テラーノベル
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春。まだ肌寒さの残る朝。
陽射しはやわらかく、風が木々の葉をさらさらと揺らしている。
小さな町のはずれ、ブランコのある公園。
その片隅に、10歳の少年がひとり座っていた。
名前は……敬太(けいた)。
無口で、あまり笑わない少年だった。
でも、心のどこかにいつも、何かを探しているような目をしていた。
その日、いつものように静かにブランコに揺られていると、風に乗って、誰かの歌声が聞こえてきた。
澄んでいて、どこか懐かしい旋律。
ふと振り返ると、滑り台の上に、小さな女の子が立っていた。
栗色の髪に、白いワンピース。
瞳は大きく、けれど少し寂しそう。
その少女の名前は……凛(りん)。
彼女がこちらに気づき、目が合った瞬間、敬太の胸が”ギュッ”と締めつけられた。
知らないはずなのに。
会ったことなどないはずなのに。
“ああ、この子を知ってる”
そんな感覚に、心が支配された。
凛も、じっと敬太を見つめていた。
彼女の口からこぼれたのは、こんな言葉だった。
「……君、前にも私と会ったことある?」
敬太は答えた。
『うん。……多分、ある気がする。』
それが全ての始まりだった。
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