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フィレンツェとローマの拠点に捜査が入った事を知らされてからここを離れる準備を終えていつでもルクレツィオやジルベルトの命令に従えるように待ち構えていたマリオは、この後車でチェコに行くがその間運転に集中してもらわないといけない、だから今のうちに仮眠を取っておけとルクレツィオに促されるが、緊張と不安で眠れないと訴えるとルクレツィオがマリオの肩を抱いて一緒に寝てやるからベッドに行こうと誘いかける。
それをリビングから見送ったジルベルトはトーニオにも同じ事を伝えるが、自分は大丈夫と生真面目に返したため、ならば地下室のあの男の様子とウーヴェの手をもう一度拘束しておけと命じ、首を傾げられて苦笑する。
「連れて行くわけにはいかないから吊しておく」
「分かりました」
ジルベルトの残忍な笑みにトーニオも似たような笑みを浮かべて地下室に降りていくが、ああ、ついでにもう一度このテレビに繋がったカメラを用意しておいてくれともジルベルトが声を掛けると了解という返事が小さく聞こえてくる。
ルクレツィオが持って来たビールを飲み干して溜息をついた後にテレビのスイッチを付けると早速地下室の様子が映し出されて本当に仕事が早いと苦笑したジルベルトは、左足を抱えたまま抜け殻のように横たわるウーヴェに肩を揺らして笑い、さっきの一撃が文字通り心身を打ち砕いたことに小さな声を上げて笑ってしまう。
床に横たわっているウーヴェの手を無造作に掴んだトーニオが手首を再度拘束する作業の間もウーヴェは自ら動くことはなくただされるがままで、あぁ、本当に気持ちが良い、これほどまでにも気持ちが良いのかとソファの背もたれに腕を掛けて頭を仰け反らせるが、逆さまになった世界で決して忘れることの出来ない蒼い双眸に睨まれている事に気付き唇を噛み締める。
ジルベルトは広言していたとおり同性愛者に対する嫌悪感はかなりのものだったが、それは数時間前にルクレツィオに告げたとおり幼い頃に自分たちの身の安全を図るためにルクレツィオがジジイと呼ぶ小児愛好者に身を差し出してくれた事への無力感や虚無感から目を背けるためのものだった。
あの当時ルクレツィオはどうということはないと笑いながら夜ごと相手をさせられ、夜明け前に戻って来ては死んだように眠っていたのだが、そんな友をジルベルトは言葉で労うことしか出来なかった。
だから彼を守る為に腕っ節だけではなく頭脳でも負けないようにと必死に勉強し、学業でもトップクラスになるほどまで頑張ったのだ。
そんなジルベルトに長ずるにつれて己を組み敷く男の扱い方を覚えてきたルクレツィオが、俺はバカだから身体を使うしかない、頭を使うのはルーチェに任せると直視できないほどの笑みを浮かべていたのだ。
己よりも華奢な身体で総てを受け止めるルクレツィオをただ抱きしめることしか出来なかったジルベルトは、時々こうしてくれるとありがたいと湿った声で懇願されてこれで良ければいつでもしてやると返すことしか出来ない己に忸怩たる思いを抱いていた。
そんな友の思いに応えられていれば、今ここでこんな風に記憶の扉の奥から愛する男に睨まれずに済んだのだろうか。
己と共通する魂を持ちながら世の総てを恨んだり憎んだりする事もせず、暗い感情とは一線を画すことが出来る強さと突き抜けた子どものような笑顔を持つ男の傍にいられたのだろうか。
そんなはずがない、あいつは己の本心から目を背ける者を嘲笑していたはずだと己が彼から嘲笑されているように肩を揺らしてしまうが、顔を戻したときには嘲笑の代わりに総てのものを諦めたような表情を浮かべていて、その顔のままゆらりと立ち上がる。
無意識の動きで用意していたベレッタをヒップホルスターから取りだして弾を確認したジルベルトは地下室への階段を下りていき、そっとドアを開けてこちらに背中を向けるトーニオの後頭部に銃口を押し当てる。
