第七話 「1年前の記憶」
『最後の放課後は、もう一度始まる。』
その言葉が、私の心の奥を叩いた。
“もう一度始まる”——それはつまり、
まだ終わっていないということ。
私はゆっくりと目を閉じた。
風の音が遠ざかり、
まるで夢の中へ引きずり込まれるように——
あの日の“放課後”が、甦った。
夕焼け色の教室。
1年前、私は理科準備室の前に立っていた。
「……美咲先輩、本当に、誰かを待ってるんですか?」
笑って問いかけた私に、
彼女は少し困ったように微笑んだ。
「うん。『放課後に来て』って言われたの。
でもね、どこか悲しい声だったの。
誰かが助けを求めてるみたいに。」
その瞬間、背後で“カタン”と音がして、
扉が勝手に閉まった。
次に開いたとき——もう彼女の姿はなかった。
「……そうだ。私、見たんだ。」
屋上で現実に戻った私は、
怜と美園の顔を見つめた。
「1年前の放課後、私は美咲先輩に会ってた。
でも……扉が閉まって、気がついたらいなかったの。」
美園が唇を噛む。
「じゃあ……“放課後に呼ばれた”のは、最初はお姉ちゃんじゃなくて……」
「——私。」
私の言葉に、夜の風が止まった。
怜の瞳が、月の光を反射して光る。
「紬……君が“最初の呼ばれた人”なんだ。」
その時、ポケットの中のスマホが震えた。
画面を見ると、通知がひとつ。
差出人不明のメッセージ。
『紬、やっと思い出してくれたね。
約束、果たそう。屋上で待ってる。——M』
「“M”……美咲、先輩?」
美園が震える声でつぶやく。
怜が真剣な表情でスマホを見つめた。
「でも、これは……“今”届いてる。
送信時刻、23:48。」
「嘘でしょ……1年前に消えた人から、今……!?」
月の光が強くなった。
風が渦を巻き、
屋上の扉がひとりでに開いた。
その向こうに、
白いリボンをつけた“誰か”の影が立っていた。
そして、その影は、
確かに“私”の名前を呼んだ。
「——紬。」
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