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切ない…😭 こんなに書くのが上手な人と合作できるなんて✨
⚠️こちらは第4話。第3話はがるぼさんのアカウントへ。
Side kym.
「……外で見たとき、綺麗だったな」
窓の外に咲き誇る桜の木を一緒に眺めた最愛の人は今、ベッドの中。
声もなく、ただ静かにうなずく。
その端正な顔は緑色の酸素マスクに覆われている。
桜はもうすぐ散りゆくのだろう。
花を綺麗と思うようになったのは、北斗の病気がわかってからだった。
それまでは道端に咲いているたんぽぽも、
誰かの家の玄関先に咲くチューリップも、
みんなが春に花開くのを待ちわびる桜でさえも、
そこにあるのがあたりまえで。
その美しさは格別だなんて思えなかった。
でも、命の刻限を知らされた彼は、どんなに小さな花でも慈しんだ。
ここに咲いてるのはきっと奇跡なんだよ。
そんなことを言ってたっけ。
なら、俺と北斗が出会い、愛し合えているのもたぶん――いや、間違いなく奇跡だ。
あの桜を一緒に見ることができたのも、あたりまえじゃなく、奇跡で、幸せなこと。
「北斗」
『……たいが』
くぐもって掠れた声が耳に届く。
その声に返す言葉が見つからなくて、俺はうつむく。
少しでも彼といる時間を大切にしたいんだけど、俺のこんな無能さで秒針は過ぎていってしまう。
幸せだけ時を止めて、永遠に続けばいいのに。
「あのさ。好きだよって、もっと伝えたい」
『……ん』
「一生、ずっと、伝え続けたかった」
『…おれ、も』
「グスッ…やっぱまだ短いよね。ちょっとだけしか言えてないよ」
『いっぱい、もらったよ』
「まだ言い足りない」
『…大我…』
呼び掛けたあと、小さなうめき声を上げた北斗の細い指がぎゅっと毛布を掴む。
慌てて椅子から立ち上がった。
「北斗、大丈夫だよ。俺がいるから、大丈夫だから」
言えば言うほど、慰めの言葉が軽くなっていく気がした。
北斗の苦しみを取ってあげたい。
でも俺は北斗の身代わりになることはできないし、北斗の病を治すこともできない。
だから言葉を掛けることしかできないのに。
「ほら、泣くなよ…」
何も言わずに涙を流す北斗の痛みだけが、痛いほど染みる。
俺はこの雫を拭う。
そして、北斗のために涙を落とす。泣くのは俺だけでいいんだ。
もう少しだけでも、彼に笑ってほしいから。