テラーノベル
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とある日の午後、フィアディル公爵邸にある私の部屋にて。
私は彼と魔法の練習をしていた。
魔力を体内に循環させる練習は終わり、魔力を魔法として体外に出す練習が今日から始まった。
「こ、こうでしょうか?」
「いや、そうじゃない。もっと魔力を身体の外に出すことだけに集中するんだ。余計なことは考えるな」
もっと……集中……。余計なことは考えないように……。
すると私の手の平から、淡い黄金色の小さな光がぽうっと生まれた。
「あ……!」
で、できたっ……と思った瞬間だった。
突如、視界がチカチカと白く弾けた。
同時に、心臓が鷲掴みにされたようにぎゅうっと胸が苦しくなる。
な、なにこれ……?痛いっ……。
私が胸を押さえたのと彼が「リリアーナ!」と叫んだのは同時だった。
私の身体は後ろに倒れ、私は意識を手放した。
私はゆっくりと重い瞼をこじ開けた。
私はベッドに寝かされているらしく、仰向けになった状態で、すぐそこに彼の整いすぎた顔があった。
と、彼が私に気づく。
「大丈夫か?」
彼の心配そうな顔を遠目に見ながら、こくんと頷く。
彼はそんな珍しい表情のまま言葉を続けた。
「悪かった。無理をさせてしまったな」
彼の謝罪に、私は首を横に振る。
「いいえ、そんなことはありません」
かすれた声が出た。
今気づいたが、私の顔は汗でびっしょり濡れており、まるで熱を出したときのようだった。
意味がわからず、私は彼に問うた。
「ところで私どうなったのですか?」
「ああ、お前は魔力暴走を起こしたんだ」
……やっぱり。
「あの後お前は気を失って、暴走を食い止めるために俺の魔力をお前に流し込んだ。他人の魔力がいきなり流れたから、お前の身体が騒いでいるんだろうな」
なるほど、だからこんな熱を出したみたいになっているんだ。
私は一つ頷く。
……ああ、それよりも。
私は重い上半身を無理矢理起きあがらせた。
私のその行動に、彼は目を見開いて焦ったように言う。
「何してるんだ。身体がまだ重いだろ」
「いいえ、大丈夫です」
私は首を振った。
「大丈夫じゃないだろ。顔が真っ青だ」
「それでも大丈夫です」
私は彼に微笑んだ。
なのに彼は、その美しいかんばせを歪ませる。
何て優しい人なの。私を心配してくれるなんて。
私は嬉しさを噛み締めながら、彼に頭を下げた。
「ごめんなさい。迷惑をかけてしまって」
ただ、それだけ言いたかった。彼に謝りたかった。
「謝らなくていい。お前は生きていてくれるだけで十分だ」
慈しみを孕んだ声だった。
私は驚いて目を見張り、顔を上げる。
彼は、心配そうな顔で私を見つめていた。
私は何度彼に助けられていることだろう。伯爵邸にいたときも、あの暗闇にいたときも、そして今も。
ありがとう。ありがとう。
私の目から雫が零れ落ちた。
それは止め処なくあふれてくる。
「……泣くな」
彼は悲しそうに言って、私の頬に手を伸ばし、その温かく大きな手で涙を拭ってくれた。
その優しい手に、私は一層泣いてしまった。