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……思い出せない。
なぜ、あの日、窓を開けたのか。
普段なら、絶対に気にしなかったはずのことだった。
いつも通りの、退屈で平穏で安全な一日。
――ただ一つ、違っていたのは。
音が、なかった。
【静寂】
冷蔵庫の低い唸りも、
遠くの車の走行音も、
隣の家の生活音も。
何も。
あまりにも自然すぎて、
最初は「静かだな」と思っただけだった。
気づかなければよかった。
それは、気づいてはいけない違和感だった。
私は窓を開けた。
風は吹いていなかった。
なのに、カーテンが揺れた。
外は、昼間のはずなのに薄暗い。
空はあるのに、色がなかった。
私は、外へ出た。
少し歩くだけのつもりだった。
曲がり角を抜けた瞬間、
それはいた。
人の形をしていた。
けれど、人ではなかった。
顔の半分を占める、不釣り合いな目玉。
瞬きはしない。
ただ、こちらを見ている。
一体だけじゃない。
道路いっぱいに、
住宅の隙間に、
電柱の影に。
――すべてが、こちらを向いていた。
その瞬間。
「ミツケタ」
声は一つだったはずなのに、
街中から重なって聞こえた。
「ミツケタ、ミツケタ、ミツケタ」
笑い声が広がる。
ケラケラケラケラ。
私は走った。
家に飛び込み、鍵を閉め、カーテンを引いた。
でも、遅かった。
見られた。
“こちら側にいてはいけない私”が、
あちら側に認識された。
それから毎晩、“静寂”が来る。
時間は決まっていない。
音が消える。
時計の秒針が止まる。
自分の呼吸だけがやけに大きく響く。
そして――視線。
壁の向こうから。
天井から。
床の下から。
私は気づいていないふりをする。
気づいたら、終わる気がするから。
三週間が過ぎた。
最近、鏡に映る自分の目が、
少し大きくなった気がする。
瞬きの回数が減った。
笑うと、口の端が勝手に引き上がる。
今日、久しぶりに“ニンゲン”を見た。
音があった。
足音があった。
呼吸があった。
懐かしくて、嬉しくて、涙が出そうになった。
そして、私は――
笑っていた。
口が勝手に動いた。
「ミツケタ」
……あれ?
どうして、あの人、そんな顔をしているの?
どうして、逃げるの?
私は手を伸ばした。
やっと帰れる。
やっと、あちら側から抜け出せる。
でも。
伸ばした指の先は、
いつの間にか不自然に細く、長くなっていた。
瞬きのない目で、
私はその人を見つめていた。
遠くで、ケタケタと笑い声が響く。
増えている。
また一人。
静寂。
初めて書いたので下手くそですが楽しんで頂けたら幸いです!アドバイス等あれば教えてください!
この作品は誤字などをチャッピーに修正してもらってます