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課長を浴槽の縁に座らせるとわたしは、彼の屹立するそれを、口いっぱいに頬張る。――ああ、幸せ……。


好きなひとのそれを頬張れる。これ以上に幸せな行為などあるだろうか。……わたしの胸に巣くうのは紛れもない、支配欲。そして優越感……。


彼女に出来ないことを、わたしは成し遂げたいのだ。わたしにしか出来ないことを。


課長が、切なげにわたしを見ている。含みながら顔を上下させるわたしを。


「……莉子……」


このときのあなたの表情が好き。どうしようもなく、……切なく潤む、その瞳が、わたしを虜にして離さないの。


お願い課長。わたしとずっと一緒にいて……。


わたしのことを、離さないで……!


そう言葉で伝える代わりに、わたしは想いを行動で表出させた。


あなたの吐き出す欲をわたしは残らず受け止めた。……目を見てごっくん。それを見て、ああ、とあなたは目を細める。


「莉子のその顔……えっろ……」


だからわたしは、あなたが好きなの。


* * *


翌朝、出社すると、もうふたりのことは噂になっていた。よりによって、荒石くんが、紅城さんとの交際を認めたというのだ。

遠目に見ても、こころなしか、荒石くんは、すっきりした顔をしているように思える。不思議と、先入観もあってか、いつもよりも大人びて見える。……あれ、こんな格好いい男の子だっけ。


そして……紅城さんといえば。


晴れやかな顔をしていた。


いつも柔和な態度で、どんなアクシデントが起きても驚かない、落ち着いた性格の彼女は、こころなしかいつもよりも笑顔が多く……そう、ふたりの仲がうまくいっているだろうことをうかがわせた。


ならば、……そう、わたしに出来ることはなにもない。


めでたいことなのだと、喜ぶべきなのだろうが。


思う通りに、ことが進むことをほくそ笑む……醜い自分を発見してしまう。わたし、本当に醜い。大切なふたりが幸せになることよりも、自分の保身。自分の環境が整うことを願うなんて。


課長を好きだった紅城さんが無事、荒石くんと結ばれて。つまり、課長は、紅城さんにこころを乱される可能性はなくなる。……なんて自分。醜い。悲しい。

いくら課長が言葉ではああ言っても、毎日、あんなにも美しい紅城さんを目にしては。見惚れるなと言われるほうが無茶だろう。……そう、わたしは、紅城さんに嫉妬をしている。こんなにも、課長に愛されているにも関わらず。


いったいわたしは、なにを求めているのだろう。課長の目から、魅力的な女性が消えうせること? 彼に恋する女が、地球上から滅亡すること……?


違う。


わたしは……。


その日も、相変わらずわたしは彼女を避けた。子どもっぽいな、と思いつつも、でも、幸せそうな紅城さんを何故か直視出来なかった。こんなにも彼女に嫉妬する……自分のこの感情がいったいなにに由来するのかが、分からなかった。


* * *


「……今日、荒石くんと話したよ。紅城さんとは、正式に交際をスタートさせたとのことだ。噂通りな」


「……そっか」


課長のことだから動くだろうと思ってはいた。おそらく、今日の昼休みにでも聞き出したに違いない。彼は、紅城さんの上司であるから、監督義務がある。合意のない交際であれば、問題だから。

