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春千夜「…よし、」
決めた。
キーンコーンカーンコーン
「はーい、席ついてー、帰りのHR始めるぞー、」
ざわざわざわ
2月14日、
バレンタイン当日の放課後を迎えた。
教室の様子は 心做しか、 いや、確実に、
いつもとは少し違っている。
意中の相手を見つめて、頬を赤らめている女子がいれば、
チョコがくるのを、今か今かとまちわびている男子が居る。
そして隅の方には、
自分には関係ないという顔をして座っている男女がちらほら。
去年までは、俺も隅の方の一員だった。
春千夜「…」
でも今年は違うだろう。と
鞄の中に入った四角い箱のチョコが訴えかけてくる。
春千夜「…、」
それがなんだか、くすぐったくて、
俺は思わず、鞄の口を閉めた。
春千夜「…ぁ”あー、」
どうやって渡そう…。
蘭に、想いを伝えると決めた以上
できるだけ、長く一緒にいれる場所で渡したい。
それも二人っきりで。
でも、そんな場所、この学校のどこに……
春千夜「あ…」
あった、一つだけ。
俺と彼だけが知る
思い出の場所。
人なんて滅多に来ないし、
春千夜「いいかも…」
「はい、じゃあ、さよならー」
さよならー、
ざわざわ
「ねー、チョコどーする?」
「それな?」
「渡すんでしょ?あの人に♡」
「ちょ、声でかい!」
ゴソゴソ
春千夜が携帯を取り出す。
春千夜「…」
蘭との、LINEを開く。
ゆっくりと文字を打った。
春千夜「…っ、」
あぁ、手が震える。
気の所為だと、言いたいけれど、
そんなことも言えないくらい
あまりにも、俺の心は、不安 の1つの感情に染まっていて、
彼に、断られたら、
なんて、最悪の想像をして
震える。
そんな手で、全文を打ち終えた時にはもう、
打ち始めて、10分ほどが経過していた。
決意を固め、彼に送る。
送信 ポチ
ばっ
春千夜が机に顔を伏せる。
送った、送ってしまった。
これでもう、取り返しはつかない。
春千夜「…」
「 4時20分、俺達が初めて出会った、あの場所で待ってる 」
と言う簡潔な文を1文だけ。
初めて出会った場所、
蘭は覚えているだろうか。
春千夜「…」
記憶の中の彼が蘇る。
蘭『俺は結構、お前のこと好きだけど』
その当時の俺は、俺自身のことが
大っ嫌いだった。
でも、蘭と出会って、
蘭の心に触れて、
まぁ、少しは、
こんな俺もいいかもしれない、なんて、思えるようになった。
キーンコーンカーンコーン
4時のチャイムがなった。
震えた足で、旧校舎へ向かう。
旧校舎の階段を上る。
ここは、今にも壊れそうで、少し怖い。
ある教室の前に着く。
旧校舎2階の空き教室、
そこが、蘭に出逢えた、
俺の、人生を変えた場所。
ガラガラガラ
誰もいない教室には、俺の足音と
ありえない速さで脈を打っている、俺の心臓の音しか聞こえない。
一つだけ、ぽつんと残った椅子に腰かける。
ーーーーー!ーーーーー!ーーーーー!
