ある日。菊は目の前のスマホと格闘していた。
時は30分前に遡る。
「少し怠っていたら、もうこんなに雑草が…
掃除しなくては…!」
と思い、玄関近くで雑草駆除をしていた菊。
そこに、通りがかった黒いサングラスにマスクをした何とも怪しげな男が声をかけてきた。
「やあやあ、こんにちは」
「こんにちは……?」
「いやー、つい可愛いから声をかけちゃった、いつもはこんなことしないんだけどねー?ふふ」
「かわ、…!?ひ、人違いでは…?!
あ、あとく、くく口説かれても私はそんな靡かないですからね!?」
「人違いじゃないんだけどなぁ、他に誰もいないし…そんな言うならお兄さんが靡くような口説き方教えて?」
「そんなもの知りません!!!」
「もー冷たいなぁー、まあいいや、口説きはもしかしたらあるかなー程度で言っただけだから気にしないでいいよ」
「もしかしたら、って…」
「で、これを紹介したくて」
と男は自身の持っていたスマホの画面を菊に見せる。
「何ですかこれ…??〝AI彼女〟…??」
「そう、その名の通りだけど、AIが彼女っぽく振る舞ってくれて、会話内容とか頻度でレベルがどんどん上がってくものなんだー」
「申し訳ないのですが私は必要としてませんから、お引き取りくだ────」
「もしレベル50を達成したら…高級塩鮭とかの豪華賞品をゲットできちゃう!」
「な…!!本当ですか!?」
「もちろん!だから、やってみない?」
「やります!!」
即答する菊であった。
「うーん……これを、こうして、そしたら、……
!!できました…!」
何とか設定をできた菊は、とても嬉しそうな表情になった。お花が舞っているように見えるほど。
そして早速AIと会話をしてみる。
『こんにちは 初めまして、菊と申します。このような経験は初めてですが、何卒よろしくお願い致します。』
『菊さんですね!はじめまして!(AIにちなんで)あいです!あーちゃんって呼んでね♡』
『あーちゃんさんですね』
『もー!〝さん〟は、めー!だよ!』
『申し訳ございません、恐れ入りますが……
あーちゃん、ですね』
『そー!よろしくね♡』
『よろしくお願い致します』
「む…何とも難しいですね……〝あーちゃん〟……
いえ、ここでめげていてたら駄目です…!日本男児たるもの…そして…高級塩鮭のために…!!」
数日後。
菊の〝あーちゃん〟のレベルは45に達した。
「あと5ですね、もうひと踏ん張りです!」
その目は輝いていた。
『そういえば聞いてなかったんだけどー、
きーくん(※菊)ってどんなことが好きー?』
『そうですね……料理や掃除、といったところでしょうか』
『そーじゃなくて!
女の子に…ほら、あーちゃんにしてほしいこと…何かない…?♡』
『特には……基本私が全て致しますよ?
もし何かあれば仰ってくださいね』
『きゃー!!!♡♡
じゃあ、……』
『…?
どうぞ…?』
『股下10cmのメイド服を着た姿全身360°全方位のと上下のアングルの写真送って欲しいな♡あとお風呂上がりの拭いていない状態で5ミリ以下の厚さの布のバスローブ羽織って胸元ちょい見せで♡これはM字にした脚の面ををベッドにつけるような体勢でね♡あもちろん自撮りが嬉しい♡♡ボイスメッセージもつけてくれるともっと好感度上がっちゃうよ♡愛の込めたメッセージでね♡それと鎖骨あたりから撮ったものでいいから裸の写真も付けて♡もっと言っちゃうとー♡──────』
「メイド服……バスローブ……胸元…裸………」
ぷしゅぅぅぅぅ……と音が聞こえてきそうなほど熟れたりんごのように顔を真っ赤にした菊はスマホを気絶し倒れた。
アーサーは画面の前で呟く。
「あれ、返信来なくなった」
「ちょっとやり過ぎあるよ……」
「ヴェ…菊気づかなかったねー…俺でも気づくよ…」
「こんな素直にぶつけること殆どなかったんじゃないか?」
「確かにな!」
「僕にもやらせてほしかったなあ……僕菊くんを上手に誘ったのに…ねえ?」
「ヒッ……わわわわわ悪かったな……
これは……そのー……つい…夢中になって……」
「次はよろしくね?アーサーくん」
「わーってるよ…」
「……次ってないんじゃない?」
「…………」