「モンスターパニック現象」
それは空間の魔素濃度が濃くなり、上位の魔物が現れる現象。
これはゲームにおいては迷惑なイベント程度の認識であったが、現実では違う。
この世界での命は一度きり、一度死んでしまえば生涯が終わる。
俺とレイブンは一気に緊張感に包まなる。
「なんだよ……あれ?」
レイブンが目の前の、空間に浮かぶ黒い塊を見ながらそう呟く。
「モンスターパニック現象」から逃げることは不可能。
生き延びるためには出現する魔物を倒さなければならない。
「少なくとも、逃げられないことは確かだと思うよ……レイブン、知っているか?『モンスターパニック現象』を」
「?!そうか……これが」
俺が現象の名前を出した瞬間、驚きいつもしている余裕の表情が一切消える。
それもそうだ。
「モンスターパニック現象」はこの世界においては出会った瞬間死を表しているからだ。
さて……どうするか。
もう俺らに選択肢は残ってない。
戦う覚悟を決めるしかない。
「一応聞いておくけど、逃げる選択肢はあるのかな?」
「……逃げ切れると思うか?」
「そうだよね」
レイブンは一縷の望みをかけて俺に質問するが、無理だと断言する。
俺とレイブンはお互いにアイコンタクトをし、頷く。
「覚悟を決めるしかないだろ?まさか、天才様は怖気付いたのかな?」
「そんな訳ないだろう?」
俺の軽口にレイブンは右手で俺の肩を軽く叩きながらそう返してきた。
俺はこのやりとりで少し安心した。
レイブンは一切怖気付いていないし、平常心だ。
どんな魔物が現れるかわからない。
最低でもAランク以上。
レイブンがいれば多分倒せる。
もしかしたら俺がいなくても平気かもしれない。
だが、その考えは魔物が現れた瞬間、消え去った。
「あれは!!」
「アルト、知っているのか?」
俺らの目の前に現れたのはゲームでもかなりの上位種。
ファンタジー世界においては魔王の扱い、種類によっては上位に分類されるモンスター
。
オークキングが現れた。
俺はいち早く情報共有する為、魔物の正体をレイブンに教える。
「オークキング。Sランクの魔物だよ」
「?!」
「オークキング」その言葉はよっぽど驚いたのだろう、レイブンは驚くあまり声を出すことはなく、何故俺が知っているか、その疑問すら浮かばない。
だが、俺は思っていた以上に冷静であった。
オークキングはSランクに分類されるほど、強敵だ。
しかし、初期イベントを周回していた時に数回遭遇したから分かる。
オークキングは戦闘狂の一面を持っている。
『ソコニイルノハ下等生物デハナイカ?』
「「?!」」
現れたオークキングから言葉を発せられたことに俺とレイブンはそれぞれ違った理由で驚く。
レイブンは人間の言語を発したことに、俺はゲームと同じ言葉から。
これで確信した。
オークキングはゲームと同じ存在であると。
『ドウシタ?恐怖デ言葉モ話セナイカ……。コレダカラ下等生物ハダメダ』
「「?!」」
ドン!
オークキングが話し終わった瞬間、いきなり持っていた巨大な斧で切り掛かっているた。
俺は反射的に『見切り』を発動し、身体強化を使う。
俺は右にレイブンは左にそれぞれ回避した。
するとオークキングは俺とレイブンが回避したのに驚いたのか、少し思考し話し始める。
『今ノヲ避ケルトハ、アル程度ノ実力ガアルミタイダナ。フン、話アウタメノ時間ヲクレテヤロウ。セイゼイ我ヲ楽シマセテモラオウカ』
「何故?」
オングキングの提案にレイブンが反射的にか聞き返す。
その答えはすぐに返ってきた。
『理由ハナイ。暇ツブシダ」
「……そうか」
オークキングはこちらを見下すように、笑いながらそう言った。
レイブンはオークキングの返答にそう返しつつ、俺の方へと視線を向け、俺とレイブンはお互い頷きながら、オークキングを警戒しつつ、近づく。
『ソンナニ警戒シナクテモヨイ、サッサト集マルトイイ』
オークキングは俺の行動に対してそう言ってきた。
よほど舐めているのだろう。
でも、そんなオークキングの行動は正直ありがたかった。
ただ、襲ってくるだけのやつならおそらく俺もレイブンも死んでいた。
その結果にならなかったのはオークキングの性格のおかげだ。
俺とレイブンは歩く速さを上げ、オークキングから二十メートルほど離れた位置に集まる。
「どうするアルト?」
集まった後、レイブンが俺に問いかける。
レイブンは俺がモンスターパニック現象が起きてから的確な情報を提供したからか、この場を切り抜けるためには俺に頼った方がいい、そう判断したのだろう。
俺は考えつく、奴を倒す唯一の方法を伝える。
「レイブン、君の最大火力の魔法は発動までどのくらいかかる?」
「何故それを「早く答えろ」……6秒だ」
「そうか」
俺の質問にレイブンは訳を聞こうとするが、時間があまりないため、遮り回答を急かした。
レイブンには奥の手、最大火力の魔法がある。
「エレメンツ バース」と言う名のゲーム世界においての必殺の一撃。
だが、六秒か。ゲームでは発動時間はなかったのだが……。
だが、それは対して問題はない。俺がカバーすれば良いことだ。
運要素が強すぎるが、勝つためにはこれしかない。
俺とレイブン、それぞれの切り札。それを組み合わせることでこの場を切り抜けるための唯一の道。
「レイブン、オークキングが魔法を使用した瞬間、同じタイミングで君の最大火力の魔法を発動準備をしてくれ。俺が魔法発動までの時間を稼ぐ。おそらくそれが唯一奴を倒せる方法だ。それまでは君がメインでオークキングの相手を。俺が補助、妨害をする。その攻防で倒せれば良いが、おそらく無理だろうからな。オークキングが魔法を使わなきゃ、俺の魔力が尽きれば終わり。運要素が強すぎる作戦だが、どうする?」
「……わかった。君の提案するかけに乗ろうじゃないか」
レイブンは俺の作戦にフッと笑いながら了解した。
とても正気の沙汰ではないこの作戦。
本当の意味で絶体絶命。
でも、やるしかない。
そう判断し俺とレイブンは持っている剣を構えてオークキングへと対峙する。
オークキングは俺とレイブンの反応を見て笑いながら見ていた。
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