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読んだわ…第84話、めっちゃ面白かった!! 冒頭の帯広の四畳半と、ディスコードの熱量のギャップで一気に引き込まれた。結愛の情報分析、無双しすぎでしょ。狂犬たちの虚勢をデータでバラしてくところ、スッキリしたわ。 でも何より、ルシフェルが税金ネタで黙らせるラスト、ガチで最高。あれこそ大人の喧嘩って感じで痺れた。「帳簿を綺麗にして来い」は名言すぎるわ…🔥
「……ふぅ。いよいよだな」
北海道、帯広市。
築三十年のボロアパートの四畳半で、俺は三万円のゲーミングチェアに深く腰掛け、大きく深呼吸をした。
時刻は夜の八時。
目の前のデュアルモニターの片方には、今夜行われる『V-Breaking』オーディションの台本と進行表が表示されている。
そしてもう片方の画面には、通話アプリ『ディスコード』の、まだ誰も入室していない【オーディション待機室】のアイコンが点滅していた。
優勝賞金、一千万円。
VTuber界の口喧嘩最強を決める、1分間ディベート格闘エンタメ。
「勝てば一千万……。だが、ジェミニ先生の計算だと、その賞金すらも課税対象になって、来年の俺の税金が二千万を超える可能性があるんだよな」
俺は、傍らに置いたマイ電卓を力なく叩いた。
勝っても地獄、負ければただ恥を晒すだけ。
なんで俺は、こんな罰ゲームみたいな大会にエントリーしてしまったのだろうか。
『ルシフェル様。すでにエントリーは完了しており、事前のプロモーションも進行中です。ここでの辞退は、スタプロとの契約違反に伴う違約金が発生するリスクがございます。腹をお括りください』
ヘッドセットから、新人アシスタント・結愛(ゆあ)の、氷点下二十度のシベリアの風のように冷たい声が響いた。
「わ、わかってるよ! 違約金なんて払ったら、それこそ首を括るしかなくなるからな!」
『なお、今回のオーディションは、参加者同士の【煽り合い】によるエンタメ性の創出が主な目的と伺っております。ルシフェル様におかれましても、インフルエンサーとしての「プロレス」を完遂されることを期待いたします』
「プロレスねぇ……。俺、こういうオラついた空気、昔から苦手なんだよな」
俺はため息をつきながら、マウスを操作して、ディスコードの『本会場』チャンネルをクリックした。
『ポンッ』という入室音。
その瞬間。
ヘッドセットのスピーカーから、割れんばかりの怒号と、下品な笑い声が飛び込んできた。
『だーかーら! お前みたいな登録者数万人の底辺が、俺に意見してんじゃねえって言ってんだよ!!』
『はぁ!? 登録者数だけでマウント取ってんじゃねえぞ! お前の配信、同接は俺の半分以下じゃねえか! ガワ(アバター)がいいだけのハリボテ野郎が!』
『なんだとコラァ!! 表出ろや!!』
「……うわぁ」
俺は思わず、ヘッドセットを耳から少し離した。
通話チャンネルには、すでに十数人のVTuberたちが入室していた。
どいつもこいつも、血の気の多い若手ばかりだ。
ヤンキーキャラ、ホストキャラ、アウトロー系……。
アイコンが激しく点滅し、誰が誰だかわからないほどの勢いで、口汚く罵り合っている。
191
레몬인
201
そあち♡໒꒱
88
なんたろ
1
『おいおい、底辺同士で仲良く喧嘩すんなよ。どうせ今回の優勝は、この俺、【狂犬のレオン】様で決まりなんだからよぉ!』
ひときわ大きな声で、場を制圧しようとする男がいた。
銀髪に赤い瞳、レザージャケットを着た、いかにも『悪ぶっている』アバターの男だ。
『はっ! レオン? 誰だよお前。聞いたこともねえな』
『てめぇ、俺のショート動画の総再生数見てからモノ言えや! 今一番勢いあんだよ俺は!』
マウントの取り合い。
チャンネル登録者数、同接数、再生回数、そして月収。
若手VTuberたちは、自分がいかに優れているか、いかに相手が格下であるかを、これでもかと誇示し合っている。
(……なんか、疲れるな)
俺は、ミュートにしたまま、ぼんやりとそのやり取りを聞いていた。
四十歳の俺から見れば、彼らのイキり合いは、まるで公園でどんぐりの背比べをしている子供たちの喧嘩のように見えた。
『結愛。あいつら、元気だな。俺、こういう輪に入っていくの、ガチでしんどいんだけど』
俺が裏回線で結愛に愚痴をこぼすと、彼女はキーボードを叩く音を響かせながら、淡々と答えた。
『ルシフェル様。現在発言中の【狂犬のレオン】氏ですが、当方のデータベースおよびアナリティクス情報と照合した結果、彼のショート動画の再生数の大半は、海外のbot(自動巡回プログラム)による水増し工作の疑いが極めて濃厚です。実質的なアクティブファン層は、ルシフェル様の5%にも満たないと推測されます』
「……えっ?」
