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サラサラと清流のような、散りばめられた星のような美しい銀髪に、冷たい氷のようなサファイアの瞳。圧倒的強者のオーラに私は目を見開いた。

彼が『本物』であることは、誰が見ても一目で分かる。


(ユーイン様、嘘……本物?)


目の前の光景が信じられなかった。

身体も脳も、目の前の男性がユーイン様であることは間違いないと言っているのに、何処かで信じ切れていない私がいた。偽物が現われたからだろうか。いいや違う。

私は振返ってノイ達の方を見た。決心がついたウルラはノイ達を守ってくれたようだった。しかし、そこにいるはずの小さなユーイン様がいなかったのだ。


(ど、何処に行ったって……まあ、このユーイン様が本物なら、そういうことなんだろうけど)


頭が混乱する。

先ほどまで小さかったのに、何故大きくなったのかとか。いきなり前に現われて守ってやるみたいな発言されたこととか、何が何だか分からなかった。

一番分からなかったのは……


(婚約者って、いつ婚約者になったのよ!?)


今すぐに本物のユーイン様をとっ捕まえて話を聞きたかった。

確かに、小さなユーイン様には婚約者になってとか告白されたけれど、あの大きなユーイン様にはされていないから。と言うか、そもそも、大きなユーイン様とは全然喋ったことがないのだ。いつも喋ったら無視されるというか、その風貌に合うぐらい冷たく接されるというか。会話を交したのもいつだったか……思い出せないぐらいなのに。


「あ、あの、婚約者って」

「……」

「聞いてます!? ユーイン様」


ちらりと私の方を振返ったが、ユーイン様はすぐに偽物の方を向いてしまった。応える気はないといった感じだ。

先ほどの守ってやる発言は私の幻聴だったんだと決めつけて、私は彼の邪魔にならないように身を引いた。ノイ達の方にそそそと避けてどういう状況かとノイに問い詰める。


「え、あの小さなユーイン様は?」

「ステラ様、申し訳ありません。先ほどステラ様が魔法を粉砕……したときに立った煙のせいで目を離してしまって」

「で、でも、あれって本物だよね」

「本物でしょうね」


ノイはそう淡々と応えた。

ウルラは何が起っているのか分からず、パクパクと口を動かしているばかりで話せる状況ではないようだった。元から、此の男には期待していないのだが……


「まあ、取り敢えず見守りましょう。ここにいれば……ウルラ子息の防御魔法はかなり優秀なので、あのハイレベルな戦いの近くにいても問題ないかと」

「ふーん」

「僕に、興味ないんですね。ステラ嬢」


と、先ほどまで黙っていたウルラがぼそりと口を開く。

何だ、喋れたのかと思ったけれど、今ウルラが言ったとおりなので私は何も言う必要ないと彼らの戦いを見守ることにする。けれど、一応情はあるのでユーイン様の戦いを見ながら応えてあげることにした。

お母様が掴んでくれた見合いでも合ったから、一応は。


「興味が無いというか……はあ、まあ単刀直入にいうと。そう、興味が無いの」

「そうですか」

「傷ついた?」


そう私が聞けば、彼は首を横に振る。


「いいえ、裏切ったのは僕ですし……ステラ嬢に見放されても仕方ないと思っています」

「人質をとられたから?」

「……」

「答えたくなければ良いけれど、まあ大体察しはつくかな」


首謀者が何処の誰かまではしらないけれど。

それに、私だって馬鹿じゃないから分かる。彼が私に好意を寄せているわけではないということぐらい。結局何にしろ、この縁談は白紙になるだろう。利益にならないから。


(この考え方は、お母様に似てるのかも知れない……)


貴族だから、一応利益になるかならないかぐらいは考える。裏切った貴族と婚約だなんてさすがに出来ないだろう。生れてしまった疑心暗鬼はもう一生付きまとう呪いのようなものだから。


「まあ、この戦いが終わった後、詳しく聞かせて。誰が人質に取られているか分からないけれど、その人も助けにいかなきゃだろうし」

「ありがとうございます」

「感謝される筋合いはないんだけどね……私としては、よかったかもだけど」

「よかったとは?」


ウルラは不思議そうに私の顔を除いた。

彼が私に好意を寄せていないように、私も彼に好意を寄せていなかったから、破談に……そもそもこの話が無かったことになることを嬉しく思っている、とは言わなかった。さすがにそれを言ってしまったら相手を傷付けることぐらい分かっている。


(にしても……ハイレベル……)


視線を移し、ユーイン様と偽物の戦いを私はじっと見つめた。

偽物は魔法でユーイン様の身体を傷つけようとするが、それはユーイン様はそれを魔法によって弾かれていく。

偽物の攻撃をまるで読んでいるかのように避ける。そして、攻撃する。

流れるような動きに無駄はなく、美しいとさえ思った。

偽物も初めは押しているように思えたが、全部ユーイン様の手のひらの上で踊らされていると言うことに気づいたのだろう。元々ユーイン様は、魔法だけではなく戦略も優れた人だったから。噂で聞いたぐらいだけど。


(初めから勝者は決まっていたようなものだけど)


ユーイン様がひときわ大きな魔法を相手にぶつけるため詠唱を唱えると、空中に大きな氷が魔方陣と共に出現する。偽物は、慌てふためき、もはやユーイン様の表情を保っていられないぐらい無様な顔になっていた。避けきることも、防ぎきることも出来ないだろう。


「身度ほどをわきまえろ――――!」


そう言って振り下ろされた手と、氷は偽物を襲った。

辺り一帯に冷気が駆け抜け、真っ白な霧が立ちこめる。衝撃波に耐えきれず私は目を閉じる。


(ど、どうなったの?)


ユーイン様どいえど、こんな大きな魔法を他人の庭で放つところを見ているとかなり怒っているのだろうと思った。

暫くして晴れた霧。

しかし、地面に大きすぎる穴が空いているだけで、そこに偽物の姿はなかった。


「ッチ……」


ユーイン様が憎たらしいというように舌打ちをする。それは、私の耳にまで入ってきた。

ようやく麻痺が解けてきて動けるようになった身体に、鞭を打ちながら私は立ち上がって本物のユーイン様に駆け寄った。


「ゆ、ユーイン様」

「……」

「あ、あの……ユーイン様、助けて頂いて……って、ちょっと、何処に行くんですか!?」


振返ることもなく、私の言葉に耳を貸すこともなく、ユーイン様はすたすたと歩いて行ってしまう。まだ完全に麻痺が解けていないのか、ユーイン様の人を寄せ付けないオーラに当てられたのかは分からなかったけれど、私はいつものスピードで彼を追うことが出来なかった。

ユーイン様は薔薇が咲き誇る庭の角を曲がって消えてしまう。


「ユーイン様、何処に……って、へ?」


私は慌ててユーイン様を追いかけ、角を曲がったが、その角を曲がった先にはちょこんと彼がいた。大きなサファイアの瞳を私に向けて、こてんと首を傾げる。


「ステラ……どーしたの?」

「ま、ま、まあ!?」


そこにいたのは、凍てつくようなプレッシャーを放つ大きなユーイン様ではなくて、あの可愛らしい小さなユーイン様だった。


ゴリラ令嬢は小さくなった第二皇子に恋をする

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