外では、野球部が練習をしているらしく
掛け声が聞こえてくる。
気がつくと、
4時20分まで、あと少しだ。
彼は、来てくれるだろうか、と
鞄の中のチョコを見つめる。
春千夜「…ちゃんと、伝えなきゃ、」
4時20分になった。
春千夜「…くっそ、」
心臓がうるさい。
俺の心拍数は、どんどん上がっていく。
そろそろ、
周りの音も聞こえなくなりそうだ。
4時25分になった、
彼は来ない。
春千夜「…もうちょっと、待つか」
春千夜「…、」
そういえば、俺は、
デートの時、こんな風に
蘭を待ったことがあっただろうか。
春千夜「…」
いや、無い。
いつも蘭の方が早くて、
俺が待つことなんて滅多になかった。
春千夜「誰かを待つ、って、こんなに不安で、こんなに、…ドキドキ、すんだな 」
今も尚、脈を打つ、うるさい心臓が
少しだけ、彼を教えてくれたような気がした。
時間は、刻一刻と過ぎていき、
キーンコーンカーンコーン
5時のチャイムがなった。
蘭は、来なかった。
春千夜「…っ、」
俺の目からは、いつの間にか
大粒の雨が降っていて、
その雨は、何度止めようとしても
止まってはくれなかった。
苦しくて、悲しくて、
逃げ出したくなる。
春千夜「……もう、帰ろう」
きっと、これ以上待っていても、苦しいだけだ。
そう思い、席を立つ。
ガラガラガラ、
蘭「はるちゃん!!」
春千夜「…、ぁ」
あまりの衝撃に言葉が出なかった。
まさか、来ると思っていなかった。
蘭「ごめん、めっちゃ遅くなって」
蘭「先生に捕まってて、」
息を切らして来てくれた、覚えていてくれた、そんな喜びも一瞬で、
俺はあることに気がついた。
春千夜「それ、…なんだよ」
蘭「それ、?」
春千夜「手に、持ってるやつ」
蘭「あー、」
そうなのだ、
義理、というにはあまりにも可愛らしい
チョコであろうものが
いくつか
蘭の手に握られていた。
蘭「これチョコ、…だけど」
やはり、そうだった。
蘭は、たくさんの女子から沢山の本命の、チョコを貰っている。
俺なんかがあげたって…、
春千夜「…、」
蘭「…、はるちゃん…?」
春千夜「…、」
ぐす
蘭「は、る、ちゃん」
俺は、わけも分からず、空き教室を走って飛び出した。
蘭「あ、!」
走って、逃げて、なんで、逃げてるのか分からなくて
でも、逃げて
その間も涙は止まらなくて、辛くて、苦しくて、
心だけが、ただただ虚しい。
蘭「…っ、は、るちゃん!待って!」
ぱしっ
蘭が、春千夜をつかむ。
春千夜「っ、はなっせ!、」
俺を、見ないでくれ
今は、ダメだ、顔が歪んで、あまりにも醜い。
蘭「いやだ、!春千夜どうせ、また逃げるじゃん!」
春千夜「いいだろ!、別に…」
蘭「良くねーよ!」
蘭「俺、すっげぇ、嬉しかったんだよ?、春千夜に呼ばれて!、」
春千夜「…、」
やめろ、
蘭「今だって、すっげぇ、ドキドキしてる!」
そんなこと、言うな、
春千夜「…っ」
蘭「ねぇ、春千夜、…好き、だよ、」
蘭「俺、お前のこと、すっげぇ…」
春千夜「お前には!」
蘭「…!」
春千夜「お前には、俺の隣なんか、似合わねーよ、」
蘭「…は、…?」
春千夜「………」
あぁ、言ってしまった。
きっと嫌われる、うざがれる。
暫くの沈黙の間、俺の胸は
ぎゅーっと締め付けられていた。
蘭「それ、本気で言ってる…、?」
沈黙を切り裂くように、
蘭がそう言い放つ。
春千夜「ぁ、…」
蘭の方を見ると、
蘭は、いつもの優しい顔とは少し違う
怒ったような、苦しいような顔をしていた。
蘭「春千夜、もしかして最近、俺の事を避けてた理由って、それ?」
蘭「ずっと、そう思ってたの…、?」
春千夜「…、」
小さく頷く。
