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第六話 「屋上の約束」
『次は——屋上で会おう。』
ノートの文字を見つめるうちに、
胸の奥がざわざわと熱くなった。
このメッセージが、“誰かの叫び”みたいに思えた。
怜と美園と目を合わせる。
「行こう、屋上へ。」
階段を上がるたびに、空気が冷たくなっていく。
夜の学校の屋上なんて、
普通なら怖くて近づけないはずなのに——
今は、なぜか“行かなきゃいけない気がした”。
屋上のドアは、錆びついた金属音をたてて開いた。
風が髪を揺らす。
夜空には雲ひとつなく、
満月が校庭を照らしていた。
「……誰も、いないね。」
美園の声が震える。
でも、その瞬間だった。
風に乗って、
“鈴の音”が聞こえた。
チリン──。
「……この音、覚えてる。」
美園が顔を上げた。
「お姉ちゃんがいつも、カバンにつけてた鈴の音……!」
屋上の柵の近くに、
小さな紙片が貼られていた。
怜がそっと剥がして読む。
『ごめんなさい。私が、あの子を——。』
風が一瞬止まる。
「……“あの子”?」
私がつぶやいた瞬間、
怜の表情が凍りついた。
「紬……これ、裏にも何か書いてある。」
『——白石紬。あなたも、呼ばれてる。』
「え……?」
ドクン、と心臓が跳ねる。
足元が少し揺らいだ気がした。
その時——耳元で、また“あの声”がした。
「紬、思い出して。あなたも、あの放課後にいたの。」
「……なに、それ……? 私、知らない……」
でも、頭の奥にチラッと浮かぶ景色があった。
夕焼けに染まる廊下、
理科準備室の扉、
そして——泣いていた女の子。
怜が私の肩をつかむ。
「紬、しっかり! 何を思い出した!?」
「私……知ってるかもしれない。
1年前、ここで……何か、見たんだ。」
美園が涙をこぼす。
「紬……もしかして、うちの姉と——?」
風が強く吹き抜けた。
夜空に舞う紙片の中、
私の足元にひとつだけ残ったメモ。
『最後の放課後は、もう一度始まる。』