テラーノベル
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家に着いて、車を止める。エンジンを切った音が、やけに大きく響いた。
若井は助手席を見た。
まだ、寝ていると思っていた。
「……起きる?」
そう声をかけようとした、その瞬間。
「……うん」
涼ちゃんが、ゆっくり体を起こした。
若井は一瞬、固まる。
「……え」
「起きてたの?」
涼ちゃんは目をこすって、
何でもないみたいにシートベルトを外す。
「……途中から」
若井の心臓が、嫌な音を立てた。
途中から。
それは、どこからだ。
喉が鳴る。
「……さっきの」
若井は、できるだけ平静を装って言う。
「話、聞かれた?」
沈黙。
車内の空気が、ぴんと張る。
涼ちゃんは、車のドアを開ける前に、
若井の方を見た。
ふっと力の抜けた笑い方をした。
「……両想い、だね」
にっこり。
冗談みたいに、でもどこか本気が混じった笑顔。
若井は完全に思考が止まる。
「……え?」
一拍遅れて、慌てて首を振る。
「ちょ、ちょっと待って、違っ——」
顔が一気に熱くなるのが自分でも分かった。
「今の忘れて。さっきの話、全部忘れて」
声が裏返りそうで、若井は必死だった。
「今のは、その……勢いっていうか、看病モードっていうか……!」
涼ちゃんはドアに手をかけたまま、くすっと笑う。
「焦りすぎ」
それから、少しだけ声を落として。
「大丈夫。変な意味じゃないよ」
若井は、ほっとするより先に、胸の奥がちくっとする。
「たださ」
涼ちゃんは続ける。
「若井も、俺も……元貴に置いていかれたって思ってて」
視線を逸らしながら、
「同じ場所に立ってる、って、意味」
若井は、ようやく息を吐いた。
「あ……そっちか……」
「そっち」
涼ちゃんは小さく頷く。
「逃げようって言われた時、ちょっと嬉しかった」
若井は返す言葉を探して、結局、素直に言った。
「……俺もだよ」
一瞬、沈黙。
でもさっきまでの張りつめた空気とは違って、どこか柔らかい。
涼ちゃんが車から降りてまだ座っている若井に
「じゃ、家入ろ」
振り返って、少し悪戯っぽく。
「居候さん」
若井は苦笑して、エンジンキーのあった場所を見つめてから車を降りた。
「……その呼び方、やめろ」
でも、足取りは軽かった。
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