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 遠浅から離れ、僕らは海水浴場の海を横断するように泳いでいった。少し先に見える岩場が海水浴場の端っこになっており、その岩場の上にはたくさんの木々が青々と茂っている。ここまでくると海水浴客の影など皆無であり、岩場に沿うように流れ着いたのであろう様々な漂着物がゴロゴロと転がっていた。


「つ、疲れた……」


 ちょうど海から上がって立てるくらいの高さの岩がそこにはにょっきりと顔を出していて、僕らは一旦、そこで休憩することにした。


「さ、さすがに泳ぎ過ぎだって」

 はぁはぁ息をする榎先輩。


「も、もうムリ~、動けません~」

 肥田木さんも音を上げている。


「ちょっと遠くまで来すぎましたね。先生たちに言わずに来ちゃいましたけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、たぶん」

 心配する鐘撞さんに、適当な返事をする真帆だった。


 僕はやれやれと腰に手をあてて、

「――で、結局真帆たちが感じたものは何だったわけ?」


 訊ねれば、真帆たちも顔を見合わせ、一斉に、

「「「「――さぁ?」」」」

 首を傾げる四人に、僕は思わず膝から崩れ落ちそうになってしまう。


「な、なにそれ。四人ともわからずにここまで泳いできたの……?」


 すると、真帆がへらへらと笑いながら、

「大丈夫ですって。そんな危ないものじゃないですよ。なんか、海の中をもの凄い魔力を持った何かが横切っていったので、それを追いかけてきただけです」


「なんで危ないものじゃないってわかるわけ?」


「……さぁ? なんとなく?」


 だ、ダメだ、またいつもの曖昧なやつだ。


 呆れる僕に、真帆の代わりに鐘撞さんが、

「なんて言えばいいんでしょう。怖い感じはしなかった、って魔力だったんですよ」


「あ、そうそう、それはあたしも思った。つむぎは?」


「わ、私は怖かったです~! メチャクチャおっきい魔力を間近で感じたの、初めてだったから~!」


「怖い感じの魔力ってのがあるの?」


 そんな僕の質問に、一斉に榎先輩たちの視線が真帆に集まる。


「……えっ、私ですか?」

 きょとんとする真帆。


 けれど、僕にもそれは心当たりがあった。


 昨年大暴れし、今でもまだ真帆の中に巣食い続けている魔力の化け物、夢魔。


 要は真帆の中に居るあの夢魔と比べれば、今しがた海の中を横切っていった魔力の流れなど大したものではない、ということだろうか。


「私の魔力、そんなに怖いですか?」


「怖いよ」

「怖いです」

「今は慣れましたけど、やっぱり最初に会ったときの怖さは忘れられませんね」


 みんな、なかなかにはっきりと真帆に答える。


 一方の真帆は「え~」と不満を顔に出しながら、

「ちゃんと制御できてるでしょ? 私の魔力。できてませんか?」


「できてるけど、ねぇ?」

「溢れ出てます」

「時々ですけど、今でも怖いオーラ出してますよ? 気づいてませんでした? 特にシモハライ先輩が他の女性と親しく話そうとするたびに、ブワッて感じで」


「あ~、なるほど」

 真帆は不意に僕に顔を向けて、

「それはしかたありませんね☆」

 何故か納得してしまう。


 僕、そんなに女性と親しくするようなこと、してないと思うんだけど?