「!?」
己の後頭部に宛がわれた鉄の感触にトーニオが驚き振り返る前に地下室に発砲音が響き、何故という疑問と脳漿を派手にぶちまけながら床に倒れるトーニオを無表情に見下ろしたジルベルトは次にその銃口をケージ内で横たわっているウーヴェに向けるが、脳裏でロイヤルブルーの双眸が強く煌めいてジルベルトの手を止めてしまう。
躊躇うように何度か銃口を上下させた彼だがウーヴェを射殺するのを何とか思い止まる代わりに手首の拘束具に鎖を繋いでケージの天井に鎖を引っかけると、拳銃をホルスターに戻して鎖を両手で引っ張りウーヴェの身体を天井から吊す。
「……う……ン……」
魂が抜けても痛みはあるのかウーヴェの顔が苦悶に歪むのを無表情に見つめたジルベルトは、骨折と内出血で見るも無惨に腫れ上がった左足が床に着くか着かないかの高さに引き上げると鎖をポールに巻き付けて固定する。
「人の幸せを奪ったお前が幸せになるなど許されないと思ってたが……もうどうでもいい。お前が文字通り力尽きるのが先か俺が先か。勝負だな」
お前がもしも力尽きたとしても何とも思わないがあいつを悲しませる事だけが残念だと自嘲し、尻尾を振る力ももう無いようだなと笑ってケージの扉を閉めると、最早この部屋に興味は無いと言いたげな顔でそれでも己の手で殺害した有能な部下の死を悼むように一瞬だけ目を閉じて地下室を出て行くのだった。
地下室からジルベルトが上がってきた時、同じタイミングでルクレツィオが階段を面白く無さそうな顔で下ってきていて、どうだったと問わずに見つめるとお前はどうだったと視線で問われる。
長年の付き合いから理解出来た問いとその答えにどちらからともなく溜息を零すと景気づけにビールでも飲もうとルクレツィオが笑い、ジルベルトも頷いてグラスを用意する。
「どのビールでも良いのか?」
「ああ、お前が今飲みたいもので良い」
キッチンに向かうルクレツィオが振り返らずに声を掛けてジルベルトが答えつつソファに座り直しテレビに映し出される地下室の様子をぼんやりと眺めるが、頬に冷たい感触を覚えて顔を振り向ければ、幼い頃からまったく変わっていない笑みを浮かべたルクレツィオがビールのボトルを差し出していた。
その笑顔に別の男の笑顔が重なり眉を寄せて何かを堪える顔でルクレツィオに手を伸ばしたジルベルトは、どうしたんだと驚きながら片手で抱きしめてくれる幼馴染みにさっきも言ったがお前の思いに応えられなくて悪かったと呟き、驚きの声でルクレツィオが名を呼んだ瞬間、ヒップホルスターからベレッタを素早く抜くとルクレツィオの腹に銃口を宛がって一度だけトーニオの時に比べれば震える指でトリガーを引く。
二人の腹の間で籠もる銃声と直後に聞こえたビールのボトルが床に落ちる音、そして何故と言う声にジルベルトが泣きそうな顔でルクレツィオの脇の下に手を差し入れて身体を支えると、渾身の力で抱き寄せてソファに縺れながら倒れ込む。
己の上で呆然と見下ろしてくるルクレツィオだが、恐る恐る腹に手を当ててぬるっとした感触に気付いて驚きに目を瞠る。
「ルーチェ……どうして、だ……?」
「……ローマもフィレンツェも壊滅した。ここもすぐに発見される」
そうなった場合逃げ切ることは出来ないだろうし万が一逃げ切れたとしても生活習慣も何もかも違う他国での逃亡生活を送る事は不可能だと告げ、震える両手でルクレツィオの綺麗な頬を包むと頭を持ち上げて驚きに薄く開く唇にそっとキスをする。
「……ジル……」
「もっと早くこうしていれば良かった」
そうすればお前だけではなくあいつも喪うことはなかったのにと後悔の述懐をしたジルベルトの顔を囲うように腕をついたルクレツィオは、こんな時に他の男の事を考えるなと笑い、今度はルクレツィオからジルベルトの口を塞ぐようにキスをする。
