テラーノベル
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「……インボイスの登録番号も持ってねえようなガキが、俺に喧嘩売ってんじゃねえぞ」
俺の放った『リアルすぎる税務調査の恐怖』という名のカウンターは、VTuber界の口喧嘩格闘エンタメ『V-Breaking』のオーディション会場(通話グループ)を、見事に制圧した。
先ほどまで月収や再生数でマウントを取り合っていた若手VTuberたちは、突如突きつけられた大人の現実(税金)の前に、完全に言葉を失っていたのだ。
(ふっ……勝ったな。ガキどもめ、確定申告の恐ろしさを知って震え上がるがいい)
俺は三万円のゲーミングチェアの上で、勝利の美酒を味わうように深く息を吐き出した。
だが。
そんな静寂を、乱暴に叩き割る声が響いた。
『――はぁ!? ふざけんなよおっさん!!』
先ほど一番大きな声でイキっていたヤンキーキャラ、『狂犬のレオン』だった。
『税金がどうのこうのって、説教くせえんだよ!! ここは言葉で殴り合う喧嘩の場だろ!! お前、俺らの勢いにビビって論点ずらして逃げてんじゃねえぞ!!』
レオンの怒号に、他の若手たちもハッと我に返ったように同調し始めた。
『そ、そうだ! V-Breakingに税金なんて関係ねえ!』
『おっさん、怖気付いたのかよ!』
『数字(再生数)で勝てないからって、大人の事情持ち出してマウント取んな!』
再び活気づく狂犬たち。
どうやら、税金の恐怖よりも、俺という『目障りな年上』を叩き潰したいという血の気の方が勝ったらしい。
「……ほう」
俺の眉間が、ピクリと動いた。
四十歳のプライドが、ヤンキーの安い挑発によってチリチリと燃え上がり始める。
『おいルシフェル!! お前なんか本戦で俺がボコボコにしてやるよ! 言葉の暴力で泣かして、二度とVTuberやれないようにしてやるから覚悟しとけや!!』
「……上等じゃねえか」
俺は、キーボードに置いていた手を離し、ヘッドセットのマイクをグッと口元に引き寄せた。
「ガキが、調子に乗って吠えてんじゃねえぞ。言葉の暴力? 笑わせんな。俺がコールセンターで毎日浴びてたハードクレーマーの罵詈雑言に比べたら、お前らの煽りなんか子守唄レベルなんだよ!!」
『あぁ!? んなもん関係ねえだろ! ネットの向こうでイキってんじゃねえぞおっさん!!』
「イキってんのはてめえだろ!! 画面越しだからって安全圏から吠えやがって!! そんなに俺をボコボコにしたいなら、今すぐそこから出てこい!! 表へ出ろや!! 今すぐ俺が物理的にぶっ飛ばしてやるからよォォ!!」
俺は、言葉に最大の凄みを乗せるため、三万円のゲーミングチェアの肘掛けをバンッと叩き、勢いよく立ち上がった。
プロレスだ。エンタメだ。
だが、迫力を出すためには、体全体で怒りを表現しなければならない。
俺はカメラの向こうの狂犬どもを睨みつけるように、胸を反らし、仁王立ちになった。
その、瞬間だった。
191
레몬인
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そあち♡໒꒱
88
なんたろ
1
『――ピキィィィィィッ!!』
俺の腰椎の最深部から。
港区の3Dスタジオで全身タイツ(モーションキャプチャースーツ)を着て踊らされた時と全く同じ、いや、それ以上に不吉な破裂音が鳴り響いた。
「…………えっ?」
時が、止まった。
怒りで沸騰していた俺の脳髄が、その音を処理するよりも早く、下半身の力が完全に抜け落ちた。
重力。
逆らえない絶対的な力によって、俺の身体は崩れ落ちる。
そして、遅れてやってきたのは。
背骨を直接ペンチでへし折られたかのような、息もできないほどの『激痛』だった。
(ヤバい……っ! 声が、出る……ッ!)