 まぁ、それはともかくとして、

「で、海を横切った魔力の向かった先、わかるの?」


 再び顔を見合わせる四人。


 一斉にこくりと頷き、僕のほうを全員が指さす。


「……え、僕?」


 驚きながら口にすると、

「違いますよ。ユウくんじゃなくて、ユウくんの後ろの岩場の裏側です」


「あ、あぁ、この岩場の裏側か……」


 僕は後ろを振り向き、高くそびえる岩場に眼をやる。


 確かに、この向こう側にも小さな浜辺があったのを車で来た時に見たような気がする。


「たぶん、この向こう側に今、いますよ。皆さんも感じますよね、先ほどの魔力」


「うん。あたしですらビンビン感じるくらい強い魔力だね」

「やっぱり怖いですよ~、帰りましょうよ~」

「大丈夫だよ、肥田木さん。見るだけ。もしわたしたちでどうにもならないことなら、先生を呼べばいいだけなんだから」


 というわけで、僕らはそこからさらに岩場に沿ってその裏側に向かった。


 ごつごつした岩場は躓いて転べば大怪我をしてしまいそうだったから、なるべく慎重に、一歩ずつ、ゆっくりと回り込んでいく。


 岩場に跳ねた海水が、びちゃびちゃと容赦なく僕らの身体に飛び散っていった。


 じりじり、じりじり、少しずつ、少しずつ。


 やがて僕らは岩場を回り込み、反対側の小さな浜辺に辿り着いたところで――


「――ひぃっ!」


 小さく悲鳴を上げたのは、肥田木さんだった。


 僕と真帆、榎先輩に鐘撞さんは、そんな声すらあげられないほど驚愕していた。


 大きく眼を見張り、ぽかんと口を開けてしまう。


「……嘘だろ」

 最初に口から漏れたのは、そんな言葉だった。


「は、初めて見ました、こんな、こんな――」

 鐘撞さんは両手で覆うように口を塞ぎ、悲鳴を抑える。


「あっ、えっ……あぁっ」

 榎先輩も言葉が出ないらしく、ただただ音だけが口から漏れるだけだった。


 そんな僕らとは対照的に、ぱっと笑顔になって大声をあげたやつがひとりいた。


 もちろん、真帆である。


「すごいです! 私、リアルな恐竜なんて初めて見ましたよ!」


 真帆の叫んだとおり、そこに佇んでいたのは、まるで絵に描いたような、頭をもたげた首長竜だったのである。


 ぱっと見はネッシーである。ネッシーそのものである。ネッシー以外の何者にも見えない。


 むしろ、本来の恐竜はこんな形をしていないはずだ。頭をもたげてくねくねと首を曲げるなんてこと、骨の構造上ここまでできなかったのではなかっただろうか。


 となると、考えらえれることはただひとつ。


 こいつは、恐竜なんかではない、ということ。


 けど、恐竜でないとすれば、こいつはいったい何者なのか。


 海獣? 怪獣? 害獣?


「――か、帰りましょ、帰りましょ!」

 鐘撞さんの腕を引っ張り、涙目で訴える肥田木さん。


 うむ、確かに正体がわからない以上、ここは一度引き返した方が良いのではないだろうか。


 なんて思っていたのだけれど、

「す、すごいなぁ。こんなものが造れるだなんて!」

 感心したように、榎先輩が感嘆の声を漏らした。


「ですよねぇ!」とは真帆の賛同する声だ。「まるで本物ですね! すっごいリアル!」


 ふたりは嬉々としてそんなネッシー?に近づいていく。


「ふ、ふたりとも危ないですよ!」

 慌てて声をかける鐘撞さんに、僕も思わず、

「なに近づいてんの! 危ないだろ! 襲われたらどうするんだよ!」

 ふたりを制止すべく、足を踏み出す。


 すると真帆も榎先輩も「え?」という感じできょとんと僕らに振り向いて、

「大丈夫だよ、だって造り物じゃん、コレ」


「そうですよ、アーティファクトですよ、アーティファクト」


「あ、あーてぃふぁくと……?」


 そういえば、以前教えてもらったことを思い出した。


 アーティファクト。考古学的な言い方をすれば人口遺物。けれど、魔法使いたちの間では、高度な魔法技術で造られた魔法道具のことを、特別にそう呼んでいるらしい。


 つまり、このネッシーもどきは。


「魔法道具? このネッシー、魔法道具なんですか?」

 鐘撞さんが、驚きの声をあげた。僕の台詞を取られた気がした。


「え? どういうことですか? 本物の恐竜じゃないんです? 違うんです? 襲われたりしないってことですか?」

 肥田木さんもびっくり仰天、おたおたしながら何度も訊ねる。


「あっははは!」

 笑ったのは榎先輩だ。

「こんな海竜、いるわけないでしょ? あり得ないくらい首が曲がってるじゃん。あきらかにネッシーをイメージして造ったか、もしかしたらネッシーの正体だったのかもね」


「で、でも、なんでこんなものが……?」


 恐る恐る僕らは真帆や榎先輩のところまで歩み寄る。


 じっとこちらを見つめ続けるネッシーを見上げていると、

『……なに? あんたら、もしかして魔法使い?』

 ネッシーのどこかにスピーカーでも取り付けられているのか、女性の声がネッシーから聞こえてくる。


「あ、はい、そうですそうです!」

 ネッシーの頭に向かって両手を振り回す真帆。


 たぶん、あの目はカメラになっているのだろう。


『ちょっと待って、今出るから』


 ぶつん、と音が切れ、ぷしゅーっと何かが停止する機械音。


 ガチャリ、カチャリとロックが外される音がした次の瞬間、ゆっくりとネッシーの横っ腹がドアのように縦長に開いたのだ。


 そしてネッシーのお腹の中から、茶色い短パンに赤いビキニのトップを着た、日焼け肌の女性が出てきたのである。


 女性はその明るい茶髪のポニーテールを揺らしながら、僕らの顔を順番に眺めていったあと、「よっ」と左手を挙げてから、

「あーしはサシャ。世界中の海を巡って魔法遺物を探し出す仕事をしてる。よろしくな!」

 白い歯を輝かせながら、ニッと笑ったのだった。

魔女と魔法使いの少女たち

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