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第9話:秘密のルーズリーフと、騒がしい応援団
若井side
翌朝、元貴の部屋。
涼架が「みんなの朝ごはん買ってくる!」と、少し明るい顔でコンビニへ向かった直後のことだった。
俺は昨晩書きかけだったルーズリーフを、誰にも見られないうちに鞄へ隠そうとした。
だが、その瞬間ーー。
「……んん?若井さーん、何隠したんですかぁー?」
背後から、睡眠不足で少しハイテンションな元貴の声がした。
「なっ……!別に、何でもねーよ。ただのゴミだ」
「ゴミをそんなに大事そうに四つ折りにするかなぁ?高氏、見て!滉斗があやしい!」
元貴がまだ寝ぼけている高氏を叩き起こす。高氏は「ふぇっ?敵襲か!?」と叫びながら起き上がった。
「……滉斗。その紙、まさか昨日の夜、暗闇でコソコソ書いてたやつか?」
「コソコソしてねーよ!…おい、寄るな!触るな!」
俺の制止も虚しく、元貴の素早い手が俺の指の隙間の間からルーズリーフを掠め取った。
「返せ、元貴!ぶっ飛ばすぞ!」
「えー、なになに?…『涼架へ』。わぁ、名前から始まってる!」
「見んな!!」
顔に血が上るのがわかる。
俺は元貴を追い回したが、あいつはベッドの上を器用に跳ね回りながら、高氏に紙をパスした。
「高氏、読んで!」
「よし任せろ!…コホン。『フルートを吹くお前が見たい。兄貴の言うことなんか……』うわっ、若井、これ、ガチのラブレターじゃん!」
高氏が目を見開いて叫ぶ。
「ラブレターじゃねーって言ってんだろ!激励だ、ただの激励!」
「激励をルーズリーフの裏に、こんな筆圧強く書くかよ。ほら『お前の名前しか呼ばない』だって!ヒューヒュー!」
高氏がニヤニヤしながら、紙を俺の目の前でひらひらさせた。
「…死ね、マジで」
俺は力なく座り込んだ。もう手遅れだ。この二人に知られた以上、一生いじり倒される。
「…でもさ」
不意に、元貴が茶化すのをやめて、俺の隣にすとんと座った。
「いいと思うな、これ。涼ちゃん、あんなにたくさん手紙もらってるのに、自分の名前が書いてある手紙、一通も持ってないんだもん」
元貴は、高氏から受け取った紙を丁寧に伸ばして、俺に返してくれた。
「滉斗の字、お世辞にも綺麗とは言えないけどさ。……すごく『滉斗』って感じがする。これをもらったら、涼ちゃん、泣いちゃうかもね」
「…泣かせるために書いてんじゃねーよ」
俺はぶっきらぼうに紙をひったくった。でも、胸の内のざわつきは少しだけ収まっていた。
「若井。お前、涼架のこと本当に好きなんだな」
高氏がいつになく真剣な顔で俺の肩を叩いた。
「いいか。お兄さんの影から涼架を引っ張り出すには、こういう『真っ直ぐな言葉』が必要なんだよ。俺たちみたいな賑やかしも大事だけど、最後にお前がその手を掴まなきゃ、涼架は迷子になっちまう」
「…わかってるよ、そんなこと」
「よし!じゃあ作戦会議だ!」
高氏が急にリーダー風の顔をして腕を組んだ。
「この手紙いつ渡すか!学校の正門でお兄さんと対峙した瞬間、若井がこれを突きつける!『俺の想いはお前の支配より重い!』とかなんとか言って!」
「却下だ。死んでも嫌だ」
「あはは!じゃあ、放課後の音楽室とか?涼ちゃんがフルート吹いた後に、そっと渡すの。…あ、それいいかも!」
元貴が楽しそうにプランを練り始める。
「お前ら…。茶化してんのか、応援してんのかどっちだよ。」
「決まってるじゃん。両方だよ!」
元貴がニシシと笑って、俺の背中をバチンと叩いた。
「滉斗。涼ちゃん、もうすぐ戻ってくるよ。…その紙、ちゃんとポケットに入れときなよ」
俺は溜息をつきながら、四つ折りにしたルーズリーフをズボンのポケットに突っ込んだ。
ゴワゴワした感触が、なんだか頼もしく感じた。
「…お兄さんが来ても、絶対引くなよ、若井。俺たちも後ろに居るからさ」
高氏が拳を差し出してきた。俺は少し迷った後、その拳に自分の拳を軽くぶつけた。
「…当たり前だ」
ガチャ、と玄関の開く音がした。
「みんなー!メロンパン、焼きたての買えたよー!」と、少し高い、安心しきった涼架の声が聞こえてくる。
俺はポケットの紙を指先でなぞった。
宛先は、藤澤涼架。
世界で一番不器用な魔法のカードを武器に、俺たちは今日、あの『完璧な支配者』が待つ戦場へ向かう。
次回予告
[世界で一番不器用な魔法]
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コメント
2件
今回も最高です!!💞 見るの楽しみにしてます!!💗