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「到着まで、残り三十秒デス。」
ミトラの声が、遠くで響いた。
「三十秒って、今さらカウントいる?」
「雰囲気や。」
リリがそう返した、その瞬間だった。
ーー世界が、止まった。
音が消える。
風も、足音も、呼吸すらない。
「…?」
リリの姿が、走る体勢のまま静止している。
ミトラも、片足を上げたまま固まっていた。
「え、なにこれ。」
そのとき。
《あ、やっぱり気づくよね。》
声だけが、頭の中に響いた。
「…この感じ、」
嫌な予感が、確信に変わる。
「まさか。」
《正解!》
視界が、内側に反転する。
白い空間。
でもさっきと違って、“外”じゃない。
ーー脳内だ。
そこに、白パーカーにサンダルの男が立っていた。
「やあ。」
「…神(?)」
「一応ね。」
「一応って言うな!」
俺は叫んだ。
「外、止まってるんだけど!?」
「止めた。」
「さらっと!?」
神は、悪びれもせず手を振る。
「安心して。今この瞬間、世界は一フレームも進んでない。」
「リリは?」
「彼女は“私”を認識できない。」
「…そういう存在かよ。」
「便利でしょ。」
便利で済ますな。
「で、なんの用だよ。今めちゃくちゃ大事な場面なんだけど。」
「いや~。」
神は頭をかく。
「オラクルの話、今さら聞いてたでしょ?」
「…聞いてたな。」
「あれ見てさ、」
神は、ちょっと笑う。
「あ、この主人公、説明なしでラスボスに突っ込んでるなって。」
「原因お前だろ!」
「細かいことは気にしない!」
俺は深く息を吸った。
「なあ、俺、ちゃんと世界救えるのか?」
神は、少しだけ真面目な顔をした。
「さあ。」
「…は?」
「でもね、“正しく救う”より、“予定を壊す”方が向いてる。」
「それ、救世主じゃなくて厄介者だろ。」
「オラクル視点では、完全にそう。だから面白い。」
「…娯楽扱いすんな。」
「してないよ。君が、笑わない世界で笑おうとしたのが、一番のイレギュラーなんだ。」
その言葉が、妙に胸に残った。
「そろそろ戻すね。」
「ちょっと待て!一つだけ聞かせろ!」
神は立ち止まる。
「俺が死んだの、あれ…本当に事故か?」
神は、にっこり笑った。
「それは、もう少し進んでから。」
指を鳴らす音が、脳内で響いた。
ーーーー
「ーーっ!」
音が、一気に戻る。
足音。
警告音。
リリの声。
「何ボーっとしとんねん!置いてくで!」
「い、今行く!」
心臓が、やけにうるさい。
「…なあリリ。」
走りながら、聞く。
「なんや?」
「もしさ、この世界の“神”がいたとして。」
「は?急になんの話や。」
「いや、なんでもない。」
リリは首をかしげる。
「変なやっちゃな、ほんま。」
その言葉を聞いて、俺は確信した。
あいつは、多分、一番信用できない存在だ。
前方に、重たい鉄の扉が見えてきた。
「着いた。」
リリの声が、少し強張る。
「ここが、反オラクル派のアジトや。」
俺は、扉を見つめながら、脳内の白い空間を思い出した。
予定通りじゃないなら、まだ勝ち目はある。