この作品はいかがでしたか?
15
この作品はいかがでしたか?
15
コメント
1件
目の前に立っているのは、可愛い女の子…かと思ったがどうやら男子らしい。
まるでどこかのアイドルかのように輝くその姿はクラスを一瞬でざわめかせた。
はぁ。煩いなぁ…
イヤホンを取り出してはめる。音楽を再生すれば、音はシャットアウトされて
音楽と自分のよくしれたリズムが流れ込んで自分だけの世界へと入っていく。
目を閉じて仕舞えばこっちのもの。
旭「址賀 旭です。変な時期に転入してきたけど、別に学校一のヤンキーとかじゃないんで
安心して下さい。声かけてくれると嬉しいです!よろしく〜」
御「へぇ……なかなか可愛い顔してるなぁ。なぁ、霧下」
『……』
御「霧下?…って、聞こえてないか。」
それから。HRが終わって、1限目に差し掛かるまでの10分間に
僕は小説のネタと構成の確認をし直そうとスマホでイヤホンをつけたままメモアプリを開いていた。
御嶽さんに見せた時もそうだが、僕は小説を書いている。
小説家、というわけではないがそれなりにたくさんのレビューやファンも居て
この間はちょっとした雑誌に取り上げられたくらいだ。ここ…小説だけは、僕の世界。
何もわからない僕でも、僕が作った物がルールになり命になり物語になる。
まるで世界創造主にでもなったかの気分で自分の物語を可視化していくのが楽しくてたまらないのだ。
長い文章を書くのはもとより苦ではない…っていうか、頭の中に浮かんだものを説明していったら
いつのまにか物語ができてるんだ。ふふ、と小さい声で笑う。
すると、自分のスマホの向こう側に両手が置かれているのを捉えた。
机に両手をついている人がいる。
どうせ雑談で気づかないウチか適当に手をついてるだけだと思ったが、よくよく考えれば
明らかにこっちを向いている。明らかに…多分…、僕のことを見ているんだろう。
スマホの中を覗かれるのも嫌だったから顔を上げてイヤホンを外せば
キラキラとした目で先ほどの転校生が僕を見ていた。
旭「ねぇねぇ、もしかしてそれって【神を掬う】?!」
『そうだけど…』
旭「ってことは…神を掬うの作者なの?!凄いなぁ、僕大ファンで!!」
『…知らないよ、僕は作者じゃない。たまにチラッと見るくらいで…』
旭「あれ?でもそれ、小説サイトじゃないよね。」
『……』
しまった、面倒なやつに目をつけられてしまった。
僕が書いているのは転校生が指差している紛れもない【神を掬う】という題名の物語だ。
もし僕が学校に書いていることがバレたら何が起こるかわかったもんじゃない。
どうしよう、どうしよう……
旭「もしかして君が書いてるってこと秘密なの?」
『え…』
旭「当たり?」
「……』
僕が焦る姿を見てそう思ったのか、きょとんとした顔で聞いてくる転校生。
間違ってはいない。_が、ここで認めればまた面倒臭いことになるかも知れない。
どうせ今日をやり過ごしたら三ヶ月はどうにも出来ないんだ、御嶽さんだって秘密は守る人だし。
御「なになに?何の話してんの?」
旭「わ、イケメン…」
御「ははっw開口一番それ?w」
旭「って…あれ、女の人??ごめんっ、僕つい男だと…!」
御「いいよいいよ、大丈夫。そう見えるように振る舞ってるんだし。…で、何の話してんの?」
目の前に顔がいい人間が二人。
一人はイケメンでこの学校でも結構なハイランクの御嶽さん。
一人は今日転校してきた謎の美少年、址賀旭。
それに挟まれる三ヶ月一度投稿の陰キャ、僕。
…やめてほしい。さっきから女子や男子の視線が集まっている。
勿論僕を見ているんじゃなく国宝級に素晴らしい顔をお持ちの二人を見ている事くらいは
分かっているが、そんな二人が集まる僕というのにも当然ヘイトが集まるというわけで。
御「へぇ、君もその小説知ってるんだ?…って、あ。もう授業始まる五分前じゃん」
旭「えっ、まだなんも準備してない!」
御「ww早くしないと遅れるよ。ほら、準備しながら語ろうぜ」
旭「いいのー?やたー!」
去り際にばちこんっとウィンクをしてきた御嶽さん。どうやら、僕のフォローをしてくれたらしい。
もっと穏便に済ませてくれないだろうか…なんて考えながら
あのイケメンじゃ無理かと同時に諦めてため息をついた。
僕も教科書とノート、筆箱を取り出していつもの位置に設置する。
こうしないと落ち着かないのだ。スイッチも入らないし。
これからどうするかなぁ〜…と、前の方で僕の小説について語り合う二人の声を聞きながら思う。
三ヶ月に一度、ああやって毎回詰め寄られては困るし非常に迷惑。
女子たちが変に騒いでリンチにされて仕舞えば僕はもう2度と学校に来なくなるだろう。
それは僕にとっても都合が悪い。
自分のスマホを握りしめながら、窓辺の方に視線を移してイヤホンをつける。
耳から離れない雑音の中、酷く小さく呟いた。
『あーあ…。ほんと、現実にはいい事なんて一つもないんだな。』