「……表情が優れないな莉子。どうした?」


背後から抱き締めてくるあなたのぬくもりを感じながら、わたしは、


「……うまく言えない。でも、……紅城さん美人だから。それに、彼女は……」


「なぁに?」


聡い課長なら気づいているだろうに。彼女の気持ちに。……でも、幸せなふたりの生活に波風を立てたくなかった。


「美人過ぎて劣等感を抱いてる」


「ははは」と課長は笑った。「そんなの……。莉子。莉子は滅茶苦茶綺麗だよ。すごくすごく……美しい。世界で一番、綺麗だよ……」


「子どもっぽいこと質問してもいいですか」


「いいよ」と答える課長に、


「もし、……世界で、紅城さんとたったふたりになったとしたら、課長は、紅城さんを抱きますか?」


「いや。抱かない」


即答だった。そして課長は、


「もし、無人島にふたりきりだったとしたら……そうだな。荒石くんに渡したあれを使ってみるかもな」


課長なりのジョークにわたしは笑った。「そっか。目覚めるんだね。課長……」


「で。莉子のおまんこを思い返しながら、毎日毎日しこるのさ。死ぬまでずっとね」


「……課長」


「うん」

指を絡ませるあなたの動きも、心地よい。「……わたしを一番にしてくれてありがとう。あなたがいるから、わたし……生きていける」


「どういたしまして」音を立てて口づけ、やがてあなたはわたしのからだをまさぐるのだ。


* * *


そうして、平穏無事に週末が過ぎていき、明けて月曜を迎えたとき。――なにかが違う、と急にわたしは思った。わたしは、大事ななにかを見過ごしている……。


そう。


紅城さんの気持ちだ。


陰口を叩かれるわたしに――それからわたしの結婚式のことに、あんなふうに言ってくれた彼女。そんな親切で優しい彼女に、自分から友達になろうと持ち掛けたくせに勝手に距離を置いて。嫉妬して。……自分の愚かしさがつくづく情けなくなった。彼女のような善人なんてそうそういないのに……。


ここまで考えたところでわたしの思考はストップする。――彼女、表と裏の顔を使い分けている。課長も、それを認める趣旨の発言をしていたのではないか――。


ならば。わたしは、引き続き、紅城さんに距離を置くべき?

どうしよう。紅城さんがこの職場で働いていくのなら、ただの同僚。そういう関係を維持すべき――?


と思い至ったところで、自分のなかのなにかがその愚問を振り飛ばした。すごい勢いで。


そして、気が付けばわたしは、紅城さんに話しかけていた。


「今日、帰りにカフェでも寄っていきませんか? 話したいことがあるんです……」


* * *


差し向かいで座る紅城さんは相変わらず美しい。モデル雑誌から抜け出したかのような美しさだ。可憐で、華奢で。


けれど――彼女は派遣さんだから。例えば中野さんが着るみたいな、ものすごく仕立てのいい服を着ているというわけではない。安くてもきちんと見える。そういう服を選んでいる。服装からおおよそ――そのひとの趣味嗜好というものは読み取れるというもので。


「話ってなんですか?」


「正直に言います。ごめんなさい」とわたしは頭を下げた。「わたし、……紅城さんの気持ちに気づいたときに、紅城さんを避けた。課長を……紅城さんに奪われるのが怖かった。

課長が、あくまで職場の上司として紅城さんに接しているのは分かっていたけれど。でも、……紅城さんと課長が一緒なのを見ると胸がもやもやして……直視出来なかった。


自分から友達になってとか言っておいて、本当に、……ごめんなさい。


紅城さんがご迷惑でなければ、友達として……おつき合いをさせて頂ければと。


あ、職場は仕事をすべき場所。紅城さんが職場をそういう場所って割り切っていて、下手に関係深めたくないとかだったら無理にとは言わない。


わたし、……紅城さんに嫉妬しています。


ものすごく美人で。お洒落だし。頭もいいし。仕事も出来る。……わたし、紅城さんに劣等コンプレックスを抱いていたの。だから……避けた。女として負けてるなと思って……」


「……ふふ」紅城さんは小さく息をこぼす。なんだか、可笑しげといった調子で。「正直に打ち明けて貰えて嬉しい。……なら、あたしも正直に言うわね」


「はい」とわたしが背を正すと、紅城さんは、


「あたし、あなたのこと、だーいっきらい」


いままで見たことがないような小悪魔的な笑みで告げるのだ。


昨日、課長に抱かれました

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