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#ざまあ
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「クビだ…嘘だろ、俺が……この俺が、クビ……?」
翌日の午後
這うようにして帰宅した直樹の手には、一通の封筒が握られていた。
懲戒解雇
退職金は一円も出ず、業界内にも悪評が広まることは避けられない。
直樹はリビングの床にへたり込み、幽霊のような顔で笑い出した。
「ハハ……。終わった。全部終わった……。おい、詩織。お前、貯金あるんだろ? 出せよ」
直樹の濁った目が、獲物を探すように私を射抜く。
私は無言で、陽太の部屋の入り口に立っていた。
陽太は今、塾に行っていて不在だ。
この子がいない時で良かった。
「……貯金なんてないわ。あなたが200万も使い込んだじゃない」
「嘘をつくな!最近、夜中にパチパチやってたろ。何か隠してるはずだ。……あっ、あの鞄だろ!」
直樹が獣のような速さで、棚の奥に隠していた私の仕事用バッグを掴み取った。
「やめて、直樹!」
私が駆け寄るより早く、直樹は中から一冊の通帳を引きずり出した。
そこには、先日振り込まれたばかりの30万円と、これまでの報酬が記帳されている。
「30万……!? お前、こんなに持ってたのか! なんで隠してたんだよ!」
直樹の顔に、醜い歓喜が広がる。
「これをよこせ。これで莉奈への慰謝料を……いや、俺の再起の資金にするんだ。お前みたいな無能の金じゃない、俺の金だ!」
直樹が通帳をポケットにねじ込み、玄関へ向かおうとする。
私はその腕を、全力で掴んだ。
「返して!それは私が、陽太との生活のために必死で稼いだお金よ!」
「どけ!養ってやった恩を忘れたのか!」
直樹が私を突き飛ばそうと、右手を振り上げる。
殴られる。
そう確信して目を閉じた瞬間
「……そこまでだ、直樹」
低い、聞き覚えのある声がリビングに響いた。
直樹の手が止まる。
振り返ると、そこには私の兄と、私が事前に依頼していた弁護士の先生が立っていた。
「……は、?なんで……」
「詩織から全部聞いてる。お前が妹にどんな仕打ちをしてきたか、そして今、暴力を振るおうとしたこともな」
「……今この瞬間から、お前に対して『接近禁止命令』の申し立てを、暴行未遂の現行犯で行う用意がある」
弁護士の先生が、冷静にICレコーダーとスマホのカメラを掲げる。
私が合図を送った瞬間に、彼らは突入してくれたのだ。
「……は、ハメたな。詩織、お前……!」
「ハメた?心外ね、直樹」
私は床から立ち上がり、乱れた髪を整えながら、冷徹に言い放った。
「その通帳、返しなさい。それは私の個人事業主としての事業用口座よ。あなたが一円でも持ち出せば、不当利得どころか、窃盗罪で被害届を出すわ」
「……もう会社をクビになっただけの夫でいられる時間は、終わったのよ?」
直樹は震える手で通帳を床に投げ捨てた。
逃げ場を失い、家の中で孤立するクズ。
かつて私を「1円の誤差」で罵倒した男のプライドは、今、私の足元に転がっている。
「…離婚協議書は、後で先生から送らせるわ。今すぐこの家から出ていって」
「……っ…ふ、ふざけるな! ここは俺の……っ!」
「名義は私と父の共有名義よ。あなたには何の権利もないわ」
直樹は言葉を失い、膝から崩れ落ちた。
これが、私を家計簿の檻に閉じ込めた男の本当の姿だ。
【残り87日】