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「じゃあ、科学部を辞めて、ラノケンに入ったんですか?」
「いや、二足の草鞋という奴だよ。科学部も未だに健在で、ラノケンに通っている」
「それ、なかなか大変じゃないですか?」
「そうでもないさ。多くの人と触れ合うのは心理学も学ぶ上では勉強になる。それにいろいろと実験もできそうだしねぇ」
そう言って理香はまじまじと、書也の身体を舐め回すように見る。
「お~い、人の生徒を実験に使うなよ」
教子がくぎを刺すと、理香は妙な笑みを浮かべる。
「あははっ!?……教子先生は本気にしているのかい? 私が男性にあれこれ変な実験をすると?」
笑い声を上げる理香に教子の眼が開き、チベットスナギツネのようになる。理香は教子から目を逸らしているように思えた。
「お~い論理屋論理屋、こっちを向け」
理香は誤魔化すようにブリーフケースから独特な緑色のノートPCを出し、LANケーブルに繋いだ。
「心理学科はタブレットを支給されるんじゃなかったんでしたっけ? そのボディ、何処かのネット通販サイトで見ました。自作ノートPCだったような」
書也は珍しそうに理香のノートPCを見る。
「あー、あれはどうもスペックが低くて使い物にならなくてね。授業以外は自作の物を使っているよ」
「ちなみにスペックは?」
「メモリ64ギガバイトにSSD4テラバイトだね。なかなか処理が速いよ」
「化物じゃない! なんでそんなスペックが必要なのよ!」
友美が頭を押さえて言う。
「処理が速い方がストレスが無いだろ?」
「そりゃそうだけど……」
「良かったら、君のパソコンも改造してあげても良い」
理香がポケットからマイナスドライバーを取り出して回し、笑みを向ける。
「嫌よ! そうやって変なアプリか追跡装置でも付ける気?」
友美は思わずノートPCを持ち上げ、遠ざける。
「私としても無料ではやらないのだけれどね。君がどういった物をショッピングサイトで買うのか、どういったサイトを拝見しているのか、そういった情報をいただければ、無料でやっても良いのだよ!」
「なおさら嫌よ!」
「はは……冗談ですよね? 本気で言ってるんですか? 理香先輩?」
思わずジト目になる書也に理香は何を言ってるんだという表情になる。
「半分は本気さ」
「……ええ」
「エロスちゃん、ところで幽美ちゃんはどこ? まだ見てないよね?」
「見ていませんわ。幽美さんは同じ学年でも彼女は民俗学科ですので、あまり会う機会がありませんわ。きっと先生がおしゃった通り、まだ保健室ですわね」
「ん? 何を言ってるんだ愛君? 幽美君なら君の隣にいるじゃないか?」
理香の言葉に思わず愛は青ざめた後、隣を見ると、おかっぱ頭で髪で目が隠れた座敷童みたいな幼い少女が隣の席に座っていた。
「えっ? きゃあああっ!? 幽美ちゃんいつの間に!?」
「こほっ……愛、化物を見るような目で驚かれるなんて心外……」
幽美と呼ばれる幼い少女は咳き込み、気分を悪くしたように青ざめる。
「ごめんね愛ちゃん、いきなり現れたから」
愛は幽美をぬいぐるみのように抱き締め、頭を撫でる。
「愛なら許す……他の奴なら呪う」
幽美は愛に撫でられるまま、頬を染める。
「相変わらず神出鬼没ね。何処から入ってきたのよ」
友美が不思議そうに聞く。
「幽美君はずっと私の背後に居たよ。小さいから背に隠れて見えなかったんだろうね」
「小さい言うな! 呪うぞ!」
幽美が睨むと、理香は挑戦的な目つきになる。
「呪う? ずいぶんと非科学的な事を言うじゃないか……私を脅して幻覚でも見せる気かな?」
「倫理に反した実験オタクは呪われてしまえばいい!」
理香と幽美はバチバチと火花を散らすように互いに睨み続ける。
「教子先生、誰です? この小さい子? 初等部の子が見学にきているんですか?」
「そいつはな一応、お前の先輩でな」
教子先生は頭を掻きながら言う。
「えっ?」
書也がもう一度、幽美を見ると、今度は書也を睨んでいた。
「お前も失礼! お前より年上! あっ、お前……まさか語部書也か!? 愛は渡さない!」
幽美は愛にしがみ付き、餌を取られないように守り続ける獣のように唸り声を上げる。それと心なしか、上の蛍光灯がちらつき始めたような……
「失礼だよ書也君。幽美ちゃんは私達の先輩だよ」
愛は過保護な母親のように幽美を抱き締めたままで言うが、充分に子供扱いしているような動作なのは気のせいなのだろうか? 愛はその先輩をずっと子供のように頭を撫で続けているのだ。
「あ、そうなのか……小さいからてっきり……」
「また小さいって言った! がうううっ!?」
愛には子供扱いされて良いのか、まだ顔なじみの無い書也に八重歯を見せ、狂犬のように唸っている。
「そいつは怪奇幽美、一応は三年の先輩でな。この部の中で唯一のプロ作家だ」
教子先生は説明が面倒くさそうに言う。
「マジですか!? 怪奇先輩、サイン貰って良いですか?」
「敬え!」
書也が手帳を出して渡すと、幽美はまんざらでもないようで、サインを書き始める。
「あれ? これって……?」
サインは怪奇幽美の文字かと思えば、少し漢字の字体を崩して、「病」とカタカナで「ンデレ」と記載している。
「幽美、調子に乗らない! 批評に影響出るでしょ! しかもあんたゴーストライターだからサイン書ける身分じゃないでしょ!」
友美が怒ると、幽美がむすっとした表情になる。
「ゴーストライター?」
首を傾げる書也。その単語に聞き覚えはあったが、どういった意味か度忘れしていて、思い出せない。
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