、冷たい決意が再び固まる。その時、スマホに一件の通知が届いた。差出人は知らない番号。
『久しぶり、伊織。元気?』
送り主の名前に、伊織の表情が凍りついた。
『葛木玲奈(くすき れな)』
❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁‥❁
キャラ紹介
❊花野伊織(はなの いおり)
高1
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能
でも、無愛想、無表情で毒舌
ある事がきっかけで誰のことも信用しなくなった
クラスのみんなからは「高嶺の花」と呼ばれている
❊高橋颯(たかはし そう)
高1
明るく、クラスでも人気がある
伊織に話かけている
❊佐々木華也(ささき かや)
高1
伊織の唯一の理解者
伊織が心を閉ざすきっかけになったことを
しっている
家が近所で幼馴染
❊葛木玲奈(くすき れな)
高1
伊織が心を閉ざすきっかけになった人物
華也と伊織と仲が良かった