気づけば二十四時を過ぎており、私の誕生日当日を迎えていた。
「本当は二十四時ちょうどに渡したかった。お前がぶっ倒れるから、想定外だ」
奏多さんが私を抱きしめたまま、苦笑いをしているのが鏡越しに見えた。
ベッドの上に二人で移動をする。
私は、驚きと嬉しさ、感動で何も言葉を伝えられずにいた。
「ありがとう」とさえ、言えていない。
「ダメだった?」
奏多さんが何も言わない私を心配してくれた。
その言葉にハッとする。
「奏多さん、ありがとう。びっくりして、嬉しすぎて、すぐ何も言えなくてごめんなさい」
涙が込み上げてきた。
「こんなに嬉しい誕生日、初めてです」
嬉しい、嬉しい……。
けれど、こんなことされたらもっと奏多さんを好きになってしまうから。
それが心の中でどこか引っ掛かっていた。
だから涙が止まらない。
嬉しい涙と寂しい涙だった。
私は、あなたの一番になれることはない。
そんな私の頭を彼はポンポンと叩く。
「うう”っ」
自分の中で抱えきれなくなった気持ちが溢れて、号泣してしまう。
「そんなに泣くなよ。目が腫れる。さっき倒れたばっかりだし、また具合悪くなるぞ」
彼は、私の肩を抱いてくれた。
優しくしないで、もっと好きになってしまうから。
そう言いたかったけれど、今日が最後だと思って甘えようと思う。後悔しないくらいに。
きっと、人生でこんなに嬉しいことなどないから。今日だけは、我儘でいてもいいよね。
「泣きすぎだから」
彼は笑っていた。
こんなぐしゃぐしゃな私の顔を見ても、いつもみたいにバカにしないんだ。
「なんで……。私の誕生日……知っているんですか?」
「んー。秘密。明日教える」
「明日?」
「そう、明日。明日、予定空けとけって言っただろ?まだお前の誕生日、始まったばっかりだから」
まだ何かしてくれるのだろうか。
「もう充分です。これ以上何かされると、一生分の運を使い果たしてしまいそうです」
「そんなわけないだろ」
バカだなと笑ってくれた。
「だから、今日はもう寝ろ。ゆっくり休んで、体調整えとけよ?」
「はい、わかりました」
自分の部屋に戻り、もらったネックレスを外し、手に取ってよく見る。
「可愛い」
高そう、いくらくらいしたんだろう。
一般庶民の私は、そんなことを考えてしまう。
もう充分幸せだった。
明日はどんな日になるんだろう。
そんなことを思いながら眠りについた。
次の日の朝、いつも通りに私は起きたのだけれどーー。
珍しい光景が目の前に広がっていた。
「奏多さん、朝から何をやっているんですか?」
奏多さんがキッチンに立っている。
「何って、朝食作ってんだけど。たまには」
夢じゃないかと思い、頬を抓ってみる。
痛かった。夢じゃない。
「私、何かやることありますか?」
「ない、座ってろ。それか、学校行く準備しとけ」
とりあえず邪魔になってはいけないと思い、座ることにした。
「これが当日の誕生日プレゼントですか?」
料理をしている奏多さんに話しかける。
「そんなわけねーだろ」
いや、私には記憶に残るサプライズプレゼントだった。
「お前。明日、休みだろ?」
「えっ。午後から成瀬書店のアルバイトが入ってますけど」
「そっか。ま、午後からなら大丈夫だな。俺もいるし」
「どういうことですか?」
「なんでもない」
なんでもないって、そこまで言われるとすごく気になっちゃうよ。
ただ、これ以上詮索してもいけない気がする。
「学校終わりそうになったら、連絡して?」
「はい。わかりました」
奏多さん、何を考えているんだろう。
私なんかの誕生日なのに。
彼の考えていることが全然わからなかった。
そして今日がどんな日になるのか、予想できない。
「ほら、できたぞ。食え」
「うわぁ、美味しそう」
焼き立てのパン、スープ、ソーセージ、目玉焼き、サラダ。
「いただきます」
「美味しい!やっぱり人に作ってもらうご飯って美味しいですね」
「大したもの作ってないけどな」
「お前、本当に美味そうに食べるな?」
「えっ?だって美味しいんだもん」
もちろん朝食も美味しかったが、奏多さんに作ってもらえて嬉しかった。
思わず表情が柔らかくなってしまう。
そんな私を見てふっと彼が笑った。
あっ、やばい、カッコいい。
彼の笑顔を見た瞬間、一気に鼓動が速くなった。
それは、ファンとして彼を見ていた時とは違う感覚。
私、やっぱり奏多さんが好きなんだ。
朝食を食べて、いつも通り学校に通学をした。
授業なんて、もちろん集中ができるわけがない。
「あっ、佐伯さんのネックレス可愛い!どこで買ったの?」
奏多さんからもらったネックレスをつけていた。
失くしたらどうしようとか、落としたらどうしようとかいろいろ考えたが、今日は誕生日。
せっかくだから一日つけて行くことにした。
こんな時に限って、普段あまり話しかけてこない同級生が話しかけてくる。
「えっと、もらったからわからないんだ」
「えー。いいな。誰にもらったの?彼氏?」
彼氏……。だったらいいな。
なんて答えよう。
アルバイト先の店長?
「えっと……。アルバイト先の人?かな」
「そうなんだ。絶対その人、佐伯さんのこと好きだよ?オープンハートのネックレスだもん」
「おーぷんはーと?」
アクセサリーには興味がなかったので、私には聞きなれない言葉だ。
彼氏いない歴イコール年齢の私は、男性からもちろんプレゼントをもらったことがない。奏多さんが初めてだった。
「そのままの意味だよ?心を開いてって意味」
そういう意味なんだ、知らなかった。
奏多さんは、わかって買ってくれたんだろうか。
忙しいのに、いつ買ったんだろう。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
奏多さんに駅へ着く時間を連絡した。
<迎えに行くから待ってろ>
指示通り、駅で待っていた。
そんな時
「佐伯様でしょうか?」
スーツを着た中年の知らない男性が話しかけてきた。
コメント
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何が待ってるんだろ…、?、 続き楽しみ!!🥰