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それから暫く、時間を忘れブライトと他愛もない話をしていた。最初はお互い敬語だったのだが、いつの間にか砕けた口調になっていた。ブライトの敬語が外れることはなかったが、出会った当初よりも柔らかくなっていた。

私は彼と話すのが楽しかった。彼もまた、私と話をするのが楽しいと思ってくれていたら……そう思っていた時、不意に後ろの方から声をかけられた。


「おい」

「……ひッ」


振り向くとそこには、見覚えのある人物が立っていた。

眩いゆい金髪に赤い瞳とばっちり目が合った。それは、紛れもなく元彼……皇太子リース・グリューエンだった。彼は眉間にシワを寄せ、不機嫌そうな表情で私達を見ていた。

ブライトは、リースに挨拶をするがそれすら気に入らないのかリースは私の事を抱き寄せ彼に威嚇するよう赤い瞳を鋭くさせた。


「ちょ、ちょっと」

「何を話してた?」

「別に……世間話? とか……ねえ、そんな睨まないでよ。怖い」


私がそういうと、リースは更に私を強く抱きしめてきた。腰に回された腕から逃れることは出来ず私は肘で彼の胸をつつくが、厚い胸板にはダメージが入っていないように思えた。

さすが、私の推し。いい身体してる……何て思いつつ、それがこの状況では最悪で、どうにかして彼から離れようと思考を巡らせた。

しかし、ここで暴れたら他の貴族達にも気づかれまた奇異の目を向けられるだろうと私は考えた。

ここは、我慢するしかないのか。


「私が何処で誰と話そうが私の勝手じゃない。それに、私の為のパーティーなら尚更!」

「人見知りで、ろくに会話も出来ないお前がか?」


痛いとこ突かれたなあ、なんて思いつつも確かにその通りなので何も言い返せない。

リースは、ブライトがこのゲームの攻略キャラと言うことを知らないから、私が異性と喋っている事に驚いているのだろう。彼が攻略キャラでなければこんなにも長く話す事なんてないだろうから……それに、別に私から話しかけたわけじゃないし。

でも、彼はそんなことも知らずに何故か嫉妬している。別れたんだけどなあ……とリースを見るが、完全に嫉妬の渦に呑み込まれた赤い瞳を見て私は視線を逸らした。

束縛されるのは好きじゃない。束縛ヤンデレは二次元限定にして欲しい。

しかし、そんなことより今はまずはこの状況を何とかしなければならない。

私はブライトの方をちらりと見ると、彼は困ったような顔をしていた。

そうだよね、アンタは何も悪くないし、とばっちりだね……ごめん。いや、私も悪くないんだけど。

私は心の中でブライトに謝ると、私は彼の方を向いて口を開いたが、それを遮るようにリースが言葉を重ねた。


「疲れただろ。部屋を用意したからそこで休むといい」

「主役が出て行ってもいいの?」


本音を言うと、出て行きたいのだが、主役である為そうは行かないだろうとリースを見る。

話題を変えて、清々しい顔をしているリースには腹が立ち足を踏んでやろうかと思った。しかし、中身が元彼であれ推しの身体。傷つけるわけにはいかないと踏みとどまった。


「ああ……今日ここに来た奴らはお前をいい風に思っていない」

「……だから?」

「今すぐにでも首を切り落としたいぐらいに、俺は苛立っているんだが……」


物騒なこと言わないでよ! と言いたかったが、下手に刺激するとまずいと口をつぐむ。

腰に下げていた剣に手をかけているところを見ると、どうやら本当らしい。

リース、もといい元彼は私と同じで人の視線に敏感だった。だが、その言い風に思っていないとかそういう目を向けられたのは私なんだけど。何故、彼が怒っているのか分からなかった。

関係無いはずなのに。


「ありがと……でも、ここを血の海にするのはちょっと……ほら、私ってグロいのとか痛いの無理だし」

「……そう、だったな」


と、言ってくれたもののやはり納得していないようで眉間にシワを寄せたまま私を見ていた。

現世では首をはねるだの絶対あり得ないだろうなと思いつつも、私は彼が彼なりに私の事気遣ってくれているのだと、分かった。

別れてからも、彼は私を気にかけてくれていて、本当は優しいのだ。まあ、それは前世から知っていたし、変わりないけど。

考え方が結構物騒なんだよね。


「じゃあ、お言葉に甘えて休ませて貰おうかな……」

「ああ。俺はまだ席を外せないからな」

「そう……大変だね」

「寂しいのか? なら、後で部屋に来ればいい。俺がお前の元に行ってもいいが」


誰が行くか、来るな、と叫びそうになるのを抑え結構です、と答え私は踵を返す。


「あ、ブライト」

「何ですか?エトワール様」

「お話できて凄く楽しかった。ありがとう」

「こちらこそ。とても楽しい時間でした」


そういって微笑むブライトの好感度は7に上昇し、私は心の中でガッツポーズを決めた。

本当に、芸術作品のように美しい顔立ちをしている。リースには負けるけど、それでも美形だと思う。

ブライトのこの整った綺麗で爽やかな笑顔は、ゲームをやっていても何度か胸に刺さっている。


「エトワール様」


会場から出て行こうとすると、ブライトに呼び止められ私は振返る。

何か用だろうかと不思議に思いながら彼を見ると、先程までの表情とは打って変わって真剣な顔をしていた。


「また、こうして二人で会えますか?」


ブライトの言葉に思わず目を見開く。まさか、こんなことを言われるなんて思ってもなかったから。……というより、そんな事を言われたのは初めてで少し嬉しく思った。


「そ、れは……どういう意味?」

「そのままの意味です。僕は貴方のことをもっと知りたいです」


私は一旦落ち着き、ブライトの好感度を確認し彼が私に求めているのが愛情でも好意でもなく、単純な興味であることを悟った。

そりゃそうだ。好感度は7なのだから。

しかし、異性からまた話したい、貴方のことを知りたいと言われたら誰だって嬉しいはずだ。

それに、これはある意味チャンスでもある。

自分から話しかけに行くのが苦手な私にとって、攻略キャラから話しかけにきてくれるのはこれ以上ない好条件。それに、彼は私に興味があるようだし、ここで上手くやればブライトの攻略も早まるかもしれない。するかしないかは、また別としてあげていて損はない筈だ。

私は内心ほくそ笑みながらも、平然を装い口を開く。


「はい! 勿論! 私もブライトと話がした……」

「エトワール」


私が返事をしようとすると、それを遮るようにリースが口を開く。

リースのその行動に、ブライトは驚いたような顔をしていたが、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻った。

そして、リースに視線を移すとリースはかなり苛立った様子で私を見、それからブライトを睨み付けた。嫉妬の火の粉が飛んできて熱い。


「そ、それじゃあ私はこれで。また」


と、私はその場から逃げるように小走りで去った。後ろからは、二人の話し声が聞こえてきたが、怖くて振向くことが出来なかった。

他の攻略キャラの攻略はリースがいないところで進めようと、私は思い屋敷に向かって走った。


乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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