テラーノベル
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夜の街は、相変わらず汚い。
ネオンが滲んで、
笑い声と怒号が混ざり合って、
どこもかしこも、濁っている。
「遅かったな」
低い声が、路地裏に響く。
「すみません」
短く返す。
目の前には、数人の男。
さっき佐久間さんを囲んでいた連中より、
よっぽど“質の悪い”やつらだ。
「例の件、どうなってる」
「もう片付けました」
淡々と答える。
感情は、乗せない。
乗せる必要もない。
「証拠は」
「残してません」
一瞬の沈黙。
それから、ふっと笑う気配。
「相変わらず、仕事が綺麗だな」
褒め言葉のはずなのに、
どこか気味が悪い。
「……どうも」
視線を逸らす。
そのとき
ズキッ、と鈍い痛みが走った。
「……っ」
さっきの喧嘩。
思ったより、浅くはなかったらしい。
「怪我してんのか」
「かすり傷です」
すぐに答える。
本当かどうかなんてどうでもいい。
「無茶するなよ。お前が潰れたら困る」
淡々とした声でそう言われた。
心配じゃない。
ただの“駒”としての価値の話。
「……わかってます」
短く返す。
話は、すぐに終わった。
用件だけ済ませて、
誰も余計なことは言わない。
それが、この世界のルールだ。
「じゃあな」
背を向ける。
足音が遠ざかる。
やがて、ひとりになった。
「……はぁ」
小さく、息を吐く。
ポケットからスマホを取り出して、時間を見る。
もう、かなり遅い。
「……帰るか」
ひとりでそう呟く。
でも、足はすぐに動かなかった。
頭に浮かんだのは
「……佐久間さん」
あの、震えた呼吸。
助けを求める声。
手を握ったときの、安心した反応。
「……っ」
胸の奥が、少しだけ痛む。
『やめてっ、その人に手を出すなっ……』
さっきの言葉が、蘇る。
普通なら、あの状況で他人を庇う余裕なんてないはずだった。
怖くて、逃げるだけで精一杯のはずなのに。
「……なんで、あんたが」
ぽつりと呟く。
俺のことなんて、何も知らないのに。
どうして、あんな声を出せるの?
どうして、あんなふうに―――
「…関わるべきじゃないのに」
はっきりしてる。
あの人は、“こっち側”の人間じゃない。
普通に生きてきて、
普通に働いて、
ただ事故に巻き込まれただけの人。
俺とは、違う。
彼は光に満ちた場所で生きている。
「……汚れる」
小さく、吐き捨てた。
自分の手を見る。
さっき殴った感触が、まだ残っている気がした。
血の匂いも、消えていない。
「……」
あの人に触れた手と、同じ手。
そう思った瞬間、わずかに眉をひそめる。
「……あの人の近くにいるべきは俺じゃない」
関われば関わるほど、
あの人を巻き込む。
この世界に。
この“暗闇”に。
頭ではわかってるのに。
『……また、会えますか』
あのときの声。
少しだけ、不安そうで。
でも、期待しているみたいな。
『…会えますよ』
自分で言った言葉が、蘇る。
「……馬鹿だな、俺」
苦笑する。
約束なんて、守れる立場じゃないのに。
それでも――
「守りたい、か」
ぽつりと零れる。
その言葉に、自分で驚く。
誰かを“守る”なんて、
そんな綺麗なこと、もう縁がないと思ってた。
「……」
またゆっくりと歩き出す。
夜の街を抜ける。
ビルの光が、背中に遠ざかっていく。
「……もう一回だけ」
小さく呟く。
「…次、会ったら」
そこで終わりにしよう。
そう決めた。
決めた、はずなのに。
胸の奥に残る感じたことのない温もりだけは、
どうしても消えなかった。
雪だるまひとひと💙
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コメント
1件
うわああ新話読み終えたよ…!😭💦 なんかもう、ここまで主人公の内面が描かれるとグっとくるね…。「汚れる」って自分の手を見るシーン、めっちゃ刺さった。自分は闇側の人間だって自覚してるのに、佐久間さんを守りたいとか「もう一回だけ」会いたいって思っちゃう気持ち、せつなすぎるよ…!この葛藤がたまらんのよなあ…!次の話も絶対読むからね!!🌸