夜の闇が森を包み、冷たい風が彼の羽織を揺らしていた。義勇はいつものようにひとり静かに歩いていた。彼にとって沈黙は馴染み深いものであり、己を守る盾でもあった。
「生きる理由を問うてはいけない。鬼殺隊士として成すべきことをただ果たせ。」
そう心に刻みながらも、彼の胸には消えぬ痛みがあった。過去の記憶ー錆兎の笑顔と無惨な死。あの日、己が生き残ったことに意味があるのか?そんな問いが、折々に義勇を苦しめた。
しかし、彼は刀を握る。錆兎の想いを背負い、己が果たすべき使命を全うするために。彼の水の呼吸は、冷たいがどこか優しく、敵を切り裂くその刹那に、哀惜の情を宿していた。
ある夜、義勇はひとりの少女と遭遇する。彼女は鬼に襲われかけていたが、義勇は迷いなくその鬼を斬った。彼の眼差しに怯えながらも、少女は言った。
「ありがとう、お侍さん……!」
侍などではない、と言いかけて、義勇はふと気づく。自分をただの鬼殺隊士と位置づけることで、何か守ることの意味を見失っていたのではないかー?
静かに、義勇は少女に背を向ける。そしてまた、歩き出した。だがその歩みに、一滴の温もりが宿っていた。
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