藍Side
「ん‥‥‥」
‥いつの間に寝てしまったのか‥
ふと目が覚め‥周りを見渡すと祐希さんのベッドで寝ていた。
枕元には俺の携帯が置いてある。
祐希さんは‥?
そう思い上半身を起こす時に‥
またあの鈍い痛みが腰に響く‥。
その痛みが、昨日の事をリアルに教えてくれている気がした‥。
そして‥
祐希さんは部屋にはおらず‥俺一人なのだと気付いた。
ボフッ‥。
枕に顔を埋める。
‥祐希さんの匂いがする‥
ぽろぽろ‥
訳もなく涙が溢れ‥
身体の痛みからなのか、心なのか‥
祐希さんの部屋で一人静かに泣いた‥
朝になっても祐希さんは部屋には戻ってこなかった‥。
その後、
部屋に戻りシャワーを済ませ‥食堂へと向かう。
「あっ、藍!?」
入るといきなり小川さんから声をかけられた。
「遅いから電話したのに出ないじゃん!」
心配してくれたんやろか‥。謝りながら、席に着く。
そして‥‥
周りを見渡す‥。祐希さんは‥‥‥来ていないみたいだった。
「‥‥祐希さん、探してるの?」
「へ?‥あっ、い‥いや、そんな訳じゃ‥」
見透かされているような小川さんの表情に、しどろもどろになって返事をする‥
そんな俺を見て小川さんが、はぁと深いため息‥。
「バレバレだっつうの!祐希さんなら俺等が来た時に出ていったよ」
もう?
今朝も部屋にはいなかったし‥祐希さんはどこに行っていたんだろうか‥
その事が気になり、朝食も手につかない‥そんか俺を見ていた小川さんが‥
「なぁ?藍?」
「ん?」
「あれから‥祐希さんには会ってないよな?」
「‥‥‥‥‥」
「お前に‥その‥‥あんな事したじゃん?だから、もう祐希さんが来ても断れよ!それに、あっちは既婚者なんだから‥」
「‥‥‥うん、わかってる‥そうやね‥‥」
心配かけたくない一心で笑い返す俺を見て、小川さんはうんと頷いていた‥。
ただ俺は‥
“既婚者だから‥“
その小川さんの言葉だけがずっと頭から離れなかった‥。
そうだ‥。
祐希さんは半年前に結婚した‥。
なのに何故‥また俺のところにきたのか‥。
“これからも藍を抱く“
その言葉には意味があるのか‥。
わからないことだらけだ‥。
午前中から練習は始まった。
最初に軽くストレッチを始め‥様々なメニューに取り組んでいく。
そこで今日はじめて祐希さんと会った‥。
普段と何も変わらず淡々としている。まるで俺だけが気にしているみたいや‥。
ストレッチも終わり、練習メニューに入る。
いつも通りのはずだった‥。
しかし‥‥‥‥
「あっ‥‥‥‥‥」
ジャンプ後に足首に違和感を感じた。後遺症のせいだろうか‥。
痛みはそこまで酷いわけじゃなかったが、トレーナーの診断で今日は練習を控えるよう言われる‥。
「すいません‥‥」
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
処置をしに医務室へ‥
そして、一人戻る途中‥‥‥‥‥
ホールのところに、女性が一人立っていることに気付く。
背の高い細身のパンツスタイルのその女性は、俺を見て、フフフと笑った。サングラスをしていたが‥
すぐに分かった‥
祐希さんの
結婚相手だと‥‥‥‥‥。
「あっ、どうも‥。会うのは2回目ですよね‥結婚式とても素敵でした」
近くで見ると‥本当に綺麗な人だった。
「どうも、ありがとう。藍さんですよね?」
サングラスを外し、また俺の顔を見て微笑む‥。
自信に溢れた瞳は力強く‥どことなく祐希さんに似ている気がした‥。
「はい!いつもお世話になっています」
「‥フフフ‥」
彼女はそう笑うと、ただ俺をじっと見つめていた。
まるで何もかもが見透かされそうで、つい視線を逸らしてしまう‥。
「あっ、あのう‥祐希さん!呼んできましょうか?」
祐希さんに会いに来たのだろう。そう思い振り向こうとした俺を‥
グッ! と掴み、彼女は首を降る‥。
「いいの、別にあの人に会いに来たわけじゃないから。ここに来たのもたまたま近くを通ったからで‥」
綺麗な瞳がさらに俺に近付く‥。
「それに、わたし貴方に会いたかったの」
「えっ?‥」
「だからもう会えたからいいわ、主人には伝えないでいて‥ここに来たこと」
俺に会いに来た?
何故‥‥‥?
‥まさか‥‥俺たちの関係を知っている?
色んなことが頭の中を駆け巡る‥。
そんな俺の顔を見て‥彼女はまた笑う。
「気をつけて‥貴方顔に全部出てるわよ‥面白いぐらいに‥そんなところを主人は好んでいたのかしら‥」
「‥‥えっ?」
「フフ‥こっちの話。それにしても‥」
そこでさらに彼女は近づき、俺の顎に手を当てながら‥
「貴方‥まるで捨てられた子猫みたいな顔してるわよ‥寂しくてたまらない、そんな顔‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「子猫ちゃんね‥可哀想に」
それだけ言うと‥彼女は去っていってしまった。
俺は‥
ただ呆然としながら
去っていく彼女の後ろ姿を見つめる事しか出来なかった。
「あっ、藍?足は大丈夫だった?」
コートに戻ると‥休憩に入ったのか、智さんから声をかけられる。
「大丈夫です、すいません‥」
そんな俺に‥そか、良かったといつものように微笑む。その隣の太志さんからも‥
「酷くなかったって?良かったよ、心配したから‥」
そう話す太志さんに視線を移すと‥後ろには、祐希さんが他の人と談笑しているのがみえた。
とても楽しそうに‥‥。
「‥‥藍?どした?」
俺が黙ったままだったので、太志さんが覗き込むように俺の顔を見つめる‥。
「あっ、すいません‥太志さん大丈夫っすよ!少し安静にしたらいいらしいっすから」
心配そうな顔を見上げ‥ニコっと笑う。
「そっか?まぁ、無理すんなよ」
俺の肩をポンと叩き、また練習に戻っていった。
練習風景を1人眺めながら‥
さっきの彼女の言葉を思いだす‥。
“捨てられた子猫みたい‥“
“可哀想に‥“
俺が?
捨てられた?
可哀想?
幾度もその言葉が頭の中を駆け巡る‥。
俺は‥‥可哀想なのか?
‥‥‥‥‥
祐希さんに振られ‥未練たらしくいる俺は可哀想なのか‥
‥‥‥‥ただ、ひたすら好きだっただけなのに‥。
その時‥‥‥
自分の中にもう一つの感情が生まれる‥
俺はこれからもずっと祐希さんを想ったとしても‥
祐希さんは戻らない。
パートナーを得たのだから‥。
このまま
祐希さんだけが幸せになる‥。
俺を置いて‥
そんなのは許さない‥
許していいはずがない。
祐希さんが俺を気まぐれで抱くのなら‥
その気持ちを利用してやる。
もう一度祐希さんの気持ちを俺に向かせる。
そうして、
祐希さんの心の中が俺でいっぱいになればいい。
その時がきたら‥‥
俺から捨てるんだ‥
祐希さんを‥。
そうこれは
俺の復讐なんだ‥‥‥‥
コメント
11件
うわぁーなんか最高です!
コメント失礼します☺️ だんだんとお話が深くなってきましたね!楽しみになってきました☺️ これからも頑張ってください! 応援しています♪