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#普通
野々さくら
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ありあ
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信愛は病室の前で、何かを見つけたように「あ!」と声を上げる。
その小さな呟きに、茜が首を傾げる。
「ん? どうかした?」
「何かあった?」
さくらも不安そうに尋ねる。
信愛は青ざめた顔のまま、ゆっくりと病室を見つめた。
「千歳さんが・・戻ってきた・・・」
廊下の奥には、千歳の姿が静かに立っていた。
言葉を失う一同。その沈黙を破るように、焔垂が目を見開く。
「え?」
嫌な予感に突き動かされるように、焔垂は病室のドアを勢いよく開け、中へ飛び込んだ。
「三瓶先──」
その言葉は途中で止まる。
ベッドの上には、恐怖に顔を引き攣らせ、細かく身体を震わせている鈴蘭の姿があった。
息を呑む焔垂。
「こ、殺さなかったのか?」
静かに千歳が口を開く。
「焔垂のせいよ・・・」
「え?」
「彼の泣き顔が・・頭から離れなかったの
泣く男とかホント嫌い・・・」
その言葉に、信愛は胸を撫で下ろし、小さく微笑んだ。
「千歳さん・・・」
だが、千歳はその笑みを冷たく遮る。
「でも勘違いしないでね?」
信愛の表情が曇る。
「鈴蘭を許した訳じゃ無い」
千歳の声には、怒りも憎しみも、少しも薄れてはいなかった。
「殺そうと思えば、いつでも出来るし」
淡々と紡がれる言葉が、病室の空気を凍りつかせる。
「一旦保留にしただけだから・・・」
焔垂は困惑したまま千歳が居るであろう壁を見つめた。
「千歳さんは・・・何て言ってる?」
信愛が苦笑交じりに答える。
「殺すのは一旦保留にしてるって」
「そうか・・・」
焔垂は安堵したように息を吐く。
「ありがとう千歳さん」
しかし千歳は呆れたようにため息を漏らした。
「はぁ〜・・だから勘違いしないでって」
冷え切った視線が、ベッドの上の鈴蘭へ向けられる。
「いずれ殺すから、絶対に」
◇ ◇ ◇
それから病院を後にした一同は、再びあの交差点へと戻ってきた。
夕暮れの風が静かに吹き抜ける中、千歳は信愛を見つめ、ぽつりと口を開く。
「あんたってさ、私を祓えたりする訳?」
突然の問いに、信愛は苦笑いを浮かべた。
「ま、まぁ・・・今の千歳さんなら
出来る・・とは思う」
その返事を聞くと、千歳は迷いなく言った。
「ならさ・・・私を祓って」
「え? で、でも」
思いもよらない願いに、信愛は困惑の色を隠せない。
そんな信愛を見つめながら、千歳は静かに微笑んだ。
「もう疲れたの・・・私を楽にしてくれる?」
信愛は返事ができなかった。
その沈黙に、千歳は少し寂しそうに目を伏せる。
「何を躊躇ってんの?私をこのままにしといたら
絶対にまた鈴蘭を殺しに行くよ?それでもいいの?」
信愛の胸が締め付けられる。
「そ、それは・・・」
言葉が詰まる。
千歳は一歩近づき、信愛の目を真っ直ぐ見つめ、か細い声を漏らす。
「私を解放して・・・お願い」
再び沈黙が流れる。
やがて信愛は、震える唇をゆっくりと開いた。
「わ、わかった・・・」
そして決意を込めて続ける。
「私・・・千歳さんの事、絶対に忘れないから」
千歳の表情が柔らかく綻んだ。
「ふふふ、ありがとう」
何年もの間、憎しみだけを支えに存在してきた少女が、初めて穏やかな笑みを浮かべる。
「こうして何年振りかに人と会話できて」
懐かしむように空を見上げる。
「人間扱いしてもらえた。もう思い残すことなんてない」
少しだけ目を潤ませながら、信愛へ向き直った。
「ありがとう・・・信愛」
「千歳さん・・・ぐすっ」
信愛は涙を堪えきれず、声を震わせる。
千歳は優しく笑った。
「最期に霊じゃなく、春日井千歳って言う
一人の女子中学生に戻れた・・そんな気がする」
「千歳さん・・・ゆっくり休んでね」
信愛は数珠を取り出し、千歳の前で静かに目を閉じる。
胸の前で両手を合わせると、澄んだ声で読経を始めた。
「霊堂霊冥霊界遊鬼──
霊障消滅安寧祈願──
浄化清明合掌礼拝──
安らかに還れ──
鎮魂を願いて──
霊魂成仏」
祈りの言葉が静かに響き渡る。
その声に包まれるように、千歳の身体は穏やかな表情のまま、淡い光の粒子となって空へ溶けていった。
その場に残ったのは、優しい風だけだった。
「信愛? 千歳さんは?」
茜が辺りを見回す。
「どうなっちゃったの?」
信愛は涙を拭い、小さく微笑んだ。
「今・・・消えた」
「そっか・・・」
さくらは空を見上げ、そっと呟く。
「これで千歳さんも解放されたんだね」
信愛は少しだけ寂しそうに笑う。
「だと良いけど・・・」
焔垂はゆっくりと頷いた。
「大丈夫さ」
優しい口調で、空を見上げながら続ける。
「天国でゆっくり休んでるよ、きっと」
「ふふふ、だね・・・」
信愛も空を見上げ、静かに微笑んだ。
夕焼けに染まる空へ、一同は言葉もなく黙祷を捧げる。
そこにはもう憎しみに囚われた少女の姿はなく、ただ静かな祈りだけが、いつまでも風に乗って漂っていた。
コメント
1件
×××さん、今のエピソード、本当に切なくて美しいお話でした…。 千歳さんの「もう疲れたの…私を楽にしてくれる?」という言葉が、心にぐっときました。憎しみに縛られて何年も存在してきた彼女が、最後に「一人の女子中学生に戻れた」と言って穏やかに消えていくシーン、涙が止まりませんでした。信愛が「絶対に忘れないから」って言ったのも、千歳さんにとって一番の救いだったんだろうな。 千歳さん、安らかに…。読ませていただいて、本当にありがとうございました🌷