『また、先ほど「月収三百万円」と豪語していた【金髪の翔(しょう)】氏につきましては、公開されているスパチャのデータとメンバーシップの推移から逆算しますと、実際のプラットフォーム収益は月額三十万円前後であると推計されます』
「…………」
結愛の、元コールセンターのクレーム処理で培われた【情報分析能力】と【裏付け調査】が、見事に若手たちの『虚勢(メッキ)』を剥がしていく。
「お前……すげえな。ただの事務員(経費)にしとくには惜しい能力だぞ」
『恐れ入ります。ですが、彼らはこのV-Breakingという舞台において、そうした「誇張」や「キャラクター作り」で注目を集めようと必死に戦っている労働者(クリエイター)です。ある意味、評価に値する営業努力かと』
「労働者って……。お前、たまに視点が冷酷すぎるんだよな」
俺たちが裏でそんな会話をしていると、表の通話チャンネルで、突然俺の名前が挙がった。
『ていうかさぁ! 今回のオーディション、なんか勘違いしてる【おっさん】が混じってるらしいじゃん?』
先ほどの、狂犬のレオンという男だった。
『ああ、あの税金がどうのこうのって喚いてる奴だろ? ルシフェルとかいう』
『同接三十万とか言ってるけど、あれ完全にアリスちゃんのバフ(恩恵)だろww 自分の力じゃねえじゃんww』
『つーか、四十歳でVTuberとか痛すぎだろ。若者の文化にしゃしゃり出てくんなっての。老害は大人しくゲートボールでもやってろよww』
ドッと、通話グループに嘲笑の渦が巻き起こる。
「……ほう」
俺の眉間が、ピクリと動いた。
同接三十万がアリスのおかげだというのは、事実だ。俺もそれは否定しない。
だが。
『四十歳でVTuberは痛い』。
『老害は引っ込んでろ』。
その言葉は、帯広の四畳半で、三万円のゲーミングチェアと極上のアバターに全財産(と未来の税金)を賭け、必死に生き残ろうと足掻いている俺の『覚悟』を、土足で踏みにじるものだった。
『ルシフェル様。心拍数の上昇を検知しました。血圧にご注意ください』
ジェミニ先生の無機質な警告がモニターに表示される。
「……結愛」
俺は、ミュートボタンに指を置きながら、低い声でアシスタントを呼んだ。
『はい、ルシフェル様』
「あいつら、インボイスの仕組み、ちゃんと分かってると思うか?」
『……彼らの過去の配信内容およびXのポストを分析する限り、確定申告を正しく行っている形跡すら怪しい者が半数以上を占めております。「税金はよくわからないから後回し」という発言も多数確認いたしました』
「そうか」
俺は、口の端を吊り上げ、ニヤリと……この世の全ての資本主義の闇を背負ったような、黒い笑みを浮かべた。
「なら、大人の【本当の怖さ】ってやつを、教えてやらなきゃならねえな」
カチッ。
俺はミュートを解除し、マイクに口を近づけた。
そして、あの3D配信で二十万人のリスナーを震え上がらせた、地底から響くような『怨念の声』で、通話グループに言葉を放った。
「――おい。そこのキャンキャン吠えてる狂犬ども」
ピタリ、と。
通話グループの騒がしい声が、一瞬にして静まり返った。
「俺は四十歳のおっさんだ。痛いのは百も承知だ。だがな……」
俺は、息を深く吸い込み、若造たちの虚勢を叩き割る『事実』を突きつけた。
「お前ら、自分が今イキって語った『再生数』と『月収』……。それ、全部【国税庁】に筒抜けになってるってこと、自覚して喋ってんのか?」
『……は?』
『……えっ?』
狂犬たちの声が、明らかに戸惑いの色を帯びた。
「月収三百万だの、再生数がどうだの、ネットで大見栄切るのは勝手だ。だがな、税務署の調査官は、お前らのその発言を全部チェックしてるんだぞ」
俺は、先日税務署の窓口で84万の納付書を叩きつけられた時の恐怖と絶望を思い出しながら、言葉に凄みを乗せた。
「もしその月収が嘘で、本当は三十万しか稼いでないならいい。だが、もし本当で……お前らが適当な確定申告しかしてなかったら、どうなるか分かるか?」
俺は、三万円のゲーミングチェアの上で、ゆっくりと指を鳴らした。
「数年後。お前らの家に、黒いスーツを着た人間が突然やってくる。そして、過去に遡って、恐ろしい額の【追徴課税】と【重加算税】を叩きつけられるんだよ。お前らの自慢の月収なんて、一瞬で吹き飛んで、借金地獄に落ちるんだ」
『…………』
通話グループは、水を打ったように静まり返っていた。
先ほどまで「俺が最強だ」とマウントを取り合っていた若手たちは、突如として放たれた【リアルすぎる税務調査の恐怖】の前に、完全に沈黙してしまったのだ。
「オーディションだかプロレスだか知らねえがな。俺を煽るなら、まずは自分の帳簿を綺麗にしてから来い。……インボイスの登録番号も持ってねえようなガキが、俺に喧嘩売ってんじゃねえぞ」
圧倒的な、大人(納税者)の貫禄。
若手VTuberたちのマウント合戦は、帯広から参戦した『税金和尚』の、血も涙もない【リアル(資本主義)の暴力】によって、完全に制圧されたのであった。