テラーノベル
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僕は庭の植木の根元に潜っていた。
体を丸くして、小さくなって隠れている。
シュメリに見付からないように。
事の発端は、朝ご飯の時だ。
シュメリがバルトに、ブラックゴールドのブレスレッドを手渡した。
「魔力の出力が楽になる。回復も速まるよ」
そう言って、バルトの左手首に付けた。
「やはりバルトは黒が似合うね」
「黒髪黒目だからだろ」
バルトの見た目はアスランズ王国では珍しい。
亜麻色や茶系の髪と目が多い中で、黒目黒髪は目立つ。
「もしかして、だから森に住んでいたの?」
「それもあるけどな。それだけじゃねぇよ」
バルトがシュメリから目を逸らした。
「なるほど、前職の関係かな。あまり深堀しないでおこうか」
バルトは暗殺業を廃止した。
魔術師団に入れば、木こりと暗殺業の倍以上の収入になる。
「で、なんでこんなに豪華な魔道具を急にくれる気になったんだ」
バルトが腕を上げて、まじまじとブレスレットを眺めた。
「あぁ、それはね」
シュメリが、パチンと指を鳴らした。
バルトの首に巻かれていた首輪が、パンと弾けた。
「就職祝いさ」
シュメリがニコリと笑んだ。
「首輪の代わりか」
バルトが、久々に首輪の外れた自分の首を摩っている。
「小細工は魔力関係以外、していないよ。君がこの家を出て森に帰っても、私は止められない」
バルトが、シュメリを睨んだ。
「嫌な言い方しやがるな」
「リンネがいる限り、どこにもいかないと信じているよ」
「まぁ……今はな」
含みのある言い方をして、バルトがグラスを傾けた。
その一部始終を、僕はお肉を食べながら眺めていた。
(シュメバル……シュメバルー!)
買い物では起きなかったイベントが、遅れてきた。
しかも、アクセの豪華さが上がってる。
(愛が、育まれている? それとも、友情?)
僕の胸はドキワクしていた。
シュメバルが大好きだから、近くで見るとやっぱり嬉しい。
だけど、複雑にもなるわけで。
(記憶戻っちゃうから、仲良くなっちゃ、ダメだけど。でも、シュメバル嬉しい。でもでも、シュメリには僕を見て欲しい……)
色んなことを考えたら、脳がヒートアップした。
「うにゃ」
猫の頃の癖で、鳴き声出ちゃった。
そのまま、僕はテーブルに突っ伏した。
「どうしたんだい、リンネ。また調子が悪い?」
「ちがう。そうじゃ、なくて」
「食事が終わったら、ベッドに行こう。休んだほうがいい」
「え!」
僕は身構えた。
夜寝る時は良いけど、一日中ベッドは嫌だ。
前世の感覚が蘇る。
「その辺、走ってたほうが、リンネは元気になるぞ」
パンを摘まみながら、バルトが指摘する。
僕は思い切り何度も頷いた。
「発熱したばかりなんだ。無理はさせられないよ」
シュメリが折れてくれない。
いつもは僕に合わせてくれるのに。
「さぁ、リンネ。少し休もう」
シュメリがじわじわと距離を詰めてくる。
僕は立ち上がり、後ろに下がった。
「ベッド、嫌!」
そう叫んで、バルコニーから庭に飛び降りた。
「リンネ、危ない!」
「獣人だから、この程度の高さは問題ない」
バルトの冷静な声が聞こえる。
僕は食堂を飛び出して、木々が茂る庭に飛び込んだ。
そうして、今に至るわけだけど。
ここなら、きっとシュメリにも見付からない。
改めて、朝のシュメバルを思い出した。
(シュメリがバルトの腕にブレスレットを付けるシーン、良かったな)
思わず顔が緩む。
小説の中でも、僕が好きなシーンだ。
「はっ……喜んじゃいけないんだ」
小説通りに進んだら、僕の記憶が……と考えて、僕は思考を止めた。
「今更、じゃない?」
この世界は小説の正規ルートから外れている。
今日のシーンだって、恋って感じじゃなかった。
小説だと、この時点で二人は恋人寸前まで恋心を育てているはずだもん。
(僕が入り込んで、小説の内容は変わった)
だから、同じ展開はないんだ。
だったら、僕の記憶が戻る心配は、ないのでは?
(そういう意味では、安心だけど)
「あにゃふぅ」
猫みたいな溜息が出た。
「僕、どうすればいいんだろう」
このまま、記憶を探すことなく、今のままで、ここにいる。
それでいいんだろうか。
僕の中に、時々浮かんでくる会話や光景。
あれが昔の記憶なのか、前世の夢なのか。
僕にもわからない。
真実がどうだったとしても。
今の僕の願いは。
(シュメリとバルトと三人で、この御屋敷で暮らすこと)
充分すぎるくらい、幸せ。
今は、その幸せを守ることだけ、考えよう。
(本当は、知りたいけど)
シュメリと何を約束したのかが、一番気になるんだ。
けど、それは知っちゃダメだから。
「あにゃ、あにゃ」
僕は土の上でゴロンゴロンした。
忘れる。
知りたいって思ってる自分も、忘れること。
はい、忘れた。
「はぁ……自在に猫になれたらなぁ」
夢の中では、何も考えずにできていたのに。
どうして今は、できないんだろう。
僕は茂みの中で仰向けになった。
葉っぱの合間に見える空は水色だ。
もらったリボンと同じ色をしている。
「また、シュメリと雲を探したいなぁ」
「探そうか」
「え?」
「美味しそうな雲、探そう。その前に、お風呂だけどね」
いつの間にか、隣にシュメリが屈んでいた。
「きゃぁああ!」
僕は悲鳴を上げて木の幹に抱き付いた。
「ここで暴れたら、バルトが綺麗にしてくれた植木が台無しだよ」
首根っこを掴んで引き摺りだされた。
「うわぁん、ごめんなさい」
「最近のリンネは、悪い子だね。𠮟り甲斐があるよ」
「いやぁ」
シュメリがとても楽しそうだ。
笑っているから、余計に怖い。
「さぁ、行こうか。バルトがお風呂の準備をして待っているよ」
「何でバレてるのぉ」
「さぁ、どうしてだろうね」
シュメリがチョーカーのリボンを、ちょんちょんと指で突いた。
「このリボンで、居場所までわかるの?」
「んー、どうかな」
シュメリがはっきり教えてくれない。
けど、きっとそうだ。
僕はぷっくりと頬を膨らませた。
「狡い」
「これは愛だよ」
「それも狡い」
泥だらけの僕を抱いて、シュメリが笑う。
こういう時のシュメリは、すごく楽しそうなんだ。
だから、あんまり怒る気になれなくて。
僕はシュメリの首に抱き付いた。
コメント
1件
タイトル回収キターー!😭💕 シュメリが首輪外すタイミングで「就職祝い」って…もうね、痺れたよ!バルトの首を摩る仕草とか、リンネの「シュメバル…!」って内心叫ぶ感じとか、全部エモすぎて何度も読み返したよ🎀 でもリンネの「喜んじゃいけない」って複雑な気持ちも可愛くて切ない🥺 シュメリに追いかけられて「ベッド嫌!」って逃げるとこ、泥だらけで抱きつくラストの「これは愛だよ」の返しに完全ノックアウトされました…尊い…✨
お股ポテト
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はるにし
72