「……マンマのジェラートも……お前に、奢ってもらうもの、も……食えなくなった……な」
「ああ」
「でも、最期に……お前とキス、できた。なあ、ルーチェ、教えてくれ。どうして、撃った……?」
今ここで何故俺を撃ったと、恨んでいると言うよりは素朴な疑問に回答を与えてくれと言いたげな顔で見下ろされたジルベルトは、お前が誰かに殺される所など見たくなかったと初めてルクレツィオに見せる泣きそうな顔と震える声で本心を伝えると、小さな小さな笑い声が響きルクレツィオが身体を支えることが限界だと伝える代わりにジルベルトの胸板に頬を載せるように寄りかかる。
「なんだ……同じこと、を……考えていたんだな」
「……ルーク……っ……!」
その言葉の通りジルベルトがルクレツィオの背中を抱いたとき腰に差した拳銃に手が当たり、お前が警察に殺されるところなど見たくないと己が抱いた思いとまったく同じそれを持っていた事を教えられる。
「ま、良いか……お前と一緒に、いれて楽しかったし……」
お前と一緒でなければ出来ないことも沢山経験したしお前がいればもっと楽しかったと思う事も沢山経験した、その締め括りがお前の手によってもたらされるのは幸福なことじゃないかと笑うルクレツィオだったが、少し咳き込んだ事でジルベルトのシャツに腹から溢れ出す血が染みこんでいく。
ルクレツィオの命を己の服で吸い取り最期まで手を離さない事を耳に囁きかけると失血のせいで青ざめてきた頬に口付け、見事なブロンドを胸に抱え込む様に腕を回す。
「……ルーチェ……地獄って……暗いの、か……?」
ルクレツィオが己の上で浅い呼吸を繰り返す度にシャツに染みこむ血の量が増えていき、シャツを通して素肌にまで滑りを感じるようになっていた。
ルクレツィオという奇跡のような身体から流れ出す命の一滴一滴を受け止めながらしっかりと抱きしめ、悪魔達が歓迎の宴を開いてくれるだろうから蝋燭が並んでいるんじゃないかと震える声で答えると、抱きしめられる満足と自信なさげな解答に不満を抱いているような溜息が胸元に落とされる。
「面白そうだな、それ……」
悪魔達の宴は楽しそうだ、お前と一緒ならもっと楽しそうだからなるべく早く来い、地獄の門の前で待っているとルクレツィオが笑い、ジルベルトも笑おうとするが上手く出来ずに掠れた吐息がルクレツィオのブロンドに掛かるだけだった。
「地獄の門は……一切の希望を捨てなければならない。良いのか、ルーク?」
「……希望、など……今ま、で……一度も、持ったことは……ない」
児童福祉施設でお前に出会い二人揃って引き取られてからも本当の意味での希望など持ったことはない、だから地獄に行っても希望など持たないから大丈夫だと己自身を含めた世界の総てを嘲笑するような声にジルベルトがきつく目を閉じ友の肩が大きく上下したことを知ると、血の気が失せて蝋人形のように白くなりつつあるルクレツィオの耳に口を寄せ、懐かしい二度と戻ることが出来ない児童福祉施設で毎日のようにマンマと二人が呼ぶシスターが唱えていた祈祷文を一足先に旅立つ友のために唱える。
「…… adesso e nell’ora della nostra morte. Amen.」
その祈祷文はロスラーの傷口に埋められたメモに書かれていたものでリオンが予想したようにそれを埋め込んだのはルクレツィオだったが、祈祷文をメモに書いたのはジルベルトだった。
リオンの予想は半ば当たっていて、教会の児童福祉施設出身のジルベルトはリオンと同じで毎日のようにその祈りを耳にしていた為、例えどれほど拒否しようとも血となり肉となってジルベルトの体内を巡っていたのだ。
ロスラーの時には忌々しい気持ちになったが、友を送るとなれば話は別だった。
