「相羅!ほ〜ら高い高ーい」
この18歳の男、草神晶は私の父親である。父親だが若いので、多少ハイテンションでも許す。もしこれが普通の30近い男がやっていたら、流石にキモすぎて0歳から父親を嫌ってしまうだろう。
「そんなに高くあげたら、相羅怖がっちゃうんじゃない?」
この17歳の女、草神ともみは私の母親である。17歳にしては年上の父より少し落ち着きがある人だ。まぁ、少し突拍子もないことを口にする人だが。
そして、私草神アイラは若い夫婦の間に生まれた、前世の記憶を持つ女の子だ。
2人の間に生まれてから早3ヶ月。もう挫折しそうになりそうな自分がいる。
というのも、毎日が退屈すぎるのだ。何をしても親のサポートが必要であり、自分1人では何もできないためほぼ身動きが取れない状態。
毎日両親の甘い声とお隣さんから聞こえる二つの泣き声に頭を抱えている。
そういえば、お隣さんも私と同じ年代で生まれたらしい。誕生日はあっちのほうが早いが、まぁ赤ん坊の泣き声というのは3年経っても悩まされるものだ。
それに、お隣さんは双子。この家より大変だろう。
「それにしても、相羅は全然泣かないねー。お隣さんはすっごい泣くのに」
母が父から私を奪い取る。父は少し悲しそうな顔をして私と母を追いかけてくる。
「たしかに、相羅は他の子と比べても全然泣かないよなぁ」
2人の会話を聞いて、やってしまったと思う。
前世の記憶を持っているからか、もう物心がついているからか、羞恥心があり泣くということを全くしなかった。子供が泣くのは当たり前。なんなら隣の双子の方が正常だというのに。
生まれてからというもの、私が普通の赤ん坊ではないということは誰にも知られたくないのだ。もちろん家族にも。
とくにこれといった理由はないが、バレると色々とめんどそうだからだ。私は面倒なことが嫌いだ。
だから、たとえ羞恥心に襲われたとしてもこれからは泣く頻度を多くして…いや、そんなことをしたらもっと怪しまれてしまう。
この会話を境に私がよく泣くようになってしまえば、前世の記憶があることがバレる。元も子もなくなってしまうのだ。
だから、私は決心した。
絶対に泣かない。人より泣かない子供だと両親に思わせればいいのだ。
我ながら天才的な発想だ。
それから、母の抱っこにより襲いかかってくる眠気と闘い、見事に負けた。
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