「あぁ。こっちの方がリビングに近いし、俺が隣で寝れるからこっちに連れてきた」
「えっ」
私をベッドに優しく降ろし、私が下着姿なのを気遣ってか、軽い布団をかけてくれた。
「お前、身体が熱い。ちょっと飲み物持ってくるから待ってろ」
また奏多さんに迷惑かけちゃったな。
彼はすぐリビングから戻ってきて、スポーツドリンクが入ったコップにストローを差してくれた。
「起きれるか?」
「はい」
私の上半身を起こしてくれ、飲ませてくれた。
「おいしい」
冷たくて美味しかった。
「飲み物、すぐ近くに置いておくから。俺もここにいる」
彼がベッドに腰掛けながら、私を見つめた。
「何をそんなにのぼせるまで考えてたんだ?」
「秘密です」
奏多さんが好きで悩んでいるなんて本人に言えるわけがない。
普通に会話ができるこの関係が壊れるくらいなら、私は自分の気持ちを伝えたくない。
「なんでだよ?」
奏多さんは、気に入らないといった表情をしていた。
「さっきよりはどうだ?医者、呼ぶか?」
「さっきよりは大丈夫です。でも、まだ身体が熱くて」
私の頬を触り
「ちょっと待ってろ。熱冷ましのシートがあったかもしれない」
彼は寝室を出て行った。
なんで、こういう日に限って優しいんだろう。
私が彼のことを男性として好きだと自覚をした日に。いっそのこと、嫌いになるようなことをしてくれた方がいいのに。
最初の出会いのように、いきなりキスをされて、写真を撮られて、脅されて。
あの時は、奏多さんを引っ叩いてしまったんだっけ。今なら考えられないな。
そんなことを考えていると、奏多さんが戻ってきた。
「ひゃ、冷たいー」
おでこに熱冷ましのシートを張られた。
「我慢しろよ」
彼を見ると、目が合った。
「奏多さん、ありがとう」
私は手を伸ばし、ベッドに腰掛けている奏多さんの裾を引っ張った。
なぜだろう、触れたくなった。
「俺、シャワー浴びてくるわ。すぐ戻ってくるから」
「行っちゃうんですか?」
いつもなら「はい」と返事をしていたと思うが、近くにいてほしくて我儘を言ってしまう。
嫌いになりたい、でもやっぱり好き。
そんな気持ちが交差する。
すると奏多さんは、急に顔を私に近づけたかと思うと
「お前な、俺一応、男なんだけど。俺のベッドに下着姿の女が寝てるんだぞ?どういう状況か考えろ」
呆れるようにそう言った。
私の顔が紅潮する。
そうだ。今、布団で隠れているから恥ずかしくないけど、下着だった。
「奏多さんは私の下着姿なんて見ても、何も感じないんじゃないですか?」
彼と睨み合う。
しばらく睨み合った後、彼は私から離れ部屋から出て行こうとした。
「俺だっていろいろ我慢してんだよ」
一言嘆いたのが聞こえた。
「それだけ話せれば大丈夫だと思うけど、すぐシャワー浴びてくるから。寝てていいからな」
寝室のドアがパタンと閉まり、一人きりになった。
奏多さんが我慢?
男の人って、誰でもいいのかな。
もう少し可愛い下着をつけていれば良かった。
そんなくだらないことを考えてしまう。
奏多さんがシャワーに行っている間、ベッドの中で考える。
さっきより具合も良くなった。手足を動かしてみる。まだ怠さは残っていたが、普通に動けた。
さすがに下着姿はまずいと思い、ベッドからゆっくり起き上がった。
頭が重かったが、歩けそうだった。
ベッドから降り、リビングを通り、自分の部屋に行き、部屋着を取りに行く。
フラフラしたが、服を着ることもできた。
どうしよう。
奏多さんの寝室に戻った方がいいのかな。
「花音?」
奏多さんの声がした。
「はい」
返事をする。
奏多さんが私の部屋に入ってきた。
「おい、心配させんなよ?寝室行ったら、お前いないし。びっくりしたわ」
「ごめんなさい。下着……だったから。身体も動いたので、洋服だけ着たいと思って」
ふぅとため息をつき
「俺が何にも感じないと思っているんだったら、別に下着のままでもいいだろ?」
「それはそうですけど……」
沈黙が続く。
ケンカをしたいわけではないのに。
迷惑ばかりかけているから、彼には感謝しなきゃいけないのに。素直になれない。
俯いている私に
「歩けるか?大丈夫そうなら、俺の部屋まで来てほしいんだけど」
「はい。歩けます」
彼は私に手を差し伸べてくれた。
ベッドから立ち上がる。
倒れた時より、かなり回復をしている。
自分一人で歩けそうだった。
しかし
「きゃあ!」
奏多さんがまた私を抱きかかえてくれた。
お姫様抱っこだ。
「もう歩けますよ!大丈夫です」
降ろしてくださいと頼むが、彼はもちろん私の頼みなど聞いてくれなかった。
湊さんの寝室に連れて行かれる。
てっきり、ベッドの上に降ろされると思ったが違った。寝室のソファーの上に降ろされる。
「ちょっと待ってて。あっ、目を瞑ってろ。俺が良いって言うまでそのままでいろよ」
どうしたんだろう。
言われた通りに目を瞑る。
しばらくして、何か首に冷たいものがあたったような気がした。
「いいよ、目を開けて?」
目を開ける。
目の前には姿見が置かれていた。
「えっ?」
姿見に映る自分を見た。
首に可愛らしいハートのネックレスがかかっていた。ハートの中には、一粒のダイヤが入っている。
冷たいと感じたのは、ネックレスだったんだ。
思わず、触ってしまう。
私が驚いて何も言えずにいると
「誕生日おめでとう」
ソファーに座っている私を、奏多さんは後ろから抱きしめてくれた。
「誕生日?」
時計を見ると二十四時を過ぎていた。
コメント
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優しい😭