今まで人に言えること言えないことを数多と行ってきた自分たちだが、天国に行きたいなどとは思わないしまた行けるとも思えなかった。
ただ、死といういずれは誰にも訪れる時に臨み心が穏やかになるのならどれほど嫌悪していた聖母マリアへの祈りですら素直に真摯な思いで行えるのだ。
ルクレツィオを思う気持ちから震える声を叱咤しつつ祈りきったジルベルトは、胸に掛かる重みが増した気がし、片手で頭を片手で背中を抱きしめながら不意に込み上げてくる笑いを堪えるのに必死になる。
「……ルー……地獄……も、俺の……」
最後まで言えずに淡い吐息を一つジルベルトの胸に零したルクレツィオは、ジルベルトの感情を堪えて震える声がもちろんだ、でも本当に太陽だったのは俺じゃなくてお前だという言葉を聞けずに息絶えてしまう。
己の腕の中で息絶えた友の背中を撫でこれだけの血を流しているのだから軽くなっても良いはずなのに何故こんなにも重くなるのだろうと、先程は堪えた笑いが再び込み上げてきたことに気付き、肩を揺らして一人笑い続けるのだった。
冬の夜明けは遅く夜半とまったく変わらない暗さの中、リオンが寒さを堪えるようにブルゾンを着込んでベッドルームにあるバスルームの鏡に映る己に向けて深呼吸をする。
今からウーヴェを救出に行く、あわよくばジルベルトとルクレツィオの逮捕もすると宣言するが、間に合うと良いなぁという底意地の悪い声が聞こえ、数日前ならば苛立ちを覚えたそれに今は太い笑みを浮かべて間に合うに決まっていると返す。
ただ自信を持ったその声にも多少の不安が混ざっていて、それを打ち消すためにウーヴェ愛用の香水-リオンがプレゼントしたもの-を着けようとするが、思い直してウーヴェがプレゼントしてくれた香水を少し多めに振りかける。
「……よし!」
己の頬を叩いて気合いを入れたリオンは今から救出に行くからなと鏡の中の己を通してウーヴェに語りかけ、気合いを入れて出勤し会議室で皆が待っている事を教えられて一度足を止めて深呼吸を繰り返す。
ここ数日の出来事を振り返れば何週間も何ヶ月も経っているような気がするがロスラーが身元不明の遺体で発見されてから10日ほどしか経過していないのだと気付き、ウーヴェがいない日々がどれほど長く感じるものなのかと苦笑するが、その時、会議室のドアが開いてコニーとばったり出会してしまい、互いに微苦笑を浮かべると来たのなら早く顔を出せー、クランプスが怒り狂っているぞーといつかも言われた言葉を告げられてリオンの肩が上下する。
「クランプスに怒られたくねぇから来ましたー!」
「遅い!」
会議室に入っての開口一番がそれだった為ヒンケルもいつもとまったく変わらない口調で遅いと怒鳴るが、まだ出動していないのだから間に合ったでしょうがーとリオンが減らず口を叩きコニー以外の同僚達が顔を見合わせて溜息を吐く。
この雰囲気はいつものものと呼べるものだったが、ブライデマンの要請でBKAから駆けつけてくれた刑事達にとってはふざけているのかと眉を寄せたくなるようなものだった。
部下は上司に似るんだなぁとリオンが暢気な声を上げ、似ているとされたヒンケルにじろりと睨まれるが蚊に刺されたほどの痛みも感じていない顔でそっぽを向く。
「……ドクが監禁されている家だが地下は半地下、一階と二階になっている」
一階にはリビングやキッチンがあり二階にはベッドルームがあること、先程の報告では半地下の部屋には明かりが常についているが、リビングなどは定期的に消灯もされていると報告されて皆が頷く。
「ドクがいるのは半地下の部屋だがそちらはリオン、お前に任せる」
「……Ja」
家にまず突入するのはコニーだが現地についてから臨機応変で変わること、ただし、半地下に突入するのはリオンとブライデマンに任せる事をヒンケルが告げると、さすがに真剣な顔で二人が頷く。