蘭「…っ、…んな、」
春千夜「…え、?」
蘭「ふざけんなって言ってんの!」
春千夜「!、」
蘭「何が、俺なんか…だよ、何が似合わないだよ、」
蘭「そんなの、関係ねーよ!」
春千夜「ら、ん、?」
蘭「ずっと一緒にいたくて、何回も会いに行っちゃうのも!」
蘭「笑顔思い出すと、胸がぎゅっとなって、大好き過ぎて苦しいのも!」
蘭「こんなふうに、…情けねーとこ、見せんのも、」
蘭「全部全部全部!!」
蘭「春千夜、だけだよ…、!」
春千夜「…っ、」
ドクンっ
高鳴る胸の音。
彼に触れられた手から、熱が伝わっていくように
体温があがっていくのがわかる。
俺を見つめる彼の目は、いつにも増して真剣で
こんな俺、見て欲しくないはずなのに、
目をそらさなくてはいけないはずなのに、
その瞳に吸い込まれるように見つめてしまう。
蘭「…、」
ぎゅ
いつの間にか、俺は、蘭の腕の中にいた。
振り解けない、
いや、
振りほどきたくない。
蘭「…大好き、大好きだよ、春千夜」
春千夜「…っ、」
蘭「お前しか、居ないんだよ、」
蘭「…ずっと、そばにいて…、」
春千夜「…、」
彼は魔法使いかなにかだろうか。
ハグ1つと、甘い言葉で
俺の、嫉妬でモヤモヤした心の霧を
きれいさっぱり消してくれた。
ぽかぽかとした暖かい気持ちで
心が埋め尽くされる。
“‘ 変わらなきゃ、彼のために、 ”’
意を決して、声を放つ。
春千夜「お、おれ、も」
春千夜「蘭、だけだよ…、」
彼の目を見つめる。
蘭「…、はる、ちよ」
普段は見せない素直な想い。
蘭は、目を大きく見開いて、驚いている。
蘭「…、」
ぎゅー、
俺を抱きしめる彼の腕に、
より一層、力が込められたような気がした。
ーーーー!ーーー、!
野球部の声が響く教室。
俺と、彼だけしかいない、
旧校舎2階の空き教室。
繋がれた手からは、彼の温もりを感じる。
蘭「そういえば、春千夜、」
春千夜「…ん、?」
蘭「今日、何の日か知ってる?」
蘭が微笑んで、俺に問いかける。
春千夜「…、わーってるよ」
少し恥ずかしくて、ドキドキする。
鞄の中のチョコを見つけて、もっと、ドキドキした。
顔が熱くなるのがわかる。
蘭「ふふ、どーしたの?」
なんて、意地悪な質問をする彼。
春千夜「っ!///」
春千夜「分かってるくせに…//」
と、強気に言い放ち
鞄の中から取り出した
四角い、紫色の箱を
彼の前に持っていく。
春千夜「これ、…やる」
蘭の顔が見れない。
蘭「…かわいすぎ…」
春千夜「は、はぁ?!///」
なんて、蘭が言うから
恥ずかしくて、そっぽを向く。
蘭「…それ、食べさせてよ、」
あー、と
蘭は、口を開く
春千夜「!、//」
おずおずと、袋を開ける。
そして、
チョコを1粒、彼の口に入れた。
蘭「…」
春千夜「…どう…?美味い、?」
大丈夫だろうか、
蘭「…、うん、」
蘭「甘くて、美味しい。」
『美味しい』という言葉に
春千夜「そっか、良かった、」
ホッと胸をなでおろす。
ちゅ
その瞬間、彼の唇が俺の口に触れた。
春千夜「…ほんとだ、」
彼の目を見つめる。
春千夜「…甘い、…//」
蘭「…、!///」
夕暮れの空き教室に
蘭と俺の、キスの音だけが響いた。
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コメント
3件
ちなみに、蘭の持っているチョコは全て竜胆宛てです。蘭は渡すようにと頼まれてそれを持っていただけです。春千夜以外からのチョコは全て断っていたそうな。
やばいてこれさーーー 尊すぎる😭感動しながらドキドキするのなんなん ニヤニヤ止まらんて いつかこんな恋がしたいぜ🤤 蘭春最高ーーー!!!