俺は、倒れ込みながらも、プロのインフルエンサーとしての生存本能を極限まで発揮させた。
激痛で白目を剥きそうになりながら、右手を必死に伸ばし、マウスのカーソルをディスコードの【マイクミュート】のアイコンへと叩きつけた。
カチッ。
マイクのアイコンに斜線が入り、音声が遮断されたのを確認した、直後。
「ぎゃあああああああああああっ!!!」
帯広の四畳半のボロアパートに、俺の魂の絶叫が響き渡った。
「痛てぇぇぇ!! 腰が! 腰がぁぁぁ!! また逝った!! 港区の呪いが再発したぁぁぁ!!」
俺は畳の上に顔を押し付け、エビのように体を丸めながらのたうち回った。
ミリ単位で動くだけで、腰の奥底から雷のような痛みが全身を駆け巡る。
『ルシフェル様。大変申し上げにくいのですが』
ディスコードの裏回線から、アシスタントの結愛(ゆあ)の、氷点下のように冷たい声が響いた。
『通話グループの皆様が、「おいおっさん、黙り込んだぞ」「ビビって逃げたかww」と、煽りを継続しておられます。ここで沈黙を貫くことは、エンタメ的な敗北を意味しますが、いかがなされますか?』
「いかがなされますかじゃねえよ!! こっちはガチの物理ダメージ受けてんだよ!! 救急車! ジェミニ先生に言って救急車呼んでくれぇぇ!!」
俺が涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら叫ぶと、結愛はキーボードをターンッと叩きながら淡々と答えた。
『現在、ルシフェル様は事業拡大に伴い、多額の未払い税金(予定)を抱えておられます。ここで救急搬送され、長期の入院となれば、事業はストップし、来年の確定申告において破滅的な結果を招く確率が極めて高いです』
「…………ッ!!」
『また、ルシフェル様は個人事業主ですので、当然のことながら【労災】は適用されません。治療費は全額自己負担、休業補償もゼロでございます』
結愛の放った『冷酷すぎる事実』が、俺の腰の痛みを一瞬だけ上回る絶望をもたらした。
そうだ。
俺がここで倒れれば、あの莫大な消費税と所得税を払うための『集金マシーン』が止まってしまう。
休んでいる間も、インボイスの時計の針は容赦なく進み続けるのだ。
「うぅぅ……っ。鬼か、お前は……。分かったよ、起きる、起きるから……っ」
俺は、歯を食いしばり、口の中に血の味が広がるのを感じながら、震える両腕で上半身を支えた。
這いつくばるようにして、三万円のゲーミングチェアになんとかよじ登る。
冷や汗が滝のように流れ落ち、呼吸は浅く、荒くなっていた。
『おおっ! ルシフェル様がゾンビのように復活いたしました。素晴らしい根性です』
「うるせえ……。ミュート、解除しろ……っ」
俺は、引き攣る顔をなんとか(アバターの力で)イケメンのドヤ顔に固定し、マウスをクリックした。
『おいルシフェル! お前マジで逃げたのかよ! 表へ出ろって言ったのはお前だろ!』
ミュートを解除した瞬間、狂犬のレオンの勝ち誇ったような煽り声が飛び込んできた。
「……ふっ」
俺は、激痛に耐えながら、わざと低く、余裕ぶった声を出した。
「逃げる? 笑わせるな。……今、ちょっと靴の紐を結んで、表に出る準備をしてただけだ」
『……は?』
「お前らみたいなガキをボコボコにするのに、部屋着じゃ失礼だろ? ……だが、こんな通話で吠え合ってても面白くねえな。決着は、【本戦】の舞台でつけてやるよ」
俺は、痛みのせいで声が震えそうになるのを必死に堪え、言葉を紡いだ。
「本戦で俺と当たったら、覚悟しとけ。お前らの安いプライドごと、その薄っぺらい月収の嘘も、全部白日の下に晒してやるからな」
『……っ! 上等だコラ!! 本戦で絶対泣かしてやるからな!!』
狂犬のレオンが吠えたのを最後に、俺はディスコードの通話を叩き切った。
「…………ふぅ」
静寂が戻った四畳半。
俺は、ゲーミングチェアに深く沈み込み、再び天井を仰ぎ見た。
『見事なトラッシュトーク(煽り合い)でございました、ルシフェル様。本戦への注目度も飛躍的に上昇したと推測されます』
結愛の冷たい称賛の声が聞こえる。
「……結愛」
『はい』
「……明日、朝一番で、一番効く痛み止めの注射打ってくれる病院、探しといてくれ……。あと、コルセットも……領収書、切れるよな……?」
『……経費計上の可否につきましては、税理士にご相談されることを推奨いたします』
四十歳の衰えた肉体と、ヤンキーへの安いプライド。
そして、絶対に逃げられない来年の税金。
全てを背負い込んだ底辺VTuberは、腰の激痛に苛まれながら、VTuber界の口喧嘩コロシアム『V-Breaking』の本戦へと、満身創痍のまま進むのであった。
コメント
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うわあああっ!! 第85話、めっちゃ面白かった😭✨ ルシフェルさんが若手VTuberにブチギレて「表出ろ!」って叫んだ直後に、まさかの腰痛ピキーンってギャグすぎるでしょ…笑 ミュートしてからの絶叫シーンでもう腹筋崩壊した!! 結愛さんの冷たいツッコミも毎回的確すぎて最高ですわ…✨「労災は適用されません」に草。四十歳の現実とプライドの葛藤、続きが気になりすぎます🔥