その後、他の刑事達への仕事の割り振りを済ませたヒンケルは、一人一人の顔を見回した後、最後に飄々とした顔で話を聞いていたリオンを見つめ無言で頷く。
「行くぞ」
「Ja」
ヒンケルの号令の元、刑事達が一斉に返事をし己に与えられた仕事を全うするためにどうすれば良いのかを思案しつつ銘々乗り慣れた覆面パトカーに乗り込むが、リオンがどうするべきか思案した時ヒンケルがいつものシルバーの覆面パトカーのキーをリオンに投げ渡す。
「行くぞ」
「りょーかい」
同じパトカーにブライデマンも乗せ出動する同僚達の車についていくが、リオンが考えていたよりも近くの町に進みこんなにも近くにいたのかと感嘆の声を上げる。
「ああ、そのようだな」
「……まだ静かって事は寝てるんだろうな」
こんな早朝にお騒がせすることを許してくれと思ってもないことを呟いてステアリングをノックしたリオンは隠そうとしても緊張を隠すことが出来ず、タバコを取りだして震える手でジッポーを振って火を付ける。
「……あの角を曲がった先にある家だ」
「Ja.……写真で映っていた車、ありますね」
「そうだな」
角を曲がって極力音を立てずに少し離れた空き地に車を止めたリオンは、目的の家の前の駐車場にバンが止まっていること、そのバンの向こうに半地下の鉄格子の填まった窓が見えていたがそこにどこかで見た事のあるバッグが引っかかっている事に気付く。
「あれ、もしかしてスーパーのエコバッグか?」
「そうなのか?」
半地下の様子を車の陰から見張っているが明かりはついていても人の動きが無いと判断をし、次にリビングのブラインドが降りたままの掃き出し窓の様子を窺うが、ブラインドの細い隙間からは明かりとテレビの明かりがテーブルに反射している様子が辛うじて見えるぐらいだった。
だが家の中は無人のように静まりかえっていて、突入の体勢になった部下達にヒンケルが黙って頷くと防弾チョッキをしっかりと着込んだコニーがドアノブをゆっくりと回し鍵が掛かっている事を確認すると植え込みをかき分けて家の裏手に回り、キッチンにある勝手口のドアノブを回してコニーとBKAの刑事が足音を立てないでキッチンから家の中に入るが、その時、静かな声で呼びかけられて飛び上がりそうになる。
「……コニーか?」
「……ジル」
そんな裏口から入って来なくても玄関から来れば良かったのにと肩を揺らして笑うジルベルトに隠れても無駄だと気付いたコニーがリビングに足を踏み入れるが、室内に血のにおいが満ちている事に気付いて顔を顰め、その発生源を探してやるせない溜息を吐く。
壁に大きなテレビがありそこには地下室の様子が映し出されていて、一見して死亡していることが分かる男の死体と一見するだけでは分からない様子の男とケージの中に鎖で吊されているウーヴェがいて、きつく目を閉じたコニーがジルベルトに顔を向けてその目を開くとドクを何故誘拐したと鋭く問い、そんなことはどうでも良いと言いたげに憔悴しきった顔をジルベルトが振り向ける。
「なあ、コニー、逃げも隠れもしねぇから、あいつと……リオンと話をさせてくれ」
「ジル……」
「なあ、良いだろう?」
もしも不安ならば警部も呼んでくれて良いと笑うとソファから立ち上がって自ら玄関のドアの鍵を開け、固唾を飲んで様子を見守っているヒンケルと二年ぶりの再会に淡い笑みを見せる。
「……こんなことになっちまって、残念です、警部」
「ああ、本当にな」
ヒンケルの後ろにリオンの顔を発見したジルベルトは、あぁ、やっと会えたと親友との久闊を叙す顔で笑うとリオンの顔に驚きが浮かぶが、次いで太い男前な笑みを浮かべて一歩を踏み出す。
「そうだな、やっと会えたなぁ、兄弟」
職場では背中合わせの席でいつも賑やかに言葉のキャッチボールを交わして面白おかしく仕事をしていたが、ゾフィーが命を落とした事件を境に大きく立場が変わった二人の二年ぶりの再会にどちらもそれ以上言葉を続けられないのだった。