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祭壇へと続く道を、厳かに淑やかに聖女らしく見えるように、毅然とした態度で歩を進める。
一歩、一歩、ゆっくり、ゆっくりと。
まるで花嫁衣装のような純白のAラインのドレスは、お伽話にでてくるお姫様のよう。そう、あくまでドレスは。
「うふふ、お姉様ってば、やぁだ、顔が死人のようですわ。あら、やだ、私ってば本当のことを……」
同じく純白の衣装に身を包んだ私の妹イリナは、ツインテールの髪を指でもて遊びながらにたにたと笑っている。
同じなのは純白の色だけで、妹のドレスはピッタリとしたマーメイドラインのドレスで、金糸で精巧な刺繍が施されている。妹は私とは違い、肉付きも良く、出るところは女性らしく出ている。そのため私とは違いキラキラとした視線を向けられているのはいたしかたない。
外見から性格は分からないもの。
妹がどれだけあざとく、計算高く、私を貶めることに無類の喜びを感じているか……。無垢な聖女とは名ばかりで、私の婚約者を寝取り、しかも私を殺そうとしたかなんて分からないものね。
絶対に妹の思う通りになんてさせない。
大人しく殺されたりなんかしないわ。
17歳という年齢のわりにその髪型はどうなのかと思わなくもないけれど、まだ幼さの残る顔立ちなので許容範囲なのかしら。
その顔で、そのスタイルで、そのドレスは、アンバランスだと思うけれど、誰も止める者がいないので、世間の感覚と私がずれているだけなのでしょうね。
本当は今すぐにでも逃げ出したい。
怖い……あの祭壇にたどり着いたら、その時が決行の時。
大丈夫、どちらにせよもう覚悟はできている。
殺されかけたあの時、目が覚めたわ。
「どちらが正しいのかはっきりさせましょう」
表情ひとつ変えずに、妹へと声をかける。
「えぇそうね、どちらが本物の聖女であるかはっきりさせましょう、ねえ?お姉様。うふふ、あー、ウザッ!」
誰にも聞こえないくらいの声で悪態をつく妹に、せめてもの慈悲を与えるべきか悩む。
「イリナ、今ならまだ止めることもできるわよ。本当にこの儀式を行うのね?後悔しない?」
「はぁ?」
思わず声を荒げたイリナへ後方で着席している者の視線が集まる。
泣いて謝ってくると思っていた私が、儀式を行うことに同意したのがそんなに気に入らなかった?
「止めるだなんて、まさか私がお姉様に同情するとでも思ったの?絶対に止めないわ!私は聖女なんだから!分かってないお姉様が可哀想だと思ったのに、お姉様って本当に馬鹿だったのね?この儀式を行うと……うふふ、まぁ、もういいわねそんなこと。邪魔者が消えてくれるのだもの。お姉様が自殺願望があるだなんて知らなかったわ。そんなに彼のことが好きだったの? 彼が言っていたわ、ふふ、お姉様みたいな骨と皮しかない女には欲情しないんですって。骸骨みたいね、さよなら、お姉様。ふふふ~ん♪」
引き返す最後のチャンスだったのに……。
どうやら刺激してしまったようね。
イリナは私を追い払うように祭壇の前へと軽やかな足取りで進んでいた。
「では、これより聖女の儀式を行う!」
祭壇の中央にいるのは私の婚約者であり、この国の王太子レオナルド殿下。
レオナルド殿下の髪色を思わせるような金糸が、イリナのドレスの刺繍に使われている。優しげな眼差しを向けるその先には、イリナがいる。そんな表情もできるのね。
嘘つき!嘘つき!嘘つき!
どろどろとした醜い感情が口から溢れ出しそうになった寸前、「コホン」とカイルが咳払いをしたことで感情をなんとか制御できた。
この国の筆頭魔術師であり、膨大な魔力量を持つカイルが協力してくれるからこそ、この儀式が行える。
祭壇の手前に佇むカイルの周囲は、いつにもまして冷気を纏っているかのように寒々しい。銀色の髪のせいでそう感じるのか、陶器のように白い肌だからそう感じるのかもしれない。
サファイアのような瞳が、先程より一層青味がかったから、実際に冷気を発しているのかもしれない。
この儀式を行うことを最後まで反対していたから。彼だけがいつも私を心配してくれた。
「ユリア、大きくなったら結婚しよう。」
幼き日、あなたはそう言ってくれたわね。
庭に咲いていた花を手に持ち、はにかみながら膝を折り手渡してくれた。まるでお伽話に出てくるお姫様になったようで、とても嬉しかったわ。あの時、私はなんと答えたのかしら。
カイルの家は魔力量の多い者ばかりで、優秀な魔術師を輩出している。身分的にも、派閥的にも、問題なかった。父が欲を出さなければ